第21話 王子様とお買いもの
それから、しばらく歩いて、俺達は、校区内にある商店街にやってきた。
桜川商店街──ここには、様々なお店が並んでる。
八百屋さんとか、お肉屋さんだけじゃなくて、コンビニに、駄菓子屋さんに、喫茶店に、たこ焼き屋さん。そして、もちろん手芸屋さんも!
だけど……
「わぉ、あの子、可愛いー」
「外国の子かしら? モデルさんみたーい」
商店街を歩きながら、人々がひそひそと話をする。もちろん、注目の的になってるのは、アラン。
アランは、とにかく目立った。
髪の色が銀色ってだけでも目立つけど、その上、かなりの美少年だから、みんなして、アランのこと見ていた。
(すっげー、落ち着かない)
「ねーハヤト、これ可愛いよー」
だけど、そんな視線には、どこ吹く風って感じで、アランは全く気にしてなかった。
それどころか、雑貨屋さんの店先に出ていたクマのキーホルダーを見ながら、ニコニコしてる。
まぁ、王子だし、人に見られるのは慣れてるのかな?
「ハヤト、あのお店はなに?」
「えっと、アレはクレープ屋さん」
「クレープ?」
「あれ、知らない? って、しるわけないか? 中にクリームとか果物をいれて、薄い生地で巻いた甘いデザートってうか」
「へーおいしそう! 後で行ってみようよ、あのお店、可愛いし!」
「んん!?」
あとで行ってみる!?
クレープ屋さんに!?
「いやいやいや、アラン、アレをよく見ろ! 女子しか並んでねーじゃねーか!!」
「え? あー確かに……もしかして、男子は食べちゃいけないものなの?」
「え、そういうわけじゃ……ないけど……っ」
うん、別に男子が禁止されているわけじゃない。食べものは、誰が何たべても自由だ。
「でも……こう、恥ずかしだろ……俺達、男なんだし」
「…………」
ぽつりぽつりと呟くと、アランはそれから、しばらくして
「そっか。男がクレープを食べるのは、恥ずかしいことなんだね。覚えておくよ」
「え、あ……っ」
ニッコリ笑って、そういったアランに、俺はなんだか申し訳ない気持ちになった。
なんだろう、心が痛い。
違う。
本当は、恥ずかしいことじゃない。
それなのに……
◇
◆
◇
「いらっしゃいませー」
それから、商店街の中を行ったり来たりして、俺達は手芸屋さんにはいった。
中には、裁縫をするための道具や材料がたくさんそろっていて、アランは、中に入るなり、
カールさんとシャルロッテさんの人間界用の服を作るといっていたけど、ちゃんと雑誌とか、道行く人とか観察しながら、今の人間界の流行とか、しっかり研究したらしい。
その上で、服をデザインして、もう型紙まで作ってるとか。
「うーん……これ、ちょっと生地が厚いかな」
「え? そうか?」
「うん、この厚さだと、闘う時、動きにくそう」
戦うことを見越して、服を作るアラン。
スゲーな。でも、そのおかげで、シャルロッテさんたち、あんなヒラヒラの服着てても、あんなに身軽なのか?
「ハヤトも、ララちゃんに服作るんでしょ?」
「あ、うん」
そうだ、俺も選ばないと!
