第26話 勇者脱北!!・・・きたはだめだ

 翌朝早くに街を出る。

 

 目的地はサンペタって街になる、今いるサマルカンドから南にある街だな。一応大陸が変わって国が変わるって事だが、まあローランドとサマルカンドん時みてぇに、スルー関所だろうし気にすることはねぇ。

 

 宿の女将には、昨日せっせと書き綴った手紙と荷物を預けてる、騙くらかすようで悪ぃが、ローランドで一時的に組んだやつらから預かったもんが入ってるって事にして、詳細は手紙に書いてあるから、宿屋協会の偉いさんにでも渡してくれといってある。入ってる物の開封もそこで行ってくれとしている。

 

 まあ中身は返金する支度金ってわけだけどな。

 

 女将には「サマルカンドの王子と力を合わせて試練の洞窟を突破出来るように、野宿しつつ近隣のモンスター退治を行ってくると」伝えておいた。感激した様子でご無事をお祈りしてますとか言ってたが知らん。

 

 サマルカンドの城下町を抜けて、南の大陸へと続く街道に出た。

 

 ここからやっとはじまるはずだ。余計な干渉に振り回されるのはもう勘弁だ。これでしばらくの間、消息は掴めなくなるだろう。

 

 手紙の通達で往復2から3週間かかって、行動決定にお偉方を集めてピーチクパーチクで数か月かかって、実際に動き出した頃には、もう近くに居ねぇって寸法だ。

 

 「さてやれることはやったし、いきますかね」

 

 「はいっ」

 

 今回の移動は大陸超えってのもあって、徒歩で移動する。たしかゲームだと海越えだった筈なので、馬車だのなんだは都合悪ぃし、極力足跡に繋がる人との関係も持ちたくねぇしな。

 

 「ついに出発ですわね」

 

 「そうだなぁ、これで逃亡生活ともおさらばって感じだな」

 

 2人でのんきに今後の希望なぞを話しながら歩いて行く。街道沿いって事もあってモンスターは、ほとんど出てこないが、時々好奇心旺盛な馬鹿が顔を出してくる。

 

 憐れな事にテンションが高めのエルザの一撃で蹴散らしている。

 

 「片バッテン打法!!」

 

 そうか、おおかなづち一本だとバッテン打法とやらも片方だけかぁ。もうそれバッテン関係なくね?


 「おつかれ」


 「ふぅ、モンスターは洞窟までの道のりと変わりませんのね」

 

 「荷物になっちまうから、後処理は一切しねぇで放置していくぞ」

 

 「そうですわね、それでは遠慮なく倒す事だけを考えて行きますわっっと」

 

 「そうだなあ、まあ大陸渡ったあたりからガラリと変わるらしいから、そこまでは省エネってやつだ」

 

 街道を歩きながら、ゆるく会話をしつつ、ちょろちょろと少数で出て来てるモンスターを叩き潰すのではなく、横合いからぶっ飛ばすようにして道から追いやる。生きてようが死んでようがお構いなしに先へと進んで行く。 この国ってーか大陸にモンスターが跋扈しようがもう知らねぇからな。お偉いさんだったり宿屋協会だったりで好きに処理すればいいさ。

 

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・

 

 しばらく街道を道なりにあるくと、海と大き目の橋と関所らしき建物が見えて来た。

 

 「どうやらあそこを渡れば新大陸らしいな、一応言っておくが、衛兵だの兵士だのがメンドクセェ事言い出したら押し切るつもりだから、殺さねぇ程度の反撃も考えておいてくれ」

 

 「わかりましたわ、目肩腰狙いですわ」

 

 「くたびれたリーマンの疲労ポイントを的確に攻めるスタイルかよ。えげつねぇな」

 

 関所らしき建物に近づくと、衛兵なのか門番なのか知らんが声をかけて来た。

 

 「旅人か?ここから先は魔物が強くなるが用意は出来てるか?」

 

 「そうです、大丈夫です」

 

 「ならいい、後ろの子も気を付けていくんだぞ」

 

