第131話 食材集めの迷宮へ(2)
その生き物はやや肉厚で幅広の葉をしならせ、それをまるで足のように動かしながら、のっそのっそと這いずるように進んでいる。更に、その蛸の足のような葉の上部には緑色の瓢箪状の突起物がついていて、それがまるで顔のようにも見えるが、幸い目や口といったものはついていないようだ。リリスは思わず、隣に潜むレイに向かって小声で話しかけた。
『何あれ。なんか気持ち悪いんだけど……』
『あれがユールクだ』
『え、どう見ても魔物にしか見えないんだけど……』
『魔物に見えるが、あれは植物だ』
レイの言葉に納得いかない、といった顔をしたまま、リリスはその奇怪な生き物を眺めた。ユールクは目が見えないようで、前側にある長い葉を起用にも伸ばし、ツンツンと辺りを探っている。しばらく様子を見ていると、先ほどレイがその辺にばら撒いた
『うわ~~。何が起きているかよく見えないけど、なんだか気持ち悪いよ~~』
『リリス、静かに』
思わず自分の腕をさするリリスを宥めながら、レイはそのユールクの食事風景を見守った。しばらくすると、食事が終わったようだ。ユールクは再びゆっくりと動き出す。
『いつまでこの気持ち悪いのを眺めていたらいいの……』
『もう少し』
あまりの気持ち悪さに半泣きのリリスを無視して、レイはジッとその時を待った。
そうこうしているうちに、ユールクはプルプルし始めた。隣でリリスが『何あの動き、気持ち悪い』と顔を青くしているが、ジッと見守っていると、瓢箪部分が大きく膨らんでいく。かと思うと、その上部からポーンと緑色の球体を勢いよく吐き出した。噴出された球体は空高く高く、飛んでいく。
「リリス、収穫!」
レイはそう言って、いつぞや使った網を取り出すとリリスに持たせた。リリスは慌ててそれを受け取ると、空高く舞って落下してくるその実を取り落とさないように駆け出していく。
「ほっ、ほっ。あ! レイ、ひとつそっちに行った!」
「大丈夫、任せてくれ」
こうして、二人はその辺を駆け回って、ユールクの実を得た。二人が実を集めて元の場所に戻ってみると、そこに先ほどまでいたユールクの姿は無くなっている。どうやら逃げてしまったようだ。
「一、二、三、……八。八個か~。足りるかな?」
「もう一回か二回、遭遇出来ればいいんだけどな」
「う、う~~ん。またアレを見るのは嫌だなぁ……」
結局二人はその後、三回ユールクに遭遇することが出来た。が、思ったよりも時間を取られたため、この日は一度十層まで戻って
パチパチと薪の爆ぜる音を聞きながら、リリスは手元の湯気が立つスープを啜った。辺りは生き物の気配もしないので、とても静かだ。幸い、今日この
「ぷは~。生き返る~~!」
「リリス、こっちの肉も焼けたから食べるといい」
「ありがと。ん、んま――!」
「ん、確かに。タレが効いている。採れたてのユールクの実はこんな味なんだな」
「う。そう言われると食べるのに抵抗を感じるけど、美味しいものに罪はない!」
折角苦労して収穫したので、早速採れたてのユールクの実をタレとして、適当な肉の串焼きを作ってみたのだ。全く熟成させていないので、それほど期待していなかったのだが、コクやまろやかさは足りないもののあっさりとした味わいで、これはこれでアリである。
「自分たち用にもう少し確保したいところだが、収穫に時間がかかるのが難点だな……」
「そうだね。それに気持ち悪いっていうのがね……」
レイは言うほど気持ち悪いとは思わなかったのだが、リリスはあの動きがダメだったようだ。思い出しては「気持ち悪い」と腕を擦っている。その割に、調味料として使った実には抵抗が無いようなので、純粋にあの動きがダメだったのだろう。
「リリスは、禪とパーティを組まなくていいのか?」
それからしばらく、むしゃむしゃと無心で肉を食べていたリリスを眺めていたレイであるが、ついポロッと先日から何となく思っていたことが口をついて出た。
以前リリスに確認した時には、Sランクの禪が実力不足の自分が組むのは忍びないからこのままでいいと言っていたし、二人が忙しい合間を縫って仲良くしていることは知っているのだが、このところの禪の忙しさと二人のすれ違い生活を見ていると、それでもどうしても気になってしまう。
何より、一番最初に禪からパーティに加わりたいと打診を受けた時に、レイはリリスの意思を聞くこともなく、すげなく断ってしまったのだ。以前と今とでは状況が異なるとはいえ、何となくレイはそのことを申し訳なく思っていた。
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