第11話 温かい猫
猫が一匹。自分の傍らでうとうと寝ていた。
もう一緒に過ごし何年経つか。
考えたことはないが、虚ろとする瞳の網膜の色は少し濁っていた。
たまに、ベランダに出て、一緒に景色を眺める。
猫を抱きかかえ、ベランダの
人が通るたびに、小刻みに首を振る猫に微笑んだ。
小さい人の姿を捕らえるとキュウと瞳孔を閉じたり開いたり。
「ん、獲物に視えるか? でも届かないよ?」
訊ねると、首を動かせこちらを見上げる猫はふさふさだ。
時折、耳がぴぴくと動き、先端が顎を掠めた。耳先の体温を感じ、耳の柔らかさが当たるのがうれしい。
「ふふ、こそばいな。でも気持ちいい、お前は本当に気持ちが良いな」
ぽつり、ぽつりと呟くたびに猫は耳を動かした。猫の顔を自分の顔にぎゅっと押し付け猫の柔らかさ、毛質を堪能する。もちろん景色も。
行き交う人々を猫と会話をしながら眺めるのも乙なモノだ。
猫は何を感じているのかは分からないが、瞳孔を輝かせたまにミュッと声を立てた。
「楽しいか? 外に出たいか?」
訊ねても声に反応はなく、道路を歩く人、たまに通る車に反応していた。
そのたびにぴぴく揺れる小さき者。
「ふふ、何を考えてるのかな」
胸に抱く猫は動くたびに、顎に、首筋にふわふわ、ふさふさ。
──やわらかい───。
部屋の中からしか外を見たことない猫が、何を考えているかは分からない。空と隣に建つマンション、ベランダに留まる小鳥を窓越しに捉える猫が今日はベランダに出ている。
「どうした? なにか面白いモノはあったか」
部屋でのんびり寛ぐのが良いのか、外を駆け回り本来の野生に戻る方が良いのか。
たまに考えさせられるが、そんなことはこの仔たちにはどうでも良いものなのか……。
「中に入っておやつを食べようか」
言葉が本当に分かっているのか解らないが猫は小さく頷いた。
「ミャウゥゥウ」
そんな猫に笑みしたあと、また外を眺めた。風が心地良く、自分と猫を撫でた。しばらくはジッと街並みを風に身を預けていた猫だが……。
下から響く同類の声に反応した。
耳を尖らせ、瞳孔をキュウと閉じ、真っ直ぐに何かを感じ固まる猫。
「ん、どうした」
声を掛けるといきなり慌て、部屋へと飛んで行った。
良く分からんが部屋が良いのか?
窓を閉じ、猫を見ると尻尾を優雅に揺らしゆったりと前を進む。たまにこちらを、目配せして歩く姿は
「外よりも此処がいいの」
と聞こえてきそうだ。
勝手に解釈してしまうそんな自分は本当に自分勝手だと思うが、この仔と暮らす生活が当たり前で。
自分には生活風景の一部だ。
「はいはい、おやつですね、何を食べようか?」
横を歩く猫に、今日も依存して生活をする自分がいる。
こんな風景があっても良いかと思い、心から喜ぶ自分がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます