第10話 絶対絶命!


 「さぁ、である我々が、総出でお出迎えに参りましたぞ!」


 え、幹部!? 幹部って、めちゃくちゃ強いやつじゃないの!?


 ていうか、そういうのって、一人ずつ来るものじゃないの!? いきなり全員集合とか、何だ、このクライマックス感!?


「──うわッ!?」

「あー外れたケロ!」


 直後、いきなり足元に長い舌が伸びてきて、俺は反射的に飛び上がった。


 多分、カエル女の──舌だ。


(逃げないと……っ)


 とっさにそう思って、俺は猛ダッシュで走り出した。


 いつもの通学路。だけど、いつもと違う道を逃げながら、必死に逃げ道を探す!


 だけど、どこを走っても、全部同じ場所に出た。きっと、ここは、もう現実の世界じゃないんだ!


「アラン様! 逃げても無駄ですよ~、ここは、もうすでに私の張った結界の中! たとえアラン様でも、この結界を壊す術はありません!」


「つーか、俺マジで、アランじゃないんだって!」


「何をおっしゃる! その波長は、間違いなくアラン様!」


 あー、だめだ! 全く聞いてくれない!


(どうしよう、このままじゃ、本当に連れていかれる!)


 幸い足は早い方だから、なんとか捕まらずにすんでいた。

 だけど、流石に、6人もの大人を相手にしいるせいか、しだいに息が切れてきて


「……うわっ!?」


 すると、ひとしきり走って路地を曲がった先で、誰かとぶつかった。

 尻もちをついて、恐る恐る見上げれば、そこにはいたのは──ライオンの顔をした大男。


「ッ……」


 とっさに後ずり、慌てて、反対側に逃げようとした。だけど、背後には、また別の幹部たちが現れて


(ッ……囲まれた!)


 絶体絶命──そんな言葉がよぎって、ふと、お父さんとお母さんの顔を思い出した。


 無意識に体が震え出せば、声すら出せなくなる。


 このまま連れていかれたら、どうなるんだろう。もし、アランじゃないってばれたら、火あぶりや釜茹でだけじゃすまないかもしれない。

 

 いや、火あぶりにされた時点で、もう死ぬよ! だって、俺、人間だもん!


「さぁ、鬼ごっこは終わりですよ、アラン様」

「……っ」


 すると、ライオン男が俺に近づいてきた。

 手には鋭い爪が付いていて、あんな手でつかまれたら、きっと、大怪我だ。


 だけど、狭い道路で挟み撃ちされてるからか、逃げ場なんて一切なくて、


(あ、もうダメだ……!)


 そう思って、キュッと目を閉じる。

 だけど、その時


 ──ドォォォォン!


 と、あたりに大きな音が響き渡った。


 何が起こったのか、その音は、続けざまに何発も響くと、それから暫くして、俺の前に誰かが降り立った。


 恐る恐る目を開けば、そこには、執事のような黒服を着た男の人がいた。


 黒髪で整った顔立ちをしていて、背が高い高校生くらいの男の人。


 その男の人は、俺を守るようにライオン男の前に立つと、ガチャッと手にしていた拳銃を、ライオン男に向けた。


「き、貴様は!」


 すると、その男の人を、ライオン男がキッと睨みつけた。


 さっき音は銃声だったらしい。ライオン男は、撃たれたのか、膝をついて太腿と押さえていた。血は出てないけど、なんだか痛そうにしてる。


(……誰だ?)


 ただただ地面の上に座り込んだまま、俺は呆然と、男の人を見上げた。


 何が起こっているんだろう。

 このカッコいいお兄さんは、誰なんだろう?


「ハヤト——」

「……!」


 すると、今度は、俺の後ろから声がして、俺は、ゆっくりとふりかえる。


 するとそこには、執事服の男の人と同じ年くらいの女の人がいた。


 赤と黒のゴシックドレスを着た、綺麗な女の人。


(あ……あの服)


 そして、二人の服には、見え覚えがあった。それは昨日、俺があげた――


「シャル、ロッテ……さん?」


 そう問いかければ、目の前の女の人は、優しく笑ったあと、昨日は持ってなかった傘を、魔族たちに向けて──構えた。


「もう大丈夫よ、ハヤト。あなたのことは、私達が、必ず守ってあげる」


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