第26話 ヘアピンと告白



「ねぇ、ハヤト! コレ、いつ渡すの!」


 その後、学校が終わって家に帰る途中、いきなり飛び出してきたララに、俺は驚いた。


 今日の昼休み、花村さんも誘って一緒にサッカーをしたけど、その後から、ララはずっと腕輪の中から話しかけてきた。


 『渡すなら、今だよー』とか『なんで、渡さないのー』とか。おかげで俺は、授業に集中できず……


「ララ。学校では、話せないっていっただろ」


「だってー、昼休みのハヤト、スゴくかっこよかったから渡すなら今だと思ったのに、何でこのヘアピン、渡さないの!」


 そう言って、目の前に、ズイッと青いヘアピンを差し出してきた。


 この前、アランと一緒に買い物に行った時に見つけたヘアピンのキット。


 ララの服を二着作ったあと、何気なしに作ってみたはいいけど、作ってから思った。


 これを女子に渡すのは、めちゃくちゃ恥ずかしいぞ!って。


「あのなぁ、男子から女子に、物をあげるって、けっこう気を使うんだぞ」


「えー! でも、せっかく作ったのに~」


 残念そうなララ。


 そんなララをあしらいながら、俺は、ヘアピンを受け取ると、改めて、それを見つめた。


 図書室で話した時『本当は、前髪をあげたい』と言っていた、花村さん。


 だから、少しでも背中を押せればと思ったんだけど……


「やっぱり、渡せるわけないよな」


「威世くん!」


「わ!?」


 だけど、その時、突然、後ろから声をかけられて、俺はあわてて、ララを腕輪の中に隠した。


 誰かと思って振り返れば、そこには、なぜか、花村さんがいた。


 走ってきたのか、息を切らした花村さんは、俺の顔を見るなり


「昼休みは、ありがとう!」


 そう言って、頭を下げた。


 その言葉に、昼間のサッカーの話をしてるんだと思って、俺は住宅街の真ん中で立ち尽くした。


 もしかして、わざわざお礼を言うために、走ってきたのかな?


「あのね。今日、みんなと一緒にサッカーできて、すごく楽しかったの。威世くんのおかげ……本当にありがとう!」


 感謝の言葉を改めて言われて、ちょっと胸が熱くなった。


 よかった。

 花村さん、喜んでくれたんだ。


「でも……なんで、私がサッカー好きだって知ってたの?」


「え?」

 

 だけど、次に言われた言葉に、俺は思わず固まってしまった。


 あ、そうだった。


 この前のこと、アランに記憶を消されちゃたから、花村さん、覚えてないんだった!


(ど、どうしよう。一緒にガイコツに追いかけられたなんて言っても、信じるわけないし)


 でも、あの時『可愛いものが好きだ』って、打ちあけたあの言葉も、全部忘れられてしまったのかと思うと、なんだか少し、悲しくなった。


「あのさ……花村さん」


 夕方の通学路は、いつもより静かで、俺は、花村さんの顔を見つめると、思い切って──告白することにした。


「俺、花村さんに謝らないといけないことがある! 前に、俺が落とした、あのウサギのぬいぐるみ。あれ本当は、なんだ!」


「え?」


 風か吹けば、普段は見えにくい花村さんの顔が、前髪の隙間からかすかに見えた。


 すごく驚いているように見えた。

 でも、俺は、しっかりと花村さんを見つめると


「ゴメン! あの時は、妹のって言ったけど、本当は俺のぬいぐるみで、俺、実は可愛いものが大好きで、裁縫が趣味で、クラスで言われてるようなカッコイイ奴じゃ全然ない!」


 ひとしきり話して、グッと息をつめた。


 でも、花村さんの返答は、もうわかっていたから、俺はそのまま、花村さんの前まで歩みよると、ポケットの中から、青いヘアピンを取り出した。


 ラッピングなんてされてない、むき出しのヘアピン。


 今思えば、袋にくらい入れておけばよかった。


「これ……」


「え?」


「あの時、花村さんが言ってくれた言葉、すごく嬉しかったんだ。それなのに俺、今まで、花村さんが一人でいるの分かってて、何もしようとしなかった。ゴメン。あれじゃ、無視してたのと同じだ」


 一番、謝らなきゃいけないことを謝れば、花村さんは、俺を見つめたまま黙り込んだ。


「ゴメン、本当に……もっと早く、勇気を出せていたら良かった。だから、これは、そのお詫びというか、お礼というか……俺の友達が言ってたんだ。『世界を変えるのは、たった一人の勇気から始まる』って。俺、今日、花村さんに声かけて良かったって思った。勇気を出して、よかったって思った。なんだか、変われた気がするんだ。だから、花村さんも、もし勇気を出したいなって思ったら、これ使って……前に、前髪あげたいって言ってただろ」


「……うん。もしかして、これ威世くんが作ったの?」


「あ、うん、そうだけど……て! 別にムリに使わなくても良いから! 気に入らなければ、捨ててもいいし!」


「あはは」


 すると、花村さんは急に笑い出した。

 まるで、お花みたいに可愛らしく。


「捨てたりしないよ。私の……宝物にする」


 そう言って、ヘアピンを受け取った花村さんは、大切そうに、手の中の包み込んだ。


 それを見て、なんだか凄く恥ずかしくなった。


 だって『宝物』は、ちょっと大げさなんじゃないかな?



「やっ~~と、見つけたわ!!」

「「!?」」


 だけど、その時、いきなり甲高い女の人の声が聞こえた。


 驚いて、キョロキョロと辺りを見回せば、屋根の上に人がいるのが見えた。


 前に、魔王配下の幹部だとか言っていた、あのカエル女とヘビ男だ!


「あ! お前ら!? 冥界でリフレッシュ中だったんじゃ!?」


「もう、終わったわよ!」


 あ、そっか。あれから一ヶ月たったから、幹部たち、みんな魔界に帰ってきんだ!


 あれ? でも、俺のことは、もうアランじゃないって分かってるはずなのに、なんでコイツら、俺のところに来たんだ?


「少年! 君は、アラン様のらしいな!」


「……っ」


 すると、ヘビ男がそういって。


 あ、なんか、すっげー嫌な予感がする!!




 

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