第8話 帰り道。
ピポポーン。ピポーン。
「はーい。〆て、二百四十六円です」
「はーい。フウゥ」
レジでお金の流れる音と、人の出入りの鐘が響く。
俺はコンビニで冷たい茶と菓子のべビスターを買い、自動ドアをくぐる。
(ああ、疲れた)
仕事帰りに寄った店で、気まぐれに購入した菓子の袋を開けた。
懐かしい菓子を頬張り、バリバリ。一瞬だけ耳に騒ぐ音がある。夜も更けすぎ、静かな歩道に咀嚼音があるというよりは自分で奏でているのだ。
(いつから、大人に成ったのか)
時の流れに世知辛いものを感じ、色々と物思う。いつもなら、こんなことは考えないのだが今日は特に考えてしまう。
(物事、思うようにはいかないなぁ)
バリボリと口に放り込んだモノをわざと音を立て食べているのは淋しさを紛らわす為なのか。
ため息交じりについた言葉は、いつもより気が重い。仕事のミスが目立ち、昼は昼で用意していた大好きなバーガーを落とす始末。
仕事のミスは今日だけではなく、昨日もその前の日も。
そして──、小銭をぶちまけるわ会社の自動ドアに挟まれるわ改札はカードを当てたのに閉じるわ。
数珠つなぎで不幸は起きる。
(フウゥ、ミスしまくりの上の不幸)
「ああ、この世が全て柔軟なら……」
つい最近まで、高校生だったように感じられたが時が経つのは早い。
自分が自立するために会社に勤め、社会の仕組みと言う檻にいつから囚われたのか。
(皆が通る道とはいえ、なんともはや……)
一緒に購入した茶のボトルを開け、一気に喉を潤す。
ゴキュ。ゴキュ。ゴクン……────クハァッ。
気持ち良さげに顔をあげたとき、手から何かが弾け飛んだ。
「あっ」
カラン、カラン、コキキッカラッ……
(あっ、フタ)
───……ポチャッ。
手から滑り落ちたソイツはまるで逃げるかのように跳ねると、気持ち良さげに隣に流れる川へとダイブした。
ダイブする様は、現実から逃れたい自分の姿と重なった。
(ああ、それがないと持ち帰れない……全部空けろと……)
自分が歩く舗道と団地の間にある川を、恨んだ。
こんな所に川がなければ今頃キャップは、回収できていたんだ。
たぷたぷと、気持ち良さげに流れていくソイツを見て泣かされるも、ほんの少しだけうらやましくも思った。
(枠からはみ出たか……まぁ。達者で)
拾うことも出来ずにいると、もう、目には見えない──。
仕方なく、ボトルの茶は全部飲み干すことにした。こぼすことを考えると、こうするしかない。
「ケホ」
自分の代わりに逃げたボトルのキャップを思い出し、ほんのちょっと、心が軽くなった。
軽く、笑った。
(まぁ、明日も頑張りますか)
暗い夜道をぽつぽつと一人、帰っている。
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