第34話 優しき者の手助けで能力を得る
白い天井、二本の蛍光灯。
学校を出た優希達はヤミのところに身を預け、葵はちび巫女たちと戯れる。
ヤミは四階建てのビルを住居にしていた。一階はリビングキッチン、書斎にと改良され、二階は自身の寝室と巫女たちの寝室、三階、四階と自適使用に。
その二階にあるヤミの、ただ寝床があるだけの殺風景な部屋に優希はいた。そこにあるベッドの上で、優希は翔を膝に乗せ落ち着く。
音も無く、ただ静かな壁に囲まれた四隅を見渡す。長い蛍光灯はちかちかと光っては消えるを繰り返しており。パッパンと接触悪い灯を見て優希は、首を捻る。
電灯の接触は翔の能力の歪みから起きているのだが、優希には分からない。ただなんだかなぁと、汚れ一片もない天井に顔を上げていた。
「うぅん」と唸る翔に優希は慌て、下を向く。
(気持ち良さげに寝ている……)
優希は寝つく翔の髪をやさしく撫で、気持ちを落ち着かせているとその上でくすぶる蛍光灯はパシッーンと爆ぜた。
耳を
「キャッ!」
翔は優希の声に反応し、ゆっくり瞼を開けた。大好きな甘い……、甘露の響きがそこに或る。
「優……」
「翔。気づいた?」
翔が目を覚ますと蛍光灯はパッと点く。優希は不思議そうに眼を上に向け、今はきちんと光る白色灯をまじまじと眺めた。
他事に気取られる優希は翔にゆっくり、手を引かれていく。
翔に手を捕られた優希は自分の体温の高さに戸惑いながらも、翔の手を摩り始めた。翔が「あたたかい」とぼやき、それを訊いた優希は何故か胸を撫で下ろした。
(良かった。普通だ)
と安心する優希の耳に、翔がぼやく。
「優。撫でて」
「えっ? うん」
寝そべる者は大好きな人の腰を抱き、その柔らかい感触に甘えた。優希はそんな翔に応え、「うん、うん」と唸る。
可愛いなぁと翔を眺める優希だったが服の擦れる音に、身体をぴくりと萎縮させた。
胸に触れる指の動きに、優希は戸惑う。
翔は優希の服裾から右手を潜らせ、肌を優しくなぞり、左手で器用にボタンを外していく。躊躇う優希を余所に、シュルと薄く擦れる布音。
気付くと胸を覆っていた下着は抜き取られ、抑えられた膨らみが自由になっていた。
「やっ。ここヤミさんの」
「……感じさせて?」
優希はもじっと腰をくねらせ「うん」と長い睫毛を揺らせ、首を縦に振った。
(優希がいる……よかった)
翔は優希がいることに安堵し、温かい身体を強く抱きしめ「生きてる」と囁いた。「うん」と優希が言う。
「甘い香り。クレープ?」
「うん。焼いてたよ」
「そうか」
翔は静かに頷き優希の体温に溺れ、今日の出来事を振り返る。翔の頭の中は今、優希より住人のことだらけだった。
(人格の言うとおり住人を何とか、いや人格を何とか? ああ、どっちなんだ)
翔は自分の失態を嘆くも、口は卑猥だ。優希の肌を貪ることは、忘れていない。
(あんなにも住人が表立つことは今までなかった。だが今日のあれはなんだ!)
