第16話 ウサギのララ
(?……なんだ?)
──ハヤト、ここから出して。
それは、頭のなかに直接びびいてきて、俺は、ふと銀色の腕輪をみつめた。
その声は、腕輪から聞こえた気がしたから。
(……もしかして、ララ?)
たぶん、ララだ。
ララが出してと言ってる。
何となくそう思って、俺は目の前のガイコツをみらみつけた。
ララが、力を貸してくれる。
もしかしたら、ララと一緒なら、何とか出来るかもしれない!
「ララ!」
俺は、手をかざすと、めいっぱい声をはりあげた。
すると、手の平にシュッと人形のララが出てきて、それは、ポンと可愛い音をたてて、すぐさま人間の姿に変わった。
白い耳に、ふわふわのピンク色の髪。
俺が作ったフリル付きのワンピースを着た
──幼稚園児くらいの女の子。
「こら、ガイコツさん! ハヤトのこと、いじめちゃダメでしょ! 今すぐ、ララがやっつけてやるんだから!」
うん、そう、幼稚園児。
俺の半分くらいの身長で、小さく可愛らしいララは、ガイコツにビシッと指をつきたて、そう言った。
それはもう、自信満々に。だけど
「ああああああああぁぁぁ、戦わせられるかぁぁ!!」
とっさにララを抱き上げると、俺は花村さんを連れて、教室から飛び出した。
なんで!? なんで幼稚園児!?
「ハヤト、おろして! ララ戦う!」
「ダメダメダメ、絶対ダメ!! お前、どうみても4、5歳だろ!」
「でも、ハヤト、ララに守って欲しいって言ってた!」
「あぁ、ごめん! ほんとゴメン! シャルロッテさんみたいなの想像してた俺が悪かった!」
アランのやつ、なにが
うちのララ、めちゃくちゃ小さいんだけど!? かなり、弱そうなんだけど!?
こんな小さくで可愛い女の子に、あんなおっかないガイコツと戦えと!?
お前、やっぱ魔王の息子だわ!!
「威世くん、その子、誰!?」
すると、俺の横で、花村さんが驚いた様子で、そう言った。そりゃ、いきなり人形が人間に変わったんだし、驚くよな!?
ていうか、これ、どう説明しよう。
「ララはね、ハヤトのぬいぐるみだよ~」
「え? 威世くんの?」
「わーわーわー!! 花村さん、聞き流していいから!! つーか、ララ! お前、元に戻れ、これじゃ走りにくい!」
「もどり方わからない!」
「そっかぁ~、分かった!!」
気がつけば、俺はララと花村さん、二人を同時に守ることになっていた。しかも、ガイコツは、いまだにカタカタと骨を鳴らしながら追いかけてくる!
(いつまでも、逃げてるままじゃダメだ!)
花村さんの体力も限界だろうし、ララを抱えたまま逃げ切るなんて、多分ムリ!
どうする! どうする!?
すると、その時、またララが声を発した。
「ハヤト、あのガイコツ死んでる」
「死んでる!? そりゃ、そうだろーよ!」
ガイコツだしね!
しかも、標本だしね!
「違うの、魂が入ってないの。あと、音がする」
「音?」
「うん、カタカタいってる」
ララが長い耳をピクピク動かしながら、目を閉じた。
カタカタ? それって、あのガイコツの音じゃないのか?
「ハヤト! 前!」
「!?」
前──そういわれて、目を凝らす。
だけど、前には何もない。
あるのは一直線に続く廊下だけ。だけど
「花村さん、ふせて!!」
とっさに声をかけて、花村さんと一緒に廊下の床にしゃがみ込んだ。
ララの言葉を信じて、できるだけ体勢をひくくして、うずくまる。
すると、それから数秒おくれて、俺たちの頭上を何かが、勢いよく通り過ぎた。
強い風みたいな、見えない何か。
──ガシャァァァン!
すると、それは、俺たちを追いかけていたガイコツにあたって、そのガイコツが、バラバラにはじけとんだ。
まるでボーリングのピンみたいに、あちこちに散らばる骨、骨、骨。
そして、そこに、また別のガイコツが現れた。黒いマントをはおった、ガイコツが。
「あぁぁぁぁ、しまったぁぁぁ! 私のガイコツがぁぁぁぁ!!」
バラバラになったガイコツをみて、ひどくなげき悲しむガイコツその2。
「くッ、私の術を見破るとは、さすがはアラン様!」
キッと俺を睨む見つけてきた、ガイコツその2は、やっぱり俺のことを、アランだと思ってるみたいだった。
それに、よく見れば、その側には大きな虫取りアミみたいなものが落ちていて、あれで、俺たちを捕まえるつもりだったんだ。
(あっぶねー)
全く見えなかった。
ララが音で気づいてくれなきゃ、今ごろ捕まってた。
たぶん、理科室のガイコツは、このガイコツが操ってて、挟み込んで捕まえようとしたところを、俺たちがよけたから、そのままぶつかったんだ。
「威世くん……」
すると、俺の横にいた花村さんが、震えながら俺の服の袖を掴んだ。
そうだよな、怖いよな。だけど、そのガイコツ2が、今度は花村さんに向かって叫ぶ!
