第134話 孤児院のお手伝い(1)
慣れた喧騒に身をゆだねながら、レイとリリスの二人は冒険者ギルドの依頼ボードの前で依頼票を物色していた。
「ん~~。あんまりいいのが無いね~」
「ユールクとエストばかりだな」
「エストはともかく、ユールクはしばらく見たくないよ~」
ユールクの動きを思い出したのか、リリスは空を見つめて身震いした。二人は先日これらの採集依頼を受けたばかりだが、あれから益々ユールクとエストの実は品薄になり、価格が高騰している。特にユールクの実は味の決め手になるので、それらを使用している飲食店にとっては死活問題だろう。
必然的にそれらの採集依頼も日増しに増えている。二人は依頼ボードにびっしりと貼り付けられている、それらの依頼を避けながら、手頃な依頼を探していた。
日は高く上り、時刻は昼に差し掛かるかといったところ。良い依頼は他の冒険者がかっさらっていったのだろう。「ユールクの実求む!」と書かれた依頼票が、風に吹かれて虚しくはためいている。
「……少し宿でのんびりし過ぎたな。今日は依頼を受けずにその辺の森か、迷宮へでも行くか?」
「ん~~。あ、ちょっと待って」
早々に依頼を探すのを諦めたレイが、依頼ボードの上で目を滑らせる横で、リリスはしゃがみ込んだ。なんとなしにそちらへ目を向けると、リリスは低ランク帯の依頼を見ているようだ。
「それなら、こんなの受けてみるのはどう? そんなにお金にならないけど」
「ん?」
ペラリペラリ、とリリスが手で振る依頼票に目を落とす。どうやら町はずれにある、私設孤児院の手伝いのようだ。リリスが言う通り、依頼達成料が安い。Fランクの依頼とは言え、相場よりも割と低く設定されたこれは、受けようという冒険者がいないのも納得の依頼である。
「えっとね~。
「私設孤児院か。珍しいな」
「だよね。どんなところなのか、気になって。あと最近小さい子と触れ合っていないから、そういう下心もあったり無かったり」
「なるほど」
錬金術師ニコルのところにいたノアにも、かわいいかわいいと過剰に構っていたリリスである。きっと子どもが好きなのだろう。
綿弾草は、ふわふわモコモコとした白い
採取の手伝い、ということは綿弾草の畑があるのだろう。ちまちまと採取するのは面倒だが、たまにはのんびりとこのような依頼を受けるのも悪くないかもしれない。レイはリリスに是、と返した。それに喜んだリリスが、受付へぴょんぴょんと駆けていく。レイものんびりとその後に続いた。
受付に聞いたところ、やはり誰もこの依頼を受ける気配がなく、困っていたそうだ。一応、ギルドとしてはランク相応の依頼を受けることを推奨しているが、このように報酬が安すぎる依頼は日々の生活で精一杯の低ランクからは敬遠されがちだ。そういった場合は、ある程度生活に余裕のある冒険者が、暇つぶしや気まぐれで受けても文句は言われなかったりする。
ということで、依頼を受けたレイとリリス、ついでに実は気配を消してレイの後ろに立っていたゼドも一緒に孤児院まで歩いている。孤児院はピッオスの町はずれにあるらしいが、はずれもはずれにあるらしく、意外と距離がある。
「……ゼドは、宿に戻っていてもいいんだぞ」
「いや、我も孤児院というものに興味がある。依頼は受けておらんが、近くで観察するくらいはいいだろう」
「……依頼主に聞いてみるが、失礼なことを言うなよ」
「ふむ。あいわかった」
ゼドに悪気はないのだが、如何せん人とは感覚が違うために、若干言動に不安に感じるレイである。だが、この様子ではついてくるなと言っても勝手についてくるのだろう。
フラリとどこかへ消えていたゼドであるが、今朝方またまたフラリと帰ってきた。消えていた間、何をしているのか謎だがあえて尋ねることはしない。藪をつついて蛇を出すことをしたくないからだ。
「孤児院って言っても、私設孤児院なんだよね。どんなところなんだろう」
「さぁな。私も初めて訪れるからわからん。受付嬢は、随分とこじんまりとした孤児院だと言っていたが」
この世界の孤児院は、一般的に教会に併設された施設を指す。その町の教会にもよるが、そこそこの規模があり、つかず離れずを保ちつつ冒険者との繋がりも、そこそこあるものだ。
レイとリリスの二人も、ギルドよりも安い料金のため面倒な解体を頼むこともあれば、傷が多くてギルドで買いたたかれる獲物を寄付したり、干し肉などの加工品を購入したりすることもある。冒険者が頼む解体は、ゆくゆくは孤児たちの仕事となり、寄付された魔獣の肉や素材は孤児院の運営費用の一部を稼ぐべく加工品となる。
そうして、冒険者と持ちつ持たれつな関係を保っているのが教会であり、それに付随する孤児院である。
今回向かっている孤児院というのは、その教会付随の孤児院とは全く別の施設であり、完全に個人で運営しているらしい。
「どんな場所なのかな~」
ぴょんぴょんとリリスが跳ねると、その小さな頭の上で茶色い兎がビヨンビヨンと跳ねる。それを見て、穏やかな気持ちになるレイなのであった。
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