第13話 友達


 命──その言葉に、俺は驚いた。


 もしかして、ララも、シャルロッテさんたちみたいに、動くようになるってことかな?


 目の前で蹴り広げられる手品みたいな光景に、思わず目が釘付けになる。


 なんだが、すごくワクワクしてきた。


 心臓がドキドキして、身体中で、なにかかが暴れ回ってるみたいだ。


『ララ、今から君に命をあたえる。その気があるなら、僕に答えて』


 ララをカーペットの上に置いたあと、アランが魔導書を開くと、そこにさっきみたいな魔法陣がうかびあがった。


 でも、さっきと同じような大きなものじゃなくて、ララを囲うくらいの小さな魔法陣。


 すると、それから暫くして、魔法陣の光があっさり消えた。


 結局どうなったのか、よくわからなくて、俺はララから、アランに視線を向ける。


「??……命、入ったの?」

「まだだよ」


 なんだ、まだなんだ。

 ちょっとガッカリした。


「はい、これ」

「?」


 だけど、その後アランが俺に何かを差し出してきた。


 手のひらにのっかっていたのは──青いビー玉。


「ララちゃんのハーツだよ。これを最初に、人形の中に埋め込んた人が、持ち主になる。やっぱり、ララちゃんの持ち主は、君じゃないとね」


「あ、うん」


 受け取ったハーツは、とても小さかった。


 だけど、これがララの命で、絶対に傷つけちゃいけない大事なもので、そうおもったら、なんだかすごく重く感じた。


「あと、ハーツが出てきたのは、ララちゃんが命が欲しいと願ったから。だけど、ララちゃんが君を守ってくれるかは、今まで、君がどう接してきたかによるよ」


「え?」


「乱暴に扱って来た相手を、守りたいとは思わないでしょ? 人形も一緒だよ。君がこれまで、ララちゃんを大切に扱ってきたなら、もしかしたら、応えてくれるかもね」


 大切に扱ってきたなら──その言葉に、俺はララを見つめた。


 自分では、大切にしてきたつもりだけど、ララはどうなんだろう。


 俺が置きっぱなしにしたせいで、ミーに捕まって、やぶれちゃったことも何度かあったし、いつも暗い机の奥に閉じ込めてばかりだし、もしかしたら、嫌な思いをいっぱいさせてたかもしれない。


「あと、今後は、肌身はなさず持ち歩いてね」


「え? なにを?」


「だから、ララちゃん」


「!?」


 瞬間、言われた言葉に俺は目を丸くする。


「はぁ!? ちょ、ムリ! それはムリ!」


「え? でも、ララちゃんしだいとはいえ、持ち歩かなきゃ、いざって時、助けてもらえないよ?」


「そうかもしれないけど! 俺の小学校、ぬいぐるみとか持っていっちゃいけないし! 体育だってあるし、ずっと持っとくのはムリだって!」


「うーん、そっか。なら、これをあげるよ」


 すると、今度は、アランがパッと手のひらに、銀色の輪っかを出現させた。またもや、手品みたいに。


「わ、なにそれ、可愛い!」

「でしょ~、僕がデザインしたんだー」


 それは、5ミリ幅くらいの腕輪だった。大人の女の人がつけてそうな、オシャレな腕輪。


 側面には、三箇所、十字架の模様が入っていて、シンプルだけど、すごく可愛い。


「僕のは、これと色違いの"金色の腕輪"なんだけど、結構便利なんだよ」


 すると、アランは腕輪をした方の手を、水平にした。すると


「お呼びですか? アラン様」


 その上に、いきなりシャルロッテさんが現れた。あ、人形の方の!


「いきなり呼び出して、ごめんね」

「かまいませんわ」

「中で何してたの?」

「カールとオセロしておりました」

「あはは、楽しそう~」


 シャルロッテさんと、楽しそうに話すアラン。だけど、いきなりのことに俺は驚いた。


「シャ、シャルロッテさん、今までどこにいたの!?」


 いつの間にか消えていたから、てっきりあのお化け屋敷にでも、帰ったのかとおもってた。すると、シャルロッテさんは


「ずっと、傍にいたわよ。この腕輪の中に」


「え!?」


「あはは、びっくりした? これはね。ちょっとした魔法道具なんだ。簡易ポケットみたいなものかな?」


「簡易ポケット? あ! もしかして、昨日のカラスも、その腕輪から!?」


「あー、レイヴァンのことか。うん、手の平に乗るものなら、何でも収納できる。僕は、金色の腕輪をしてるけど、君は人間だからね。レベルを落として、をあげるね」


「? どう違うんだ?」


「金の腕輪は、魔力を使うかわりに無限に収納できる。でも、銀の腕輪は、魔力0でも使える代わりに、収納できる数が少なくなるんだ。一度に収納できるのは、せいぜい2~3個かな?」


