第17話 お誕生日。


 彼女にぬいぐるみを上げた。といってもUFOキャッチャーで、今、流行アニメに出てくるアニマルキャラの猫。

 である。


「わぁ、かわいい」


(うまく釣れたことに安心。上にものすごく喜んでくれている安堵)


 彼女は大きなぬいぐるみを胸に抱くも体から溢れすぎ、逆に抱かれているみたいだ。


「ぬいぐるみに抱かれているみたい」

「ふーんだ。私は小さいですよ」

「そんなことないよ」


 彼女の身長は163センチぐらい。小さいのかな? 

 僕も身長が170とぎりぎりなので、よくわかんないや。僕とぬいぐるみに挟まれる彼女は小さく見えた。片頬が猫に圧迫されて潰れてるけどもう片方の頬はぷくりと膨らむ。

 そして今抱く猫と同じゆるい顔にすぐ戻る。僕は安堵しふき笑う。


 実は今、彼女が手にしているのは誕生日バースデイプレゼント。


 ごめんね。今はまだせいぜいここまで。

 だって僕まだ高校生だもの。バイトも許される範囲でしかやってないし、親からもそんなには貰えていない。

 こんな僕がしてあげられる、精一杯の贈り物。

 情け無いな。

 同級の中には鞄や指輪を上げているとか話に訊くけど、僕が持つお小遣いでは……とてもとても。

 なぜ景品クレーンゲームなのかという先日、これが入荷すると告知があったのだ。

 このキャラクターは彼女のお気に入り。入り口に貼られたポスターをガン見の彼女。


「どちらでも良いよね? 一発じゃなくてもすぐ引っ掛けるから」

「うん」


 大きなぬいぐるみが二つ並ぶショーケースを前に、僕はガッツポーズを作る。

 実はこのクレーンゲームには凄く、自身がある。

 いつも遊びで通いつめた腕の賜物だ。

 一回とはいかなくても二回、で吊り上げるというか転がすというのか、自信あるこの腕前を披露すると彼女は喜んでくれた。


「一回800円のぬいぐるみにしては大きいよね。どうやって持って帰ろう」

「お父さん呼ぼうか?」

「いいの? でもいないんじゃ」

「いや、いるよ。今日はお願いしてあるから」

「え、そうなの」

「うん、だって今日ゲーセンで遊ぶ話もしてあるしそれにほら、ご飯。僕ん家で食べるでしょ?」

「電車だと思ってた……」


(いや、この大きさは電車は迷惑でしょう?)


 ものすごい笑顔でほほ笑む彼女がいるけど僕の心は少し、ちくり。

 針が刺さる。

 「どうしたの?」と、訊ねるかわいい笑顔に僕は甘える。


「ごめんね。僕の事情でせっかくのお誕生日が」

「ううん、私お家ごはん大好きだよ。今日のご馳走はなんだろう」

「うん、それは着いてからね?」

「って当てて良い?」

「え?」


 朗らかに笑む彼女はすらすらと、当てていく。


「ミートソースのスパゲッティに、コーンスープ。それと鮭と鯛のカルパッチョに、え〜とねえ〜と」


 どうしよう、当たってるんですけど、バレてるんですけど用意しているお料理全てのメニューが……。


「あっ! 卵もあるね? オムライスかオムレツ。う〜んあとはピザかドリアあっでもそしたらオムレツかぁ〜」


 僕は顔を赤面させ、固まる。僕の胸を持つぬいぐるみの手でつんとつつき、にやりとしたり顔で笑う女の子がいる。


「どう、ほとんど当たり?」

「うん、当たり。ダメじゃん、当てたら」

「だって、お料理上手なあなたが私の誕生日に家に上げてご馳走ってどこから用意するのよ」

「どこって……」

「私の嫌いな物なんて用意出来ないでしょう。でも聞かずに料理を用意する、となると普段一緒に行くファミレスとかから考察するしかないじゃない」

「参ったな」


 僕の家は父子家庭の上、弟と妹がいる4人家族だ。だからデートもすごく低コスト。

 ほとんど学割利用出来るからそれにあやかった場所ばかり。お泊まり旅行も遠出も、あまりしたことない。遠くに行くにしても二区間先の科学館や美術館か日帰りかである。

 でも彼女は不平を述べたことがない。いつも笑いながら付いて来てくれる。

 僕には勿体無い彼女だ。


「今日はお父さんも一緒に食べるの?」

「う、うん、でもね……」


 僕はある事を告げると彼女は笑いつつ頬を赤らめ、照れ笑いする。僕もつられ微笑んでるところに。


「おお、また大きいのを貰ったね」


 父が迎えに来てくれた。車から降りてくると後部座席のドアを開き、彼女の手にあるぬいぐるみを受け取る。


「はい、前からお願いしていたぬいぐるみ。すごいんです、彼の腕前」

「うん、知ってる。でもおじさんもすごいよ。釣りなら誰にも負けない」


 手にあるぬいぐるみをぶんぶん振り、魚釣りのそぶりを見せる父がいる。


「うん、知ってます。この間は鯵をありがとうございます。まさか今日の鯛も?」

「……ダメじゃないか。メニュー伝えるなんてサプライズにならないよ」

「だって、言い当てられたんだ」


 彼女は笑いながら後部座席の奥に進んだ。僕も横に座れと背中を押される。


「そうか。読まれたなら仕方ないがまだ読みが甘いな」

「? 何があるの」

「ふふん、着いてからね」


 お父さんはぬいぐるみを助手席に座らせ、シートベルトを付けさす。


「わぁ。それかわいい、すぐ写メりたいです」

「うん、降りてからね。まずは帰ろう」


 そうして僕らは家に着く。「ねぇ、ねぇどこどこ?」と車を降りた瞬間、彼女はきょろきょろと周囲を窺い何かを探す。


「さぁ、探してごらん?」

「はい、お言葉に甘えて失礼します」

 

 彼女は何かを探す。実は先ほど、彼女に耳打ちしたのは弟と妹が彼女が以前上げた着ぐるみパジャマを着て隠れて待っていることを伝えたんだ。

 「家着いたらかくれんぼだよ?」と囁いた。

 かくれんぼはここに来ると必ずする恒例となったお遊び。そしてどちらかが宝物を持って潜んでいる。いつもはお菓子や漫画の本だけど今日は……。

 

「ほう、かくれんぼが始まったな。ではお父さんは最後の仕上げをするか」


 最後の仕上げとはケーキの飾り付け。

 さて僕も用意しよう。実は別で用意してあるんだ。そして下の弟妹たちも手に……。

 今日も、彼女の良い記念日になりますように。


「ハッピーバースデイ」


 

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とある街並みの風景。 珀武真由 @yosinari

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