第20話 職人のドールハウス
そして、やってきました、土曜日!
でかける準備をした俺は、お昼を食べたあと、家を出て、四丁目のお化け屋敷までやってきた。
今、アランたちは、この屋敷に住んでるみたいなんだけど……
(どうみても、廃墟だよな?)
門の外から、こっこり中を覗いて見たけど、中は前に見た通り、荒れ放題の廃墟。
窓ガラスも割れてるし、中もだって変わってなさそう。
「ハヤトくん!」
「あ、カールさん」
すると、背後からカールさんに声をかけられた。今日も、変わらず執事みたいなオシャレな服を着たカールさん。
だけど、買い物帰りなのかな? 手には、卵とか食べ物が入った袋を持っていて、ちょっと不釣り合い。
「いらっしゃい、入っていいよ」
「え?! 入るって、ここ廃墟だよ!?」
さも当前のように言われた。
てか、やっぱりここに住んでるんだ!?
俺が驚いていると、カールさんは、辺りに誰もいないのを確認したあと、入口の門を開ける。
「外から見れば、廃墟だけどね。まぁ、中に入ればわかるよ」
そういって、爽やかな笑顔をむけられた。
相変わらずイケメンだなー。でも、人形なんだよなー……なんて思いながら、俺は言われるまま、中に入った。
「え??」
すると、さっきまでボロかった屋敷が、一瞬にして、見違えるように綺麗になった。
窓ガラスも割れてないし、壁に穴も空いてないし、庭だって綺麗!
「あれ!? なんで!?」
「驚いたかい。アラン様が《時の魔法》を使って、この屋敷の時間を百年ほど巻き戻したんだ」
「百年!? あ、だから綺麗なんだ! あれ?でも、外から見たら廃墟だったよ?」
「それは、結界を張った上に《目隠しの魔法》で、カモフラージュしてるからね。普通の人間が見たら、外も中も、ただの廃墟だよ」
なんか、サラッとすごいこと言われた。
アランって凄いな。魔法でなんでも出来ちゃう。そう言えば、初めて魔法を使ったの四歳とか言ってたっけ?
やっぱり、魔界の王子だけあって、優秀なんだろうな。幹部がビビるくらい強かったし!
まさに、魔族のエリートって感じ!
「アラン様なら、二階にいるよ」
「うん!」
カールさんに言われて屋敷の中に入ると、俺はそのまま二階に向かった。
中を見れば、この前ヘビ男に追いかけられたお化け屋敷とは思えないくらい豪華で、なんか、お金持ちの屋敷に遊びに来たみたい。
だけど、俺はソワソワしながら階段をあがると
「アラン様! 早く、我らに仕事を!!」
「?」
二階の奥の部屋から、少し甲高い声が聞こえてきた。
それも一人じゃなくて、何人も!
こそっと部屋の中を覗き込めば、そこにはアランがいて、床に座り込んで、何かに話しかけていた。
「ごめんね、みんな。今日、材料を買ってくるから、少しまってて」
銀髪で、今日も変わらず美少年なアラン。だけど、そのアランの目の前には、これまた大きくて立派なドールハウスがあった。
あ、ドールハウスってのは、お人形の家のこと。でも、そのドールハウスは、大型犬が入りそうなほど、大きなもので……
「アラン、誰と話してるんだ?」
「あ、ハヤト、いらっしゃ」
『こらぁぁぁ、誰だ貴様はぁぁぁ! アラン様に向かって馴れ馴れしいわ! そこに膝まづけー!!』
『『膝まづけー!!!』』
「うわ! 何だ、こいつら!?」
ドールハウスの中には、小さな人形がたくさんいた。パティシエみたいな服を着た親指サイズの人形。
「うわ、ちっちゃ。これもアランの人形なのか?」
『はぁぁ、ちっちゃいとはなんじゃぁぁ! これでも、心は海よりでかいんじゃぁァァァ!!』
「ごめんね、ハヤト。この子達は、僕のアシスタントたち。物作りのお手伝いをしてくれる職人さんなんだ」
「職人?」
「うん。僕、洋服を作るのは得意なんだけど、靴やバックみたいな装飾品を作るのは、まだまだでね。特別な技術が必要なものは、この子達に手伝ってもらってるんだ」
「え!? このチビ、靴とかつくれるの!?」
『チビとは、なんだコラぁぁぁ! 表にでろー! ジャム攻めじゃぁぁぁ!!!!』
「ちょっと、みんな落ち着いてよ!」
今にも俺に飛びかかりそうな人形たちを捕まえて、アランが困った顔をする。
「ごめんね、いつもはこんなことないんだけど」
「ていうか、ジャム攻めって?」
「身体中にイチゴジャムを塗られるっていう、ちょっとした嫌がらせ」
「地味に嫌だな」
どうやら、この人形たちは、俺のことが気にいらないらしい。
すると、俺の銀の腕輪の中から、今度はララが飛び出してきた。
「もう! ハヤトのどこが気に入らないの!」
『全部じゃぁぁ、まずは敬語を使え—!!』
あーなるほど、俺が敬語を使わず、アランを呼び捨てにしてるのが気に入らないのか。
確かにアランは王子様だしな。
どうしよう、敬語使った方がいいのかな?
でも、俺がそう思った時
「ハヤトは、僕の友達だから、敬語なんて使わなくていいんだよ」
アランが、怒り狂ったに職人たちをなだめながら、そう言って、俺は思わず固まった。
なんだか、面と向かって友達と言われるのは、ちょっと……恥ずかしい。
『アラン様ぁぁぁ、どうしてこんなやつなんですかー、もっといいやついたでしょう!! 我々は、みとめたくなーい!!』
「……あ、うん。ごめんな。こんなやつで」
「ハヤト、気にしなくていいよ。きっと、誰つれてきてもこうだから」
おいおい泣きじゃくる人形たちを見て、俺は苦笑いをうかべた。
でも、この人形達も、アランの事が大好きなんだろうな。それはよく伝わってきた。
「あなたたち、アラン様を困らせてはダメよ」
すると、そこにシャルロッテさんがやってきた。いつものゴシックドレスじゃなくて、今日はメイド服を着てる。
「シャルロッテ、かわいい~」
「あら、ありがとう、ララくん。今、屋敷のお掃除中だったの。ハヤトも、いらっしゃい。職人たちのこと、どうか許してあげて。この子達、何か作っていないとイライラしちゃうの。そんなところに、ハヤトを呼んでしまったものだから」
何か作ってないと、イライラする?
だから、仕事を!ってさっき叫んでたのか。
「いいよ。俺も、チビなんて言ってごめんな! えっと……小人って、言えばいい?」
『職人と呼べー!! 職人とー!!』
小人……いや、職人が一斉にそういって、思わず笑ってしまった。こだわりが強そうなのも、まさに職人って感じだ。
「ハヤト、そろそろ、でかけようか?」
すると、アランが立ち上がりながら、そう言って、俺は改めて、アランと目を合わせる。
「そうだな! じゃぁ、行くか!」
俺が、そういえば、アランも楽しそうに笑って、俺たちは、二人一緒にお化け屋敷にあとにした。
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