第17話 魔界の掟
「あれー、倒しちゃたんだ!」
だが、そこに、突然アランの声がひびいた。音もなくあらわれたアラン。
そして、その後ろには、人間になったカールさんもいて、二人は少し驚いたようすで、近寄ってきた。
「アラン!?」
「すごいねー、ハヤト! まさか、グールを倒しちゃうなんて!」
「ぐ、グール?」
「さっきの、ガイコツ君のこと! 首だけの魔族でね。そこそこ強いんだけど、体がないと、何もできないんだ!」
アランが、にっこりと笑う。なんとなくだけど、昨日と同じように、助けに来てくれたんだと思った。でも
「どうやって、ここが?」
「あぁ、レイヴァンが偵察してくれてるんだ。近くで魔族を見かけたら、教えてくれるんだよ」
すると、窓の外から、真っ黒なカラスが一羽入ってきて、アランの腕に止まった。
そうか、昨日、幹部たちに追われた時も、レイヴァンがアラン達に教えてくれたんだ。
「ありがとう!」
「カー!」
俺がそう言うと、レイヴァンが一鳴き。
しかし、あのガイコツ意外と強かったのか。ララが、やってけてなければ、今頃どうなってたか。
「あ、そうだ! アラン、ララがこんなに小さいなんて聞いてないぞ!」
すると、ふと思い出して俺はアランに抗議した。
でも、アランは、ん?と首を傾げたあと
「ありゃ、いってなかったね。最初は、みんな子供の姿なんだ。カールとシャルロッテも、僕がここまで育てたんだよ」
「育てた!?」
正直、目ん玉とびでるくらいおどろいた。
なにその育成ゲームみたいな感じ。
まさか、こんなにカッコイイお兄さんとお姉さんの二人が、はじめは子供だったなんて!
「本当ですよ。アラン様に命を頂いたときは、私も、彼と同じくらいの年齢でした」
「え? 彼?」
だけど、次にカールさんが言った言葉に、今度は、俺は首を傾げた。
「……彼って?」
「あれ、もしかしてハヤト、気づいてなかった? ララちゃんは男の子だよ」
「!!?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
だって、こんなに白くて、もふもふで可愛いララが──
「えぇぇぇ、男の子!? でもララは、もともと夕菜がもってた人形で、名前だって夕菜がララってつけてて、それに、服だって女の子っぽかったし!」
「まぁ、動物の人形は、性別がわかりにくいからね」
「いやいやいや、だって俺、ララと5年も一緒にいるんだぞ! それなのに、その5年間、ずっと男の子としらず、女の子あつかいしてたなんて――ゴメン、ララ!!」
俺は、慌ててララに頭を下げた。
だけど、ララは、俺を見てニッコリ笑うと
「颯斗、謝らないで。ララね。夕菜に捨てられそうになった時すごく悲しかったの。でも、バザー行きの箱の中から、ハヤトはララをこっこり助けてくれて、ララにたくさん可愛い服作ってくれたでしょ。ララ、颯斗が作った服なら、男の子の服も、女の子の服も全部着てみたい!」
「着てみたいって……でも、お前、男の子なんだし、女の子の服は……」
「いいんじゃない。本人が着たいって言ってるんだし」
すると、アランがララの頭を撫でながらそういった。
「それに、人形に着せた服は、そのまま実体化した時の服にもなるから、年齢に応じたカールとシャルロッテの服を作るのは、すごく楽しかったよ。だから、ハヤトも、ララちゃんにいろんな服作ってあげるといいよ」
「作るって! シャルロッテさんたちの服、アランが作ったのか!?」
「そうだよ」
驚いた。俺と、年が変わらないくらいなのに、あんなに細かくて、繊細な服を作れるなんて――
(本当に、裁縫が好きなんだな)
俺と同じように可愛いものが好きで、同じ趣味を持ってるアラン。
だけど、アランが作ったカールさんの服を見て、見てふと思った。
男の人の服なのに、どことなく可愛らしさも入り混じってる。
でも、カールさんは、その服をすごくカッコよく着こなしていて、それに比べて、今、ララが着ているピンク色のワンピースは、すごくシンプルで、アランが作った服と比べたら、全く可愛くなかった。
こうして実体化したララが着ているのを見れば、余計にそうおもってしまって、次作る時は、もっとかわいい服を作ってあげよう! そんな気持ちが、ふつふつと湧いてきた。
「それより、そっちの子は?」
「え?」
だけど、次にアランは、花村さんに目を向けた。
「あの、この子は、
「あぁ、なるほど。颯斗に巻き込まれちゃったんだね。ごめんね、僕の仲間が迷惑かけて」
そういうと、アランは首元から本型のネックレスを取り出した。そしてそれは、また手の平で魔導書に変わって
「でも、大丈夫だよ。その記憶、今すぐ僕が消してあげるからね」
――え?
一瞬、耳を疑った。だけど、アランが魔導書に手をかざすと、今度は、花村さんの足元に赤い魔法陣が現れた。
「きゃ!?」
「アラン! 何する気だ!」
「だから、記憶を消すんだよ。まぁ、正確には、封じ込めるって言った方がいいかもしれないけど……どの道、ガイコツの追いかけられた恐ろしい記憶なんて、思い出さない方が彼女のためだよ。なにより、人間に見られた場合、記憶は消すことになってるんだ。それが、魔界の掟だから」
「……ッ」
「時の神よ。我が血の盟約のもと、その命にしたがえ。赤の書。第1番──記憶の
瞬間、アランが呪文を唱えると、花村さんを赤い光が取り囲んて、その瞬間、花村さんはふっと目を閉じ倒れ込んだ。
「花村さん!」
「じゃぁ、颯斗! 結界をとくから、あとは上手くやってね」
「う、うまくやってって! あれ?」
慌ててアランを見れば、そこには、本棚があった。
見回せば、そこは図書室の中で、時計を見れば、花村さんから本を受け取った時間と全く変わってなかった。
校庭からは、学童で残る下級生の声が聞こえてきて、結界がとかれたから、戻ってきたんだと思った。元いた世界に……
「あれ、私……?」
すると、魔法陣の中にいたはずの花村さんが、そっと目をあけた。
「花村さん、大丈夫!?」
「威世君……あれ、私、なんで?」
起き上がり、きょとんと首を傾げる花村さんは、本当に、全部忘れたみたいだった。
ガイコツに追いかけられたことも、ララの事も、そして、俺が本当は可愛いものが好きだってことも……
(じゃぁ、いつか、俺の記憶も……っ)
魔界の掟――アランは、人間の記憶は消すと、ハッキリ言った。
じゃぁ、俺の記憶も、消されてしまうんだろうか?
消されたら、忘れてしまうんだろうか?
シャルロッテさんのことも
カールさんのことも
そして、アランと出会ったことも――?
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