第10話 とある教室の風景。


「これ、貰ってください」


(ナヌッ?)


 体育館の脇にあるベンチで寝ていると声がした。急いで飛び起きたのだが。

 声を掛けられたのは、俺ではなかった。


「ん。コホン、ゴホッ」

「あっ、すみません」


 慌てて消えて行く男女二人。


 はぁあ、そうか。今日は例の日か……


 考え起きた俺。


 気が付くと、俺が寝ている場所は男女の憩いの場と化す。


 何だよ。

 チャラチャラ、浮かれやがって。


 カップルが成立する者しない者。

 俺は横目で見つつ、去って行く。昼寝を邪魔された上に、腹立つ所を見せられた。


 ああ、これは僻みさ。自分が貰えるはずがない。


 教室に戻ると、ここはここで、例のイベント場所に。


 浮かれたヤロウと悄気るヤロウ。

 無関心なヤロウと、関心あるヤロウとに。


 誰だよ。こんな日を作ったヤツは、そもそもこれは日本の行事じゃねぇだろう?


 周りの賑わいに心が濁る俺がいた。


 気が付くと俺は席で寝ていた。

 授業も知らない内に終わり、皆が急ぎ足で帰る。


「おお。よく寝て」


 ヨダレを垂らす俺にハンカチを出す女がいた。後ろの席のそこそこ可愛い子。

 挨拶と軽く言葉を交わすが、それ以外は……まあ、時折ノートを貸したり、教えたり。でも、ここ以外の接点は皆無。


「先生が怒ってたよ。でも起きないとは気持ちよく寝てたんだね」


 俺は出されたハンカチを押しのけ、シャツの袖でヨダレを拭いた。

 一言、礼を述べ席を立つ。


「あっ、これ」


 可愛いビニールの袋に入った板チョコを渡された。


「クラスに配ったんだけど、あなただけはいなかったから」


 礼を述べ、受け取り無造作に開けた。その子の前で食い始めた。


「あっ、君は家で───!」


 言われて気がついた。

 半分、食べかけのチョコを見て茫然。チョコの残りに文字がある。


 「好」の一文字。


「えーと」


 彼女の顔は赤いが、俺は青い。


 食べる前に言ってよ──!


 チョコを握りしめ、机に項垂れる。気にせず食した俺もだが、お~い。


 こんな告白はアリなのか。


 照れる彼女を前に俺は笑う。

 赤い顔は、口を半開きに歪めもじもじしていた。

 俺は思わず食いかけのチョコを突っ込んでしまう。

 内心、俺も照れたから。


 俺の無関心も関心へと変わった。

 

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