第11話 シャルロッテとカール
それは、確かにシャルロッテさんとカールさんだった。
だけど、昨日みたいな人形の姿じゃなくて、俺と同じ人間の姿をした二人。
「シャルロッテ、カール! 貴様ら、もう実体化できるようになったのか!?」
すると、ヘビ男がそういって
「当然でしょう。我々の
そう、カールさんが答えた。
余裕そうな笑みをうかべて、昨日ボロボロだったのが、嘘みたいに。
「だいたい、幹部が六人もそろって、一人の子供に翻弄されるとは、魔王様の部下として、恥ずかしくないのですか?」
「うるさいわぁぁッ! 言っとくが、相手は、あのアラン様だぞ! そう簡単に捕まえられるわけが」
「この子は、アラン様ではありませんよ」
昨日シャルロッテがいったように、今度はカールさんがそう言って、ヘビ男がキーッと表情を変えた。
「まだ、いうか!? その波長は、間違いなくアラン様だ! なにより、お前たちが守っているのが、その証拠だろうがあぁぁぁ」
ヘビ男は、すごく怒っているみたいだった。でも、カールさんは呆れたようにため息を吐くと、懐からもう一丁拳銃を取り出し
「守るのは当然ですよ。なぜなら彼は──
「「私たちの恩人だから!」」
──ドォォン!!
瞬間、声を合わせた二人は、拳銃と傘で一斉に魔族たちに攻撃をしかけた。
カールさんは二丁の拳銃を手にして、シャルロッテさんも、傘の先から銃弾が飛び出すような特殊な傘を持っていて、その銃口は、次々に幹部たちに命中し、またたく間にねじ伏せていく。
「くッ……たかだか人形の分際でぇッ! だが、ここは私の
「ムリだと思うよ」
だけど、そこに、また別の声が聞こえた。
どこか楽しそうな子供の声。
その声を聞いて、幹部たちが、一斉に空を見上げた。
現実の世界では、もう夕方なのに、いっこうに日が暮れないこの世界の空は、とても青かった。
そして、その青空の中、空中に浮かぶその声の持ち主は、分厚い一冊の本を手にして、俺達を見下ろしていた。
「「ア――アラン様⁉」」
すると、幹部たちがアランを見て驚いた。
だよな! だって、アランだと思っていた俺とは別に、もう一人アランが現れたんだから!
「ア、アラン様が、なぜそこに!?」
「カールが言ったでしょ。その子は僕じゃないよって。それに、メビウスの結界はもう、役に立たないよ」
「え?」
「だって、ここはもう──僕の
そういって、クスリと笑ったアランは、開いた本に手をかざした。
すると、空の上に、町をのみこむ程の大きな魔法陣があらわれた。
青い空に浮き上がる、金色の円陣。
それには、見たこともないような文字がたくさん刻まれていく。
『大地の精霊よ。我が血と盟約もと、その命にしたがえ。緑の書・第18番──
アランが、呪文のようなものを唱えた瞬間、その魔法陣からから、植物のツタが一斉に伸びてきた。四方八方に、散らばるそのツタは、幹部たちをおいかけ、次々に宙づりにしていく。
それに、あの植物なら、見たことがあった。アイビーっていう名前の、うちの家にもある観葉植物だ!
(ス……スゲー)
目の前の光景にあぜんとする。
ヘビ男もカエル女も、ライオンの姿をした大男も、アランの前にはなす術がなかった。
そして、それから、しばらくして、六人全員が、ひとまとめになると、その前に、アランがトンッと、空の上から降りたった。
まるで、見えない羽でもついてるんじゃないかってくらい、軽やかに。
「さてと! これから、どうしようかな?」
いまだに本は閉じずに、アランが魔族たちを見つめる。
魔族たちは、みんな青い顔をしていた。
まるで、叱られた子供みたいに。
「ア、アラン様! 我らは、貴方様のために言っているのですよ!」
「そうですよ! もう、このようなお人形遊びは、おやめください! あなた様は、いずれ魔界をすべる王となられる、お方! もっと、魔界の王子としての自覚を持ってくださらないと!」
ヘビ男とカエル女が必死に訴えた。
お人形遊びを止めろ──その言葉に、俺は、カールさんとシャルロッテさんに目を向けた。
なんとなくだけど、お人形遊びのお人形は、この二人の事を言っていて、こいつらは、アランから二人を引きはがしたいのだと思った。
「嫌だよ」
だけど、アランはハッキリとそういって、辺りがシンと静まり返る。
「僕は、可愛いものが大好きだ。人形もぬいぐるみも、アクセサリーだって好きだし、可愛いものを作るのも、集めるのも大好き。……だから、カールとシャルロッテのことも、絶対に手放したりしない。自分の好きなものを、素直に好きだと言って何が悪いの?」
その言葉に、不意に胸が熱くなった。
なんで、そんなに、はっきり言えるんだろう。
なんで、そんなに、迷いなく答えられるんだろう。
なんで、俺と同じ、可愛いものが好きな男の子なのに、アランは、こんなにカッコいいんだろう。
「ハヤトくん」
「!?」
すると、突然カールさんが、俺の腕を掴んだ。
「少し離れるよ」
「え? なんで」
「巻き込まれたら、大変だからね」
「へ?」
そう言って、俺を抱き上げたカールさんは、シャルロッテさんと一緒に、少し離れた場所に移動する。
すると、それから暫くして、アランが深くため息をついた。
「はぁ~。君たちも、お父様も、ほんと頭が固いなぁ……どうして、人の趣味にいちいち口を出すのかな? きっと、働きすぎなんだね」
「はい?」
「うちのお父様、人使い荒いみたいだしね。あ、そうだ。せっかくだから、君たちにはリフレッシュ休暇をあげよう♪」
「「リ、リフレッシュ休暇!?」」
魔族たちが、すっとんきょうな声を上げた。
あれ? リフレッシュ休暇ってなんだっけ?
あ、確かに、働いてる人の夏休みみたいなもんだって、お父さんが言ってた!
ていうか、魔界にもリフレッシュ休暇とかあるの?
「あ、アラン様! 一体何を考えて……!?」
「何ってら君たちには、僕から素敵な旅行をプレゼントしてあげる。だから、ゆっくり休んで、少しは柔軟な頭になってきてよ」
そういうと、アランが、また本に手をかざし、呪文を唱えた。
「冥界の王よ、我が血と盟約もと、その命にしたがえ――黒の書、第48番・
グアァァァァァァァァァァッァァ!!!!!
その呪文と共に、今度は黒い魔法陣が現れた。そして、その真っ黒な魔法陣出てきたのは、先頭にドクロの顔を張り付けた立派な蒸気機関車。
そしてそれさ、汽笛の音と一緒に、雄たけびを上げると、その瞬間、大きな口が開かれる。
「「うわああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
「怖がらなくても大丈夫だよ。見た目はおっかないけど、中はホテルのスイートルームみたいになってるから。じゃぁ、リフレッシュ休暇中の一ヶ月間、みんなで、冥界の旅を楽しんできてね~」
いってらしゃーい♡――と可愛らしく手を振る横で、ドクロが幹部たちを飲み込んだ。
ゴックンと音がして、腹の中、というか汽車の中におさまると、その列車は、またまた汽笛の音を響かせて、さっきの魔法陣の中に消えていく。
そう――六人の魔族たちを、飲み込んだまま。
(こ、怖えぇ……)
そして、俺は思った。魔界の王子って、めちゃくちゃ、おっかねぇなって。
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