とりあえず、貯金箱から、三千円は持ってきた。いつも生地を買うのは、100円ショップばかりだけど、手芸屋さんには比べ物にならないくらい、たくさんの布があって、ララに似合う物が見つかればいいななんて思いながら、店内を歩き回る。
(……うーん、こんな感じかな)
それから、暫くして、俺は布を決めた。
ララの言っていた青と水色の生地。
人形用の服だから、そんなに大きな布じゃなくてもいいし、思ったよりお金も余りそう。
「ハヤト、アレ可愛い!」
「わ、ララ!?」
すると、いきなり腕輪の中から人形のララが出てきた。
この前、シャルロッテさんが来た時に、中から出る方法を教えてもらったらしいんだけど……
「ララ。勝手に出てくるな、バレたらどうすんだ」
「えー、でも、ララも見たいー」
「うーん……じゃぁ、俺のポケットの中にいて。あと、絶対しゃべらないこと」
「は~い」
丁度死角で人がいなかったし、人形の姿だったから周りにはバレなかったけど、正直、これには、ひやひやさせられてばかりだ。
俺は、こそっとぬいぐるみのララを上着のポケットの中に入れると、さっきララが、可愛いといったワゴンの中に目を向けた。
そこには、アクセサリーを作るキットが、たくさん入っていた。
ヘアピンとか、ネックレスとか、ピアスとか、女の子が好きそうな可愛くてオシャレなデザインのもの。
(あ、確かに可愛い)
手に取ってみれば、その小さな袋の中には、アクセサリーを作るのに必要な材料が全部入ってるみたいだった。
そして、それを見て、急に、花村さんのことを思い出した。
(花村さん、前髪あげたいって言ってたけど……)
ふと目についたヘアピンは、花村さんにすごく似合いそうだなと思った。
青くて綺麗なペアピン。
これにリボンとか付けてアレンジしたら、もっと可愛くなりそう。でも……
(前髪あげるの怖いとも、言ってたし)
何を考えてるんだろう。
こんなこと考えても、どうにもできないのに。
何より花村さんは、あの時の記憶を全部わすてるから、俺が、裁縫が趣味だってことも知らない。
「ハヤト!」
「……!」
すると、アランが横から声をかけてきて、俺は顔を上げた。
「それ、アヤメって子へのプレゼント?」
「へ?」
アヤメ?……って、あ、花村さんのことか!
「可愛かったね、あの子」
「え、可愛い?」
「うん。ハヤトの好きな子?」
「え!?」
「あれ? 違うの?」
「ち、違う違う! いきなり変なこと言うなよ! それより、買うものは決まったのか?」
「うん、決まったよ! とりあえず、あの棚にある生地、全部2メートルずつ買っていこうかなって!」
にこにこと笑って棚を指すアラン。
だけど、その言葉に俺は、顔を青くする。
棚にある生地……全部??
「ぜ、全部って、お前はお金は!?」
「あるよ。魔界の換金屋に来てもらって、ちゃんと日本円と交換してもらったから。お金の心配はしなくて大丈夫だよ」
「そうか。それなら……じゃなくて! そんなに買ってどうすんだ!」
「どうするって、洋服作ったり、ぬいぐるみ作ったり」
「ぬいぐるみ!? ぬいぐるみも作れるの!?」
「うん、もう、100体近く作ったよ」
「100体!?」
すげー、そんなに作ってるんだ!?
いやいや、感心してる場合じゃない!
「あのな、そんなに買ったら重いし、帰り辛くなるだろ!」
「大丈夫だよ。腕輪の中に入れておけば、手ぶらも同然だし!」
あぁぁぁ!!
これだから、魔法が使える王子様は!?
「あのな、アラン! 日本の一般的な小学生は、手芸屋さんで布を棚買いしたりしないんだよ! 明らかに、おかしいだろ! ただでさえ目立つのにこれ以上目立ってどうするんだ! また今度、連れてきてやるから、今回は五千円分ぐらいにしとけ!」
「えー」
なんか、すごく不服そうなアラン。
でも、仕方ないだろ!
だって、生地って10センチで、安くても100円なんだぞ!?
二メートルで、2000円。
じゃぁ、棚にある50種類くらいの布を買ったら、全部でいくらになるんだ!?
考えるのも怖えーよ!!
「あ! 威世くんだー!」
「!?」
だけど、その時、俺の背後から、いきなり女の子の声が聞こえてきた。
振り返れば、そこには同じクラスの女子が三人、俺を見つめて立っていた。
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