第4章 世界を変える方法

第18話 誕生日に欲しいもの


 その後は、念のため花村さんを保健室に連れて行って、俺はそのまま家に帰った。


 そして、それから一週間。


 俺は家族と一緒に夕食をとりながら、ため息ばかりついていた。


 目の前には、俺の大好きなハンバーグとポテトサラダがあるのに、どうにも食欲がでない。


 アランと間違えられて、魔族に三日連続で追いかけられたけど、なぜか、あれからぱったり来なくなって、今はすごく平和な日常をすごしてる。それなのに……


「はぁ……」

颯斗はやと、最近、元気ないけど大丈夫?」


 ため息ばっかりついていたからか、俺を心配してお母さんが声をかけてきた。


 すると、お父さんと夕菜も、俺の方に目を向けてきて……あ、ダメだ、ダメだ! めちゃくちゃ、心配してる!


「だ、大丈夫! ほら、もうすぐテストだから、気持ち的に」


「もう、お友達と遊ぶのもいいけど、ちゃんと勉強もしなさいよ」


「分かってるよ!」


「それはそうと、颯斗、もうすぐ誕生日だよな? 欲しいものは決まったのか?」


 すると、今度はお父さんがそう言って、俺はカレンダーを見つめた。


 来月11月21日は、俺の誕生日。


 だから、だいたい10月頭には、こうして、欲しいものを聞かれるんだけど


「……えっと、まだ決まってない」


「ねーお兄ちゃん! スマホにしようよ、スマホ!」


「こら、夕菜! スマホはまだ、早いわ」


「えー、お兄ちゃんが買ってもらわなきゃ、私は更に遅くなるじゃん!」


 誕生日プレゼントで、夕菜とお母さんが、もめ始めた。そう言えば、夕菜、前からスマホがほしいっていってたっけ?


 俺も、欲しくないわけじゃないけど、家族共有で使ってるタブレットはあるし、頼んだところでダメなのは分かってるから、今は諦めてる。


 まぁ、中学生くらいになったらお願いしてみようとは思ってるけど?


「颯斗、欲しいものが決まったら、早めに教えてね」


「あ、うん」


 お母さんにそう言われて、ふと、これまでの誕生日を思い出した。


 お父さんとお母さんは、いつも俺が頼んだものを用意してくれる。だけどそれは、いつもに欲しいものだった。


 一番欲しいものは、言えなかったから。


(今年も、言えないのかな?)


 なんで俺、嘘ばっかりついているんだろう。


 自分の好きなものも、好きなことも、欲しいものですら、全部『秘密』にしてる。


 だから、正直、アランが羨ましかった。


 自分の好きなものを、素直に好きだっていえるアランが。


 誰に反対されても、自分に自信を持ってるアランのことを、カッコイイなって思って、俺も、いつか、あんな風に自分に自信を持つるようになれたらいいなって思った。


 でも……


(友達になるなんて、やっぱり無理だよな)


 アランは魔界の王子で、魔王の息子で、人間の俺と友達になるなんて、ありえない。


 だから、記憶を消されたら、そこで、さよなら。そんなの良く考えれば、わかったはずなのに……


「はぁ……」


 だけど、思った以上の落ち込んでるらしく、その後も、ずっとため息が止まらなくて、俺は早めに食事をすませると、すぐさま部屋に戻った。









「ハヤト~! コレ見て!」


 部屋に戻ると、ララがノートに書いた絵を、俺の前に持ってきた。


 いつも腕輪の中にいるのは、窮屈きゅうくつかなって思って、たまにこうして、俺の部屋で遊ばせてあげてるんだけど……


「ララ、もう少し声を小さくして。お母さんたちにバレたら大変だから!」


「あ、ごめんなさい」


 実体化したララたちは、人にも見えるらしく、一見すれば、普通の人間と変わらない。


 だから、王子であるアランの身の回りの世話は、カールさんとシャルロッテさんがやってるんだって、料理とか、掃除とか。


 でも、あの姿で、町を出歩いてるせいか、この前は、アニメキャラのコスプレをしている人と間違われたらしく、写真を撮られそうになったらしい。


 まぁ、あんなゴシック服と、執事服を着て、この付近を歩いていたら、目立つしな。


 なにより、シャルロッテさんは美人だし、カールさんはイケメンだし、アランと3人並んで歩いていたら、もう別世界の煌びやかさだ。


「ハヤト、これ、お星様!」


 すると、ララがまた絵を見せながら、話しかけてきて、俺はララのノートを見つめた。

 

 あれからまた、ララに新しい服を作ってあげようと思って、今ララに、どんな服を着たいか考えてもらってるんだけど……


「ん? どれが、星?」


「これ、これ!」


「星?………そうか。じゃぁ、こっちは?」


「こっちは、帽子だよ!」


「帽子……」


 残念ながら、幼稚園児並の画力しかなくて、何の絵かさっぱりだった。


 でも、星のマークと、帽子が欲しいのはなんとなく分かって、ララの絵の横に、俺なりに考えた服を描いてみる。


「こんな感じ?」


「わ〜ハヤト、すごい! ララが思ってたのと一緒!」


「あはは、そっか。じゃぁ、色はどうする?」


「うーん、青と水色!」


「二色か。じゃぁ、袖の色を左右で変えてみるとか?」


 案外、デザインはあっさり決まった。


 そう言えば、水色の布とかあったかな?

 あ、記憶を消されたら、ララはどうなるんだろう?


 魔族から狙われなくなったら、守ってもらう必要ないし、ララも普通の人形に戻っちゃうじゃ……そんなことを考えていると


 ──コンコンコン!


 突然、窓ガラスが鳴った。


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