翔は
(あの子泣いてたような……それに
翔は苛立ちを優希の白い膨らみに打つけ、思わず歯を立てきつく噛んでしまう。
「あっイッ!」優希は翔の口が胸に食い込む感触に、息を止めた。先ほどまで座っていた優希は翔に押し倒され、されるがままである。優希の驚きを目の当たりにした翔は思わず、耳たぶをきつく食んだ。
「はぅ!」
「ごめっ」
「あぅうう。大丈夫だけど、どうしたのっ?!」
涙目の優希に翔は口づけ謝り、柔肌にくっきりついた歯型を指で優しくなぞっていく。
優希は頬をぶわっと赤らめ、指に反応した躰を小刻みに身震いさせた。翔は満足そうに微笑する。くすくす笑う翔に優希は拗ね気味に頬を膨らませ、息を吸う。
呼吸を繰り返す優希の胸は大きく開くと、小さくしぼんだ。深呼吸に合わせ動く豊満な胸の膨らみに、くっきり浮き出た歯型がある。
翔はそこから視線が外せずにいた。優希の綺麗な白肌に鮮血がぷつぷつと丸く膨張したと思うとつつぅと、胸の丸みに沿って糸を垂らす。
「うわぁ、綺麗」
「きれいってもう! 翔のせ、い……だ─よ?」
優希は黙り、翔を見遣る。すると柔肌にあった紅い線は翔の指で遊ばれ始めた。ぬるりと這う感触に優希はぞくりと感じた。
遊びに夢中な者は指を動かせ、何かを思う。
(治癒力もそうだ。せっかく身につけたのにうまくコントロール出来ない)
優希はなぞられる指に甘く吐息させるも不意に、笑う。
「こそばゆいよ? ふふもう、なぁ〜に?」
翔も破顔さすが優希の肌に視線をおき、驚いた。指によって引かれる血筋をすうっと遊ばせていただけが、歯の痕も細くなり消えていく。
「!!」
「翔?」
翔は治っていく歯型にハッとすると急いで優希から離れ胡座をかいた。そして、着ていたジャージを剥ぐと肌を露出させた。
細いながらも逞しい胸筋にどきっと頬染める優希がいる。
(翔も無駄にきれいなんだよね)
照れた優希だったが晒された肩に付く疵痕にギョッと目を開かさせ、体を縮ませた。以前見た上半身の
(痛そう……)
優希は翔から眼を背けようとしたが背けられず、翔はというと眼を閉じ、肩に手を当て黙したままだ。
(……)
翔の沈黙がどれぐらい続いただろう。優希は黙り込む翔が待てず、手を胸に添えようとした矢先のこと、ぷはぁと息するのが見え手を止めた。
「何? 俺に我慢出来ない?」
「そっ、そんなんじゃなくて」
「くすっ、解ってる。何で手がそこで留まっているのかも」
「! ぅう、いじわる!」
「あはっ、ごめん」
翔は出されていた優希の手を取り、肩に置いた。
「痕はどう?! なくなった?」
「うん」
優希は驚いたまま頷いた。
翔は自分の左肩をぽんと叩くと瞼を閉じ、今の
(よし! 治療のコツは掴んだ)
「優希、ありがとう」
「? 私なに、も」
「ううん、ありがとう」
肩にあった醜い疵が消え、真っさらな皮膚がある。翔は喜び、優希に飛びついた。そしてそのまま押し倒し、寝転んだ。
優希が笑うと翔も笑った。二人はゆっくり口付けようと顔を寄せ……。
……目を閉じかけた翔は誰かの視線を感じ、キスを止めてしまう。
(またか……)
「誰?」
翔は優希にジャージを羽織らせ、急いで優希の裸を隠した。そして半開きの扉をさらに、押し開く。
盆の上にグラスを二つ乗せ、女が佇んでいた。
「あっあの」と佇む者はおずおず、もじもじ、顔は強張らせている。太股を擦らせ恥じる、姿勢がそこにあった。
短パンからはみ出た魅惑の脚を見て翔は「ああ、あんたか」と呆れ口調を晒した。ねじれたゆる巻き長髪の女は「あっあっ」と更に顔を赤らめる。
「くすっ、元気そうで」
「どっ、どうもそのぉ」
「照れることはなにもしてないよ、
「……!」
扉の前に立っていたのは以前翔とやり合った、ピンクの龍の元持ち主にして陽炎を操っていた陽向だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます