第15話 理科室のガイコツ


「珍しいね、威世くんが、図書室にいるなんて」

「え? そうか?」

「うん。いつもは、みんなと校庭で遊んでるから」


 あぁ、確かに……そんなことを思っていると、花村さんは、その場にしゃがみこんで、俺が落とした本を拾い始めた。


(手伝ってくれるんだ)


 そう思って、俺も一緒に本を拾い始める。


 すると、その姿を見て、ふと花村さんと初めて話した時のことを思い出した。


 それは四年生のとき。間違って学校に持ってきてしまったララを、廊下で落としてしまったことがあって、それを、花村さんが拾ってくれたことがあった。


『これ、威世くんの?』


『ち、ちげーよ! これは、妹の! 男の俺が、こんな可愛いぬいぐるみ持ってたら、気持ち悪いだろ!』


 とっさに、嘘をついた。

 もう、笑われたくなかったから。だけど


『そうかな?』


『え?』


『私は、気持ち悪いとはおもわないよ。男の子が、可愛いものをもっていても』


 ただ一言。

 その一言が、すごく嬉しくて、それからは、何となく、花村さんのことを気にかけるようになった。


「あ……あのさ」


「なに?」


「その……昨日は、ぶつかってゴメンな。みんなは、花村さんが悪いとか言ってたけど、悪いのは、俺だから!」


 昨日ぶつかったことを謝れば、花村さんは、少しだけ驚いた顔をした後


「うんん、私の方こそごめんね。でも……ありがとう」


 そう言って、小さく笑った。


 こうして話してると、全く幽霊って感じはしないんだけどな。でも、もし、原因があるとすれば……


「花村さんさ、前髪あげてみたら?」


「え?」


「ほら、前髪が長いから幽霊とかいわるのかもしれないし、ピンでとめてみるとかさ! ほかの女子たちも、よく可愛いヘアピンつけてたりするし、花村さんも」


「ムリ」


「え!?」


 ムリって言われた!

 完全に拒否された!


「あ、ごめん……余計なお世話だったな」


「うんん。威世くん、私のために言ってくれてるんでしょ……でも私、おでこにがあって」


「え?」


「本当は、前髪あげたいし、みんなと、もっと仲良くなりたいの。でも、前の学校で、アザのこと笑われてから、おでこ出すのも、みんなの顔見るのも、怖くなっちゃって……」


「………」


 花村さんが、前髪を長くして、いつも下を向いている理由が、アザを隠すためなんだって分かって、なんだか胸が痛くなった。


 笑われるのは、辛いし悲しい。

 それも、女の子が自分の顔を見て、笑われるなんて……


「威世くん、なにか探してたんじゃないの?」


「え? あぁ、えっと、魔界の本」


「魔界? 威世くん、そういうの好きなの?」


「いや、好きっていうか、調べてるだけというか」


「そうなんだ。ちょっと待っててね」


 すると花村さんは、別の本棚から何冊か本を持って来てくれた。


「魔界だけの本はないけど、神様とか悪魔とか、魔物がたくさん載ってる本ならあるよ。これに魔界のことも、載ってたとおもう」


「おー、ありがとう!」


 やっぱり花村さん、優しいな。

 本いっぱい読んでて、けっこう物知りだし


(前髪あげたら、みんなの印象も変わると思ったんだけどな)


「威世くん?」


「あ、ごめん! じゃぁ、これ借り」


「「あー!! 颯斗、みつけたー!」」


「!?」


 すると、本を受け取ろうとした俺の耳に数人の男子の声が聞こえてきた。


 勝ちゃんを始めとした、仲のいい男子たちだ!


「颯斗! お前、なんで図書室にいるんだよ!」


「え!? なんでって、本を借りに」


「そんなのいいから、スケット頼む! このままじゃ、一組に負ける!」


「はぁ!? またサッカーかよ」


「ちげーよ! 今日は、バスケだ!」


 そんなこんなで、無理やりみんなに連れていかれた俺は、けっきょく本を借りることが出来なかった。



 だけど、その日の放課後──


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は、またまた追いかけられていた!

 しかも、今度は、一緒に!!


「威世くん、なにアレ!?」


「ごめん! ホントごめん!! 俺のせいで!!」


 誰もいない学校の中で、俺と花村さんを追いかけてくるのは、理科室にある白骨標本はっこつひょうほん──通称『ガイコツ』!


 信じられるか!?

 ガイコツに追いかけられてるんだぜ!


 もう、七不思議もビックリだろ!


「花村さん、こっち!」


 花村さんの手を引いて、必死に逃げて、なんとか自分たちのクラスに逃げ込んだ。


 扉を閉めたあと、なんで、こんなことになったのか、息を整えながら思い出す。


 学校が終わった後、俺は、昼休みに借りれなかった本を借りるため、また図書室に行った。


 すると、そこには、また花村さんがいて、俺が放課後、本を借りに来るかもしれないとわざわざ、まっていてくれた。


 だけど、花村さんから、本を受け取る瞬間、いきなり空間が歪んで、人がいなくなって


(……これ、昨日と同じだ!)


 外は、夕日の色に染まっていて、人の気配が全くない。


 花村さんと逃げながら、人を探したけど、校庭にも、教室にも、職員室にも、誰もいなかった。


 きっと、昨日と同じ、魔族の結界の中に閉じ込められたんだと思った。


(でも、なんで、花村さんまで……!)


 隣を見れば、花村さんは、ひどくおびえていた。

 

 そうだよな。だって、ガイコツにおいかけられてるんだから。


(狙われてるの、俺だし。俺のそばにいない方が)


 昨日の幹部たちは、今、冥界でリフレッシュ中だから、俺がアランじゃないってって、まだ魔王に伝わってないのかもしれない。


 俺と一緒だと、きっと狙われる。


 だけど、涙目になって震えている花村さんを見ると、このまま一人きりにはしたくない。


 ───ガタガタガタガタガタ!!!


「ッ!?」


 すると、教室の外で物音がした。


 扉をガタガタと揺らす音と、骨がカクカク言う音。


 すると、バタン!と、ひときわ大きな音を立てて扉が壊されると、そこから、ガイコツがぬっと顔だけ覗かせた。


「きゃッ!」

「うわっ!?」


 不気味なガイコツに、思わず声をあげると、俺は、とっさに怖がる花村さんを後ろに隠した。


 何としても、花村さんは守らないと――


 だけど、あのガイコツ、どうやって動いてるんだ?


 魔族がのりうつってるとか?


 色々考えたけど、よく分からない。

 そんなよく分からない状況で、ヘタに動いたら、掴まって魔界に連れていかれる!


(ッ……どうしよう)


 だけど、その時


 ──ハヤト。


 と、どこから声がした。

 俺の名前を呼ぶ──誰かの声。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る