 「ご心配ありがたく存じますわ」

 

 なんの審査も費用も無く、通行許可が出た。そのまま橋への道が解放されているので、橋に乗り別大陸へと歩みを進める。

 

 「なんもなかったな」

 

 「まあ、マスターとワタクシにかかれば、こんなものですわ」

 

 なんもしてねぇし、ただ通過しただけだけどな。ぱっとみ大剣とおおかなづち持った旅人なんてのは、おかしいからな?この世界がザルだってだけの話だってぇの。

 

 そろそろ橋を抜けて新大陸って所で、前方にある新大陸側の関所がモンスターに襲撃されてる。仕方ねぇから助太刀にでも行きますかって具合にエルザを見ると。ハンマーを抜き出して戦闘の用意が済んでおり指示待ちだ。

 

 「あーエルザさんや、行きますかね。荷物は同じ所にまとめときゃいい」

 

 「はいっでは、こちらに」

 

 荷物を端に集めて、関所まで走り込む。走りながら状況を確認するにゴリラっぽいのが5匹程群れで襲ってる。衛兵は2人しか居ねぇな、ありゃ不利っちゃー不利だわな。しかも片方は足元が内股になっちまってブルッってやがる。

 

 「エルザ、左側の若い兵士っかわを先に落としてくれ。敵はパワー型くせぇから関節だの駆動部位を狙って確実な行動停止で頼む。俺は向かって右から剥がしていく」

 

 「左側ですわね!わかりましたわ」

 

 左右に散開しながら、一度通り過ぎるように走り抜け、斜め後ろ側からUターンして攪乱した。後ろに走り抜けた事で、俺たちに戸惑ってるゴリラを見ながら衛兵に声をかける。

 

 「門番だか、衛兵だか知らんが一度下がって体制を立て直しておけ」

 

 衛兵を正面にして、個別殲滅を考えていたのかビビってる衛兵の居る左側に寄った陣だ。ゴリラもかしけぇ。突然の乱入者に癇癪を起こして腕を振り回して威嚇してるゴリラに向かって走りながら斬撃を入れていく。

 

 さっきまで弱い奴に向けて陣取ってたゴリラも、どこに照準を絞っていいかわかんなくなったみてぇだ。で・・・結局は見た目で決めたみたいだ。

 

 女だし、背も小さいし、な、普通なら賢明なんだろうがな。

 

 「いきますわ!必殺ミョルニルハンマー!!!」

 

 すっかり狙われたエルザは、侮りを吹き飛ばすように走り込みながらキラを使い、電撃を飛ばし驚きか電撃の効果か知らんが、硬直したゴリラの肩口に斜めからハンマー叩き込んでぶっ飛ばした。

 

 この一発で衝撃ってーかヘイトも完璧に獲れたみてぇだ。

 

 っとこっちもやんねえとな。エルザの掛け声と女好きゴリラの習性で、すっかり背を向けた残り4匹のゴリラに接敵して膝裏をまとめて横なぎに全力で振りぬいた。

 

 これで一応危機は去ったってとこかね。

 

 一仕事終えたエルザが隣りに来た所で状況確認っと、、、するまでもねぇか、足がなきゃもう終わりだわな。

 

 立ち上がれねぇゴリラ達をみて態勢が決したのを確認してから衛兵の所へ向かう。

 

 「エルザ、後の処理を頼むわ」

 

 後ろに下がって、状況をみつつ警戒態勢をとっていた門番へと声をかける。

 

 「すまん、よけいなお世話だったか?数が多そうに見えたので勝手に参戦したぞ」

 

 「いえ、助かりました。個々の所モンスターが数が増えて、以前はこんなことが無かったのですが」

 「そうか、問題が無いならいい。それで俺たちはこのままサンペタまで向かうがいいか?」

 

 「はい、ご通行ください。と言いたい所ですが、このモンスターの素材はどうされますか?」

 

 「あーあんたらで処理してくれ、こちらとしては欲しいものは無ぇ」

 

 「わかりました、それでは討伐支援の報奨金を出しますのでお待ちください」

 

 そんなもんが、こんな関所みたいな所ででんのか?

