第4話 逃げろ!


 思わず、身をかがめて、音のした方に振り返る。


 すると、玄関の上の方、ステンドクラス調の窓が砕け散って、その中央には、黒っぽい人影が見えた。


「あぁ、ここだ……ここから、感じる」


(え? なにあの人?)


 逆光のせいで、顔はよくわからなかったけど、そこには確かに人がいた。


 ボソリボソリと呟く──男の人。


 だけど、なれた目でよく見れば、その姿は、なんのコスプレ?って言いたくなるくらい変わった格好をしていた。


 背中にはコウモリみたいな羽がついていて、着ているスーツは緑と紫のダサすぎる色で、しかも、頭のシルクハットからは、ニョキニョキとヘビが動いてる。


(な、なんだあれ……?)


 あのヘビ、生きてんの?

 それとも、おもちゃ?


 ていうか、そこ二階だよな?

 どうやって立ってるんだ?


 危なくない?

 落ちたら怪我しない? 


 ていうか、あの人


 …………ちょっと、浮いてない???



「ん? 人間の子供?」

「!?」


 瞬間、男と目があって、びくりと肩がはねた。ギョロリと動いた目に、身体が凍りつく。


 すると、そのヘビ男は、俺の姿をじっくり見たあと


「あぁ! そのは、シャルロッテ! なるほど、人間の子供に化けてらっしゃるのですね!?」


「──え?」


 顔を明るくして、意味のわからないことを言いだしたヘビ男に、俺は困惑する。


 何言ってんだ、このオッサン?


「さぁ、さぁ、今すぐ帰りましょう~!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!?」


 だけど、その後、ヘビ男が俺の目の前まで飛んできて、俺は、ミーを抱えて慌てて二階へ逃げ出した。


「フハハハハハハハハ、逃がしませんよぉぉぉぉぉぉ!!」


「ひいいいいぃぃぃぃ!?」


 え!? 何これ!!

 怖い! 怖い! 怖い!!


 もう、何が何だかわからなかった。

 

 背後からは、不気味なオッサンが笑いながら追いかけてくる。しかも、空中を飛びながら!


 だいたい、お化け屋敷に死体が埋まってるって話は聞いたことあるけど、コスプレ男が追いかけてくれなんて、一度も聞いたことない!


「みゃー」

「ミー、ジッとしてろよ!」

 

 飼い猫のミーと、女の子の人形を手にしたまま、俺は死ものぐるいで逃げまわった。


 だけど、追いかけられるまま二階に逃げてしまったから、簡単には出られない。


 窓から逃げようとも考えたけど、ここは2階だし、走る速度を落としたら、きっと男につかまる!


「(どうしよう、早くどこから逃げないと)──うわあッ!?」


 だけど、廊下の角を曲がった先で、何かにつまずいた俺は、豪快に転んでしまった。


 かろうじて、ミーは抱きしめていたけど、人形は廊下の隅に転がって、そして、倒れこんだ俺の目の前に、ベビ男が容赦ようしゃなく立ちはだかる。


「さぁ……今すぐに帰りましょう、


(ア、アラン……さま?)


 な、何をいってるんだろう?

 

 俺の名前は、威世いせ 颯斗はやとだ。

 アランなんて名前じゃ……


 ──ガシッ!


「うわっ!」

 

 瞬間、俺の身体が宙に浮いた。


 気がつけば、ヘビ男の肩に担がれていて、足が宙に浮いた瞬間、俺は一瞬にして青ざめる。


「な、何すんだよ!?」


「何をするではありません。これ以上ワガママをいうと、に、お仕置をされてしまいますよ。さてはて、一体どんなお仕置がまっているやら、火あぶりですかねー。それとも、釜ゆででですかねー」


「火ッ!?」


 火あぶり!? 釜ゆで!?

 なにその拷問!?

 ていうか、俺があうの!?


(ま、マズイ……ッ)


 ダラダラと、嫌な汗が流れる。

 魔界とか、魔王とか、意味がわからない。


 だけど、一つだけわかるのは、俺がアランって子に間違われていて、そのアランって子の代わりに、魔界につれていかれて、火あぶりにされるかもしれないってこと!


「ちょ、ちょっと待って! 俺は、アランじゃない!」


「なにをおっしゃっているのですか。私がアラン様を、間違えるわけないじゃないですか」


 いや、まちがってるよ!

 めちゃくちゃ間違ってる!!


 大体アランとハヤトじゃ、一文字すらあってないから!!


「さぁ、行きますよ。アラン様」

「わッ──」


 すると、ベビ男が、コウモリみたいな翼をバサリと広げて、飛び立つような体勢になった。


(え、嘘だろ……ほんとに?)


 魔界に連れてかれる?

 アランってやつの代わりに?


 恐怖で、小刻みに体が震え出す。

 連れてかれたら、どうなるんだ?


 もしかして、死ぬ?


「みゃーぁ!!!」


 すると、俺の危機を感じ取ったのか、ミーが威嚇いかくしながら、ベビ男の腕に飛びかかってきた。


 だけど、ミーは、そのベビ男は、あっさり払いのけられて、床に突き落とされた。


「ミー!」

「あー、やめてください。スーツが汚れてしまう」


 なんて、酷いことするんだ。

 こいつ、やっぱり人じゃない!


「離せよ!!」


「おやおや、威勢いせいがよろしいですね! さすがはアラン様! その風格は魔王様がゆずりでしょうか? しかし、流石にワガママがすぎますね。これ以上、逆らうと」


『あなた、そこまでバカだったのね』


「「!?」」


 だけど、その瞬間、どこからか声がした。

 

 俺の声でも、ベビ男の声でもない、大人っぽい女の人の声。


「あ"あ"ぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁ!!?」

「ひッ!?」


 すると、急にベビ男が叫び声を上げて、俺は床にほおり出された。


 担がれた体勢から、いきなら離されて驚いたけど、そのおかげで自由になった俺は、ミーの元にかけよりつつ、改めて男をみつめた。


 すると、そのヘビ男は、自分の右手をおさえながら涙目になっていた。


(な……何が起こったんだ?)


 正直、よく分からなかった。


 だけど、その瞬間、ピトッと可愛らしい音をたてて、俺の前に何かがおりたった。


 赤と黒のゴシックドレスを着た、女の子の人形が──


『この子は、アラン様じゃないわ。あなた、どこまで単細胞なの?』


 んで、その人形が立ってる!

 しかも、喋ってる!


「!?!?!?」


 軽くパニックになった。


 ヘビ男の次は──動く人形!?



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