第9話 ご褒美。


 「うふふ、ショラティエのお店は贅沢。でも、今日は私のご褒美」


 デパートの地下に、チョコの専門店がある。数える程しかない数店の内の一店舗がお気に入り。

 店のガラス越しに並ぶ、色とりどりの綺麗なチョコ。

 茶色のベースさながらに輝く宝石のような小粒のチョコ。緑や、黒、ピンク諸々の板チョコは勿論、基本の板の上に咲く花や蝶や雪。


「ああ、口に入れるのが勿体ないけど入れないと余計に勿体ない」


 チョコなのに宝石のようにツヤツヤと艶めかしく光る物体。

 見惚れるしかない。


(今日は新作もある。白い梅の形に緑のホトトギスかな。ちょこんと乗るイメージが模されたチョコ。夏は緑の葉の形に乗る蝶のチョコ。ああ、梅雨時期は白いカタツムリと紫陽花、冬の時期は白い粉──と。何とも言えない趣向の数々……)


 見てて飽きない宝石に、私は虜になっていた。


(和菓子もこういう手合いのモノがあるけれど私は洋風派。今日は本当に何を愛でて、口の中に放り込んでやろうか)


 たかが菓子、然れど菓子。


(でも、お高いのです。一つ一つが高級なのです。そして可愛いく、綺麗でう~~このジレンマが楽しい)


「ありがとう御座います」


 結局、3粒しか買えなかった。3粒で1560円。

 パテェシエが作っている。

 たかがそれだけの理由……


 でも、いいの。自分のご褒美。


 満足して家に帰り、早速箱を開けた。

 可愛いチョコが並んでいる。

 ホトトギスのチョコを選んだ。


 されどチョコ、されどご褒美。


 自分の頬に広がる満足に見たされ、自分を労う。

 されど自分、されど……

 何と比べればいいのか。

 と、言うか何を比べているんだろう自分……


 高いチョコにボーとして小さい時間は過ぎる。自分のご褒美がこれかと思うと哀しい気もするが、これはこれでと納得して時間を過ごす自分に酔いしれた。

 明日から始まる1週間に向けて。

 ささやかな時間の自慢です。

 

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