「こら小娘! 気安く触るな! その方をどなただと思っておるのだ! 魔界の王子にして、魔王様のご子息、アラン・ヴィクトール様であるぞ!!」
「え、魔界の王子!?」
「いや、違うから! 信じないで、花村さん!」
信じたのか、パッと手を離した花村さん。魔界の王子とか、そんな変な誤解クラスメイトにされたくない!
「それより、アラン様! 今すぐ魔界にお戻りください! 魔王様が心配しておられます!」
「え?」
だけど、その後、ガイコツ2が、あたふたとそう言って、俺は驚いた。
魔王が、アランのことを心配してる?
アランの大事な人形たちを、壊そうとしておいて?
でも、ちょっと意外だった。
子供が家出したら、普通の親なら心配するけど、魔王も、やっぱり親なのかな?
いや、魔王だし、普通の親ではないんだけど。
「もう、ハヤトは、アランじゃないもん! まちがえないで!!」
「!?」
だけど、そんな俺の耳に、今度はララの声が飛び込んできた。
いつのまにか俺の腕からいなくなっていたララは、なんとガイコツの前で説教を始めていた。
「ハヤトを魔界に連れて行こうとするなんて、ララ、怒ってるんだから!」
「ふはははは、なんだ、この子供は! もしやアラン様の人形なのか!? 怒ってる!? ひゃーはっは! 怒れ怒れ、いくら怒ろうか、こんなちびっこ相手に、我が負けるわけ」
──ガコン!
瞬間、何かが外れる音がした。
蹴った。ララが蹴った。
何をって? ガイコツの──頭を!!
「うわぁぁぁぁ、頭ぁぁぁぁ、私の頭があぁぁあぁぁぁぁぁ」
「もう、なんて意地悪なガイコツさん! あっちいって!」
プンプンと頬を膨らませるララ。
そして、けられたガイコツの頭は、廊下の窓からキラーンと飛びだして、目の前で身体だけになったガイコツは、そのあとピタリと動かなくなった。
(あの魔族、頭が外れたら、動けなくなるんだ)
あっという間のできごとに俺はひょうしぬけした。……というか、魔族って、ちょっとアホなのか?
「ハヤト!」
「うわ!」
すると、ララが、ぴょんと俺に抱きついてきた。
魔族をやっつけて嬉しそうに笑うララ。それをみて、俺はホッとして、ララの頭を撫でてやる。
「ありがとう、ララ。お前、強いんだな!」
「えへへ! ララ、サッカーうまい?」
「あぁ、うまかった。でも、人の頭は蹴っちゃダメだぞ」
ララがいてくれたおかげで、助かった。
こんな小さいのに、思ったより頼もしい。
だけど、ララと話していると、今度は花村さんが声をかけてきた。
「威世くん。その子もしかして、前に威世くんが、おとした子?」
「あ……」
廊下にすわり込んだまま、二人目があって、俺は、バツが悪そうに顔をそむけた。
あの時のこと、まだ覚えてたんだ。
どうしよう。
話すか、話さないか迷う。
でも……
「……ごめん。あの時は、妹のだって言ったけど、本当は、俺のぬいぐるみなんだ。俺、実は可愛いものが大好きで、でも、男が可愛いもの好きとか、おかしいし、カッコ悪いし、笑われるのが嫌で……それで」
「…………」
黙り込んだ花村さんに、心がどんより重くなる。でも、今さら隠してもしょうがない。
「嘘ついて、ごめん! 俺、クラスでカッコイイとか、男らしいとか言われてたりするけど、本当は、全然そんなことなくて! 本当に、ごめん!」
「え!? うんん、謝らなくていいよ! それに、私は女の子だけど、男の子の本も読むし、好きな色は青だし、サッカーだって大好きで、よく弟と遊んでるの! だから、威世くんは、おかしくないよ! それに……さっきも……ずっと私のことを守ってくれたし」
「え?」
「その……ガイコツから、私とララちゃんを、守ろうとしてる威世くんは、すごくカッコよかったよ……だから、可愛いものが好きでも……威世くんは、カッコイイと……思います」
「……っ」
恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしていった花村さんに、なんだか、こっちまで恥ずかしくなった。
なんだろう。
心の中が、ふわふわする。
「あれー、倒しちゃたんだ!」
「!?」
だけど、そこに、突然アランの声がひびいた。
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