 そういうと、アランは簡単な呪文を唱えたあと、俺の左腕に、その銀色の腕輪をはめた。


 伸び縮みしなさそうな素材なのに、つける時は、少しだけ広がって、あっさり腕に馴染んだ。それに、つけてる感覚がしないくらい、軽い。


「へー、魔法道具かぁ……」


「試しに、ララちゃんを手の平に乗せて念じてごらんよ。『中に入れ』って思えば入って、取り出すイメージをもてば、また出てくるから」


 そう言われ、いわれるまま試してみると、手の平からシュッとララが消えて、そして、また手のひらに戻ってくる。


「うわぁ、すげー! なにこれ、ドラ左衛門の四次元ポケットみたいじゃん!」


「ドラざえもん?」


「あ、そっか、しらないのか!」


 そうだよな、魔界にすんでるアランが、日本のアニメなんて、知るわけないよな!


「それなら、ララちゃん、持ち歩けるでしょ?」

「うん!」


 自分の腕に着いた銀色の腕輪を見て、なんだが、すごく感動した。


 俺、今、ものすごいモノつけてる!


(ほんと、夢でも見てるみたいだ……っ)




 ◇


 ◆


 ◇




 その後、ひととおり話し終えた頃には、もう6時になっていて、アランが帰ることになった。


「じゃぁ、気をつけて帰れよ」


 玄関先でアランを見送る。するとアランは


「あはは。気をつけろなんていわなくても、大丈夫だよ。僕のこと誰だと思ってんの?」


「まぁ、そうだよな。(魔王の息子だし)」


「ねぇ、それより、次は、うちの屋敷に遊びに来てよ」


「え? うちのって……まさか、あのお化け屋敷にか!?」


「うん! もうすっかり魔力も回復したから、今朝、もっと強力な結界を張り直したんだ。中も綺麗になってるよ」


「そ、そうなんだ……」


 いや、でも、お化け屋敷なのは、かわらないだろ? 大丈夫なのか?


「じゃぁ、またね、!」

「え? あ、うん……また」


 すると、アランは、にこやかに笑って手を振って、俺はアランを見送ったあと、玄関に入って、鍵をかけた。


「今、ハヤトって……呼ばれた」


 なんだか、友達みたいに──


「お兄ちゃん!?」

「うわぁぁ、びっくりした!?」


 すると、いきなり夕菜が出てきて、俺は飛び上がった。


「なんだよ、いきなり!」

「なんだよじゃないよ!! お兄ちゃん、さっきの人、誰?!」

「え!?」


 ズイと身を乗り出し、顔を近づけてくる夕菜に、かるく狼狽えた。


 さっきの人って、もしかして、アラン?


「あの人、すっごくかっこよかった! 綺麗だし優しそうだし、まるでアイドルみたい!」


 あー、やっぱり、アランのことか。


 確かに、アランはイケメンだ。銀髪だし、目の色は紫だし、しかも王子だし!(魔界のだけど)


 ていうか、なんで知ってんだ?……とおもったら、さっき部屋から出た時、夕菜とすれ違ったんだった!


「ねーねー、あの人の名前は!」


「え? 名前は、アランで」


「アランくん。もしかして、お兄ちゃんの友達なの!」


「えっ……そ、そう、俺の友達!」


 興味津々に目を輝かせる夕菜に、俺はとっさにそう言ってしまった。


 だけど


(ッ……なに言ってるんだろう。アランは俺のこと、友達とは、思ってないかもしれないのに!)


 自分の言葉に、なんだか急に恥ずかしくなって、俺は夕菜の質問攻めから逃げるように部屋にもどった。


 俺には、友達がたくさんいる。


 ゲームの話する友達もいるし、一緒にサッカーする友達もいる。


 でも、一番好きな物について、あんなふうに語り合える友達はいなかった。


 だから、かもしれない。


 魔王の息子相手に、こんなことを思うのは、おかしいのかもしれないけど、いつか本当に、そう、なれたらいいなって思った。


 アランと、本当に『友達』になれたらって……


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