第22話 クラスメイトとの遭遇


「こんなところで、何してるの~」


 そして、その三人は、俺を見るなり、学校と同じテンションで近寄ってきた。


 マズい。俺が、手芸屋さんにいたなんてことが学校で広まったら、裁縫が趣味で、オマケに可愛いものが好きだってことも、バレてしまうかもしれない!?


「威世くんが、こんなとこにいるなんて、珍しいね~」


「お母さんときたの?」


「あ、えっと……っ」


 どうやら、母親の付きそいできたと思われているらしい。でも、ここにお母さんはいないし、どうしよう。どうやって、乗り切ろう。


「ハヤトは、僕に付き合ってくれてるんだよ」


 すると、アランが俺の後ろから、ひょっこり顔を出した。


 俺の事をかばってくれたのか、その瞬間、女子の視線は一気にアランに集中する。


「わ! こ、こんにちは!」


「が、外人さん! 威世君の知り合いなの!?」


「あ、しりあいっていうか……」


 頬を染めて、興味津々にアランのことを聞いてくる女子たち。


 だけど、友達って言うのは、なんだかすごく恥ずかしくて、思わず出た言葉は


「こ、コイツは、俺のイトコの、友達の、親戚!」


「へー、そうなんだー、どこの国の人?」


「どこの!?」


「ノルウェーだよ」


「へー、ノルウェーの人って、銀髪の人もいるんだね! 私、初めて見たー」


 ノルウェー人に銀髪が、本当に要るのかはわからないけど、アランは、話を合わせてくれたみたいだった。


 そして、その後、女子の興味は、すっかりアランに移ってしまった。


「ねー、名前は? 年はいくつ?」


「名前はアラン。年は10歳だよ」


「うわー同級生だ! 手芸屋さんで何してたの?」


「布を買いに来たんだ。君たちは何しに来たの?」


「ビーズを買いに来たの! ここの手芸屋さん、可愛いビーズがたくさんあるから。ほら、今、こういうブレスレット作るのに、私達はまってて」


「へー、可愛いね。僕も作ってみようかな?」


「え? 作るの? アラン君が?」


「うん、僕、裁縫も可愛いものも大好きだから!」


 また、にっこり笑ってアランがそういった。


 俺は隠すのに必死なのに、アランは隠すどころか、胸を張って好きだと言っていて、なんだか複雑な気持ちになった。


 どうやったら、あんなふうになれるんだろう。どうやったら、アランみたいに、自分に自信をもてるんだろう。




 ◇◆◇



 それから、女子が店を出た後、布とか色々を買って、俺達は、商店街のはずれにある公園で休憩をすることになった。


 自販機でジュースを買うと、ブランコに座って、一息つく。


 ちなみに買った荷物は、二人とも腕輪の中。これ、買物した時、めちゃくちゃ便利だな。


「なんだか、あっという間だったねー」

「そうだなー」


 アランが、ミルクティーを飲みながら呟いて、俺も炭酸のクレープジュースをのみながら返した。


 本当に、あっという間だった。

 お昼すぎにでて、気が付けばもう夕方。


 ざっと三時間くらいかな?商店街の中をブラブラしていた。


 まぁ、そのほとんどが、手芸屋さんとか、雑貨屋さんにいたんだけど。


「ハヤトって、けっこう、気を使うタイプなんだね」


「は?」


 だけど、いきなり、よく分からないことを言われて。え? 気を使う……タイプ?


「なに、いってんだ?」


「うーん、今日一日、一緒にいて思ったんだけど、男らしくとか、子供らしくとか、けっこう周りを気にして生きてるんだなって。イメージどおりにふるまってるって言うか、あたりさわりなく生きてるって言うか。親にも、好きなもの秘密にしてるくらいだし」


「……」


 なんだか、心にズシンときた。


 そう言われると、俺、周りに気を使って生きてるのかな?


「自分に嘘ついて生きるのって、辛くない?」


「っ……仕方ねーだろ! 俺だって、言えるなら言いたいけど! でも……アランにはわかんねーよ!」


「わかるよ。僕も魔界での暮らしは、そうだったから」


「え?」


 ブランコに座って、ゆらゆらと足をゆらしながら、アランは悲しそうにいった。


「王子ってさ。外に出る時は、必ず魔王スタイルにならなきゃいけないんだ」


「魔王スタイル!?」


「うん。もう、全身黒づくめの、いかにも魔王様ですって感じの服。全く可愛くないし、マントとかつけて、いつの時代だって感じ。おまけに、一切笑うなって。威厳を大事にして、国民に舐められないように、常に魔王の息子らしく、男らしくしてろって」


「……マジか」


「うん」


 なんか、魔王スタイルのアランとか、想像つかなかった。


 それでも、きっとカッコイイんだろうけど、王子の生活って、思ったよりキツそうで驚いた。


「可愛いものが好きなんて、全く言えない雰囲気で、自分の部屋の中でしか、自分らしくいられなかった。好きなものを、好きって言えない。笑いたくても、笑ってもいけない。自分を隠しながら生きるのって、すごく辛い」


「……」


「でも、そういうのって、魔界独特のモノなんだと思ってたんだ。でも、どうやら人間界も変わらないみたいだね。こっちもにいるみたいだ、が」


「魔物?」


 いきなり物騒なことを言い出したアランに、思わずジュース落っことしそうになった。


「魔物って、どこにそんなもんが……っ」


「どこにだっているよ。さっきの商店街にも、家にも、ハヤトの通う学校にも、どこにでもいて、誰にも見えなくて、でも、確実に誰かの心を弱られていく。その魔物の名前は」


 『空気』――アランは、そういった。


 男は男らしく。

 女は女らしく。

 子供は子供らしく。

 親は親らしく。


 そして、それが当たり前だという『普通という空気』に、苦しんでる人たちがいる。


 きっと自分達は、その中の一人だって。


「普通の人って、たくさんいるでしょう。だから、みんな普通でいたがるんだよ。一人は怖いから。群れてる方が安心する。でも、それってさ、その普通から外れた人たちを、攻撃する人たちがいるからなんだ。まるで悪いことしてるみたいに、仲間外れにしちゃう人達。ハヤトだって、そうなんじゃない?」


「え?」


「『普通』から外れて、一人になっちゃうのが怖いから、可愛いものが好きって言えないんでしょう?」


「……っ」

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