第16話 いざ、リケ村へ(4)
日が暮れてきて、少しずつ辺りが暗くなってきた。リリスは、
野営の準備はほぼ完了している。リリスは器用にも木の上に簡単な寝床を作成し、レイはその木の下を適当に整地した。魔物除けの魔道具の灯りが、ほのかに辺りを照らしている。
「その魔物除け?って見たことないけど、どういう仕組みなの?」
「この上についている魔石に魔力を込めると、その光が届く範囲は魔物が寄って来にくくなる」
リリスは、そのランプの形状を持った魔道具の上部を覗き込む。見たこともない、文字なのか絵なのかすらよくわからない模様がびっしり刻まれており、その中心で魔石が光を放って揺らめいている。
「へ~、よくわからないけど高そう。迷宮品?」
「あぁ、宝箱から出てきた。魔法が発動しているみたいだな」
「これも高級品か~。あ、そろそろいいかな」
リリスはナイフを刺して、火の通りを確認する。ちなみにこのナイフはちゃんと調理用である。
表面はカリカリに焼けており、ナイフを刺したところから肉汁が染み出してくる。ハーブも香って、実に美味そうだ。
「では、こちらも注ごう。リリス、器を」
「ん。レイもお皿ちょうだい」
リリスは丸焼きを切り分け、レイはスープを注ぐ。ついでに先日採集した、ピークの残りも水で軽くすすいでリリスに二つ渡した。
こうして二人はようやく夕食にありついた。もうお腹はペコペコである。リリスは肉を回している時も、ずっとお腹を鳴らしていた。
もうこれ以上、我慢できない!とばかりに早速肉にかぶりつく。
「ん、ん~~! 美味しい!!」
「確かに! これは美味いな」
ねじ込まれた薬草に不安を感じていたが、食べてみるとその薬草がいい仕事をしている。肉の臭みを取り、旨味を引き出しているようだ。更に薬草の薬効が染み出ているのか、食べているうちに体がポカポカし、若干疲れが取れるような気がする。
「お? このスープも美味しい!食べたことない味だよ。旨味がすごい出てる」
「あぁ、このキノコを使っているからな」
そう言って、レイはアイテムボックスから茶色いキノコを取り出した。
「え?え、ちょ、ちょっと待って!?
(……しまった)
レイに限ってそんなことはないはず、と思いつつも、レイが取り出したキノコを見て、リリスは顔を青くした。
「……悪かった。これは大丈夫だ。説明するからちょっと落ち着いてくれ」
レイはこれまでずっと一人旅だったため、うっかりしていた。護衛依頼などで周りに人がいる時は、買ってきた食事で済ませていたし、それなりに自分の言動には注意し、周囲を警戒している。が、リリスといると少し調子が狂う。完全に油断していた。これは完全にレイの落ち度である。
レイは、これは
「……わかった。確かに、狂茶茸だったら今頃死んでるもんね。レイを信じるよ。もちろんこのことも誰にも言わない」
「驚かせてすまなかった」
レイはホッと息を吐いた。
リリスは、普通の人が判別できないキノコの見分けを、完璧にできるレイにひっかかりを覚えたが、深く考えないことにした。
(キノコマスター? 実はそういう副業で大金を稼いでいるとか?)
リリスはいささか見当違いなことを考えたが、別にどうでもいっか、と思考を放棄した。今は美味しいものに集中したい。それにレイは自分がエルフであることを知っても、どうでも良さそうだった。さらにその上、とても良くしてもらっている。レイが秘密というなら、いくらでも胸に秘める。リリスは普段から想像できないくらい、そういったことにはちゃんとしていた。
レイは、リリスが信用に足る人物であることは、実は初めから分かっていた。だからこそ、ギルドに押し付けられても断らなかったのだ。ちょっと面倒だとは思ったが。なので、そのことについては心配しなかった。
(だが、ちょっと気を引き締めなければ……)
穏やかな時間に気が緩んでいたが、下手をすればリリスを厄介ごとに巻き込みかねない。今は一人ではないので、もう少し慎重にならなければ。レイは自戒の念を強めた。
そんなこんなで、少し慌てることもあったが、その後の二人は穏やかに語り合い、優しく美味しい食事を満喫した。
(リリスの料理の腕を疑って悪かったな)
丸焼きは少し量が多いかと思ったが、綺麗になくなった。
食事の片付けも終えて、リリスの薬草の知識をチェックしたりしながら、のんびりと語りあい、リリスが欠伸をしたところで、リリスが先に就寝することになった。
「おやすみ、レイ」
「おやすみ、良い夢を」
草木も眠る静かな暗闇の中で、魔物除けの魔道具の優しい光が二人を包んでいた。
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