第1章 出会い

第3話 ギルドマスターからのお願い(1)

 ーーリンド大陸南部の国 マーラ公国のとある町


 昼をやや過ぎて、いつもの喧噪けんそうが鳴りを潜めた冒険者ギルドの扉をくぐるものがあった。


 今朝も血気盛んな冒険者が多く詰めかけたであろう。いつも依頼を掲示しているボードには数枚の依頼が残るのみで、開いた扉から吹き込んだ乾いた風がその紙片をほんの少し浮き上がらせた。



 入り口から受付へまっすぐ進むのは、ここのところこの町を拠点に活動している冒険者である。

 男性の平均身長より幾ばくか高く、濃紺色のローブをまといフードを目深に被っている。スラリとした体系のようだが体幹を鍛えているのか歩き方に無駄が無い。



 席で暇を持て余していた受付嬢がその冒険者に気付き、顔に喜色を浮かべた。

「レイさん、もうお戻りですか?」


「あぁ、依頼の確認を頼む」

 レイと呼ばれた冒険者は、腰に装着しているバッグからギルドカードと討伐部位を受付に出した。



 フードで顔を隠しているが、立ったままのレイに対して、受付嬢は椅子に座っているため必然的に見上げることなる。


 今日もレイさんホントかっこい~!などど心の中で大絶叫しているが、顔に出さないように努めながら、受付嬢はギルドカードを受け取った。


 レイは青みのかかった銀髪に青紫色の瞳を持ち、その顔はかなり整っている。

 武骨な冒険者の多い中で姿勢の良さや所作の綺麗さも際立っており、密かに受付嬢たちは『王子様』と呼んでいた。


 もちろん彼女たちは、レイが女性であることを知っている。本人も隠している訳ではないし、聞かれれば偽ること無く答えている。


 だが、彼女たちから見れば、レイはどこからどう見ても物語の中の王子様のイメージにぴったりなのだ。

 日々むさ苦しい冒険者の相手ばかりしている彼女たちは思う。ちょっと夢を見るくらいいいだろう、と。


「はい、確認しました。依頼達成で処理させていただきますね」

受付嬢は自分の最も自信のある角度で笑顔を作り、レイのフードの下を覗き込んだ。


 レイは無言で頷き、それに答える。


 自信のある笑顔をスルーされ、内心ガックリしている心情を笑顔で覆い隠した彼女は、ギルドカードで照合された情報を見て何かに気付いた。


「レイさん、マスターがお話があるようです。今お時間大丈夫ですか?」

「特には問題はないが」


 ギルドマスターに呼ばれるような用件に思い至らず、レイはほんの少し首を傾けた。


 レイさん顔がイイ!素敵!! という心の声を鉄壁の笑顔で隠した受付嬢は、「それでは少々マスターに確認してきますね」と笑顔を残して席を立った。



 特に混む時間ではないのでそのまま受付で待つことしばし、奥から受付嬢が戻ってきた。



「お待たせしました。奥でマスターが話をされたいとのことです」

レイはそれに頷いて、カウンターの奥へ続く道へ進んだ。

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