第31話 勇者終了!!・・・せんたくをまちがえた

 犬姫さんが姫さんになって数日が過ぎたあたりで、サマルカンドの王子とやらに引き渡すまで面倒を見る予定だったんだが、

 

 姫さんは、呪いがとけた翌日には俺たちの手を離れてる。

 

 どういうことかってぇと、犬をやってる時に城に勤めてた家臣が街に避難しているのを見つけていたって話だ。まあいつまでも犬で居る気じゃなきゃ知り合い探したり色々してたわな。犬の姿でも人は探せるってか逆に得意分野だな。

 

 ってなわけで俺たちは、晴れてお役ごめんってわけだ。

 

 後々面倒な事にならねぇように、俺たちが助けたってーか呪いを解いたってのは黙ってもらうように頼んだ。なんだかんだと言われたが、国だの勇者だのにもう関わる気はしねぇ。

 

 なんで異世界だかゲーム世界だかに来てまで奴隷しなきゃいけねぇんだよって話だ。

 

 そうして俺とエルザは、この街でしばらくのんびりと過ごすことにした。飯のタネについては適当に近辺の魔物倒したりしてりゃぁいいだろう。必要に迫ったら考えりゃいい。

 

 ・・・・・

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 ・

 

 姫の呪いを解いてから何年かの時が過ぎた。カレンダーなんてのは、ねぇから日付はわかんねぇけど季節が何度か巡った。

 

 何度目かの春に世界に神託が出たとか騒いでいたが、詳しくは聞いてねぇ。聞いたらなんかがはじまる気がするし。臭い物には蓋をすべきで見ざる言わざる聞かざるってスタンスが賢明だ。

 

 月日と世間を置き去りにして、俺とエルザは相も変わらずサンブルクの街で暮らしている。

 

 「おぉーい、そろそろ行くぞ!」

 

 「はいっ今日も魔物相手にチート無双ですわっ」

 

 ってかチートなのはエルザだけだってーの。毎晩知識をダウンロードしてるせいもあって募金を強要する電子辞典より雑多に広範囲に知ってる。こいつが勇者だったんじゃねぇのって感じだ。まあどうでもいいが。

  

 「おうおう張り切ってんな。派手に無双しなくていいんだよ、飯が食える程度でいいっつーの」

 

 「力ある者は行使しなければいけませんわっノブレスなんちゃらですわ!」

 

 ノーブレスだかノーブラだか知らねぇが貴族きどりかよっ。きばってもいいことねぇっつーの。

 

 「そんなに気合入れなくても、どっかの王子と姫さんが作った勇者パーティがなんとかすんだろ」

 

 街の噂で聞くところによると勇者様ご一行は、盗賊と商人と僧侶の3人を新たにPTメンバーとして加えて大活躍してるみてぇだ。まあ知ったこっちゃねぇが。

 

 で俺とエルザは、毎日くらだねぇ漫才をしながら、狩人ってーかハンターってか冒険者みてぇな暮らしを続けている。

 

 ありがてぇことに最近は魔物の数も増えて来て獲物が枯れるってこともねぇ。

 

 勇者様ご一行は世界の希望だのなんだの騒がれつつもアチコチで活躍してるらしい。この街にも何度も訪れているみてぇだが、あいつらが来る数日前には噂が飛び交ってくるので、来るタイミングに合わせて街を出て魔物狩りの遠征したりと関わらねぇようにしている。

 

 また脳筋勇者の役をやらされんのは嫌だしな。

 

 そんな感じで今日も街を出て魔物を狩る。毒みてぇな色をした体液やノミやダニだらけの魔物をエンヤコラヤと叩き、摺り、潰し、と野蛮に倒す。

 

 「なんだかすっかり原始人だなぁ」

 

 「マスターの居た世界からするとそうですわね」

 

 「高次元なんちゃらには、安全で楽しい世界って頼んだんだがなぁ。まあこれだけチートな相棒もらってりゃ安全っちゃー安全だけどよ。楽しい世界かってーと違うわな」

 

 「そうですか?マスターと暮らせる、この世界は楽しいですわよっと。あっ核ですわ!!」

 

 「ねぇぞ」

 

 「ほーっほっほっ!こうですわ!こうっ」

 

 小難しいことはいいか。こうやってこう!だな。

 

 まあ、勝てば官軍ってな具合の法律だの、柵だの、社会性だのに縛られて使役されて生きてるよりは楽しいっちゃ楽しいか。

 

 理性だの合理性なんてものはどうでもいい世界だもんな。

 

 魔物だ魔王だ、やっつけろーってね。

 

 まあ、楽しいかもな。

 

 エルザも居るしな。

 

 たぶんな。

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勇者の理性は限界です 時しらず @nakaudon

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