第1話 四丁目のお化け屋敷


 好きなことをしてる時って、すっごい楽しいよな!


 例えば、ゲームをしてる時とか、音楽を聞いている時とか、友達と一緒に遊んでる時とか?


 みんなは、何をしてる時が一番楽しい?


 ちなみに、今俺がしているのは、2に好きなこと!




 ◆◇◆



「行けー、颯斗はやとー!!」


 秋も深まる10月。俺はその日、ゴールポストにシュートを決めていた。

 

 桜川小学校。この日の五時間目の授業は、クラブ活動の時間で、サッカークラブに入っている、俺『威世いせ 颯斗はやと』は、 二チーム・赤と白に別れて、試合をしていた。

 

 四年生から六年生までの男女が入りまじるその試合は、かなり白熱していて、俺がシュートを決めたと同時に、試合終了のホイッスルがなり響けば、同じチームの生徒たちが、一斉に俺のもとに集まってきた。


「うおっしゃァァ!! やったな、颯斗!」


「すごーい、威世くん! カッコイイ~」


「やっぱ、威世はサッカーの才能あるよ! Jリーグ入れるぜ、Jリーグ!」


「……そ、そうか? ありがとう」


 試合は、8対7で、俺達「白組」の勝利。


 クラスでも、それなりに背丈があって、赤毛の髪が特徴的な俺は、誰もが認めるほどサッカーが上手かった。


 もともと運動神経はよかったけど、サッカーに関しては『威世がいれば必ず勝てる!』なんて言われてるほど。


 だけど、Jリーグなんて、そんなを言う友人たちを見て、俺は苦笑いを浮かべた。


 サッカーは、好きだし楽しい。

 カッコイイとか、すごいと褒められるのも、もちろん嬉しい。


 だけど、俺には、があった。それは……


「颯斗~、今日の放課後、またサッカーやろうぜ!」


「……え?」

 

 タオルで汗を拭きながら考え事をしていると、また別の友人に声をかけられた。


 短髪でテンションの高いその男子の名前は、九条くじょう 勝也かつや──通称・っちゃん。


 勝っちゃんとは、幼稚園のころから仲が良くて、放課後は、よく一緒に遊んでるんだけど


「あ、ごめん。俺、今日は用事が!」


「えー、颯斗これないのかよ~。じゃぁ、本田は?」


「あ、俺もムリ。サッカーボールがなくなっちまって」


「え、なくなった? なんで? この前、新しいの買ってもらったって言ってたじゃん」


「そうなんだよ! それなのに、持ってかれちまったんだよ! 例のに!!」


「「ええぇ!!?」」


 ──お化け屋敷。


 その言葉を聞いて、場の空気が一気にざわめいた。生徒たちの中には、青くなったり、びくついたり。


 そのお化け屋敷の話は、俺達が暮らす、この桜川さくらがわという町では、とても有名な話だった。

 

 ──四丁目の洋館には、幽霊が出る。

 

 いつからか、そう言われるようになった、そのバカでかい屋敷は、もう何年と空き家になっている家だ。


 昔はどっかのお嬢様が、執事とメイドと一緒に暮らしていたらしいけど、その頃の面影なんて一切なくて、今は荒れほうだいの廃墟はいきょ

 

 少し前までは、格安で売りに出されていたこともあったらしいけど、住む人住む人、すぐに引っ越してしまうらしく、今では誰も寄りつかなくなった、いわくつきの屋敷だ。


「うえー……マジかよ。持っていかれたって、どういうこと?」


「それが、昨日サッカーやってたら、またまた屋敷の方にとんでっちまって……取りに行こうとしたんだけど、あの家に入った瞬間、スゲー異臭いしゅうがしたんだよ!? あれ絶対、死体とか埋まってるって!!」


「ヤダー! やめてよ、変なこと言うの~」


 本田君の恐怖体験をきいて、数人の女子たち悲鳴ひめいをあげた。


 異臭がするとか、なにそれ怖すぎ! そりゃ、持っていかれたって言いたくなるよな?


 結局、本田くんは、それ以上は進むことが出来なくて、サッカーボールは諦めることにしたらしい。

 買ってもらったばかりのボールをなくして、親にも叱られて、散々だったといっていた。


「おーい、雑談はいいから、片付けするぞー」


 すると、怖い話で盛り上がる俺達の話に割りこんで、クラブ顧問の伊勢谷いせたに先生が声をかけてきた。


 もうすぐ、チャイムが鳴る。


 俺達は、さっと気持ちを切りかえると、全員で片づけをして、クラブ活動を終えた。


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