 

 「あー街へいって何かやどっかで換金ってなら手間だからいらねぇぞ」

 

 「そちらは心配に及びません。個人的に一時的に支出して調整しておきます」

 

 おー建て替え金ってとこかね、まあそう言う所でちょろまかすお金とかも出来るかも知れねぇしな

 相手の流儀に任しとくか。

 

 「わかった。それではここで待ってればいいか?」

 

 「はい、少々お待ちください」

 

 隊長かなんななのかねぇ、まあいいけどよ。そいつと話し込んでる間にもう一人の衛兵は木のバケツに水を汲んで持ってきた。

 

 「こちらで武具の清掃をなさってください」

 

 「ありがたく使わせてもらう、エルザ!そのへんでいいだろ。用意してくれた水で、戦闘の汚れを落とそう」

 

 行動不能になった魔物にトドメの頭ドーンしてたエルザへ声をかけて戦闘終了と伝える。

 

 「わっかりました。ゴリラは馬鹿ですわね、目が下品でしたわ」

 

 容赦ねぇな。頭べっこりじゃねぇかよ。エルザが来て武器の汚れを落としながらブツブツと文句を言ってる。

 

 「まったく・・・はしる度に、胸ばかりみていますもの。そんな目など潰れてしまえばいいのですわ」

 

 「ははは、おっかねぇ」

 

 ってかゴリラだからなのか、魔物だからなのか知らねぇがサガって奴なんかねぇ。

 エルザと2人で防具側についた汚れを落とし合いをしていると、さっきの衛兵隊長がやってきた。

 

 「これが報奨金になる、正直2人だと怪我はまぬがれなかっただろう。助かった、感謝するよ」

 

 「いや、かまわねぇよ。あのままだと俺たちだって危なかったしな、味方が多いまま戦った方がいいだろう」

 

 あくまで衛兵を手伝った、って立ち位置は崩さねぇよっと。助けたと手伝ったてのは大分違う。

 

 「なるほどな、そういうことにしておこう。それで2人は旅人だったな、ここから下へまっすぐ進むとサンペタの街になる。こちらは報奨と心ばかりのお礼だ。大丈夫だと思うが気を付けていかれよ」

 

 衛兵隊長から、報奨金と何かが入った袋を受け取る。ん?なんだ?こりゃなんか入ってるな。

 

 「移動中の軽食と、宿屋へ10日程無料で泊まれるように書いた手紙だ。よかったら使ってくれ、もう一人居た兵士が宿屋の息子でな。親父に渡せばわかる筈だ」

 

 「なんだか、すまねぇな。ってかだいぶ親切だな」

 

 「あー、2人は上から来たんだったな。どっちの国もまあなんだ良くも悪くも古い血筋でな」

 

 何かを察したような苦い顔で、迂遠な言い回しで衛兵隊長が言うと、もう一人の隊員がぶっちゃけた。

 

 「北にある勇者の血筋と関係ある国家は何かしら問題ありますからね、ローランドなんて威張り腐ってた癖に唯一子供が勇者じゃなかったんですよ。いい気味でっ」

 

 「誰に聞かれるかわからんから、その辺にしておけ。まあそんな感じだから、今後はそんな思いも消えるだろう」

 

 「お前は・・・ペラペラと余計な事を・・・」

 

 衛兵隊長が隊員を諫めてるのを聞きながら考えると、なるほどなと納得するところがある。俺がローランドの王子がなるべくの勇者に位置に入り込んだ弊害ってやつだなこりゃ。

 

 「はははっ、聞かなかったことにしておくぜ。な?」

 

 側でひっそりと佇んでるエルザを見ると、ゴリラをぼーっと注視していた。

 

 「えっあっはい。そうですわね」

 

 こいつ聞いてねぇ。まあいいけどよ。

 

 「そんじゃ俺たちはこのまま南下するけど、いいか?」

 

 「はい!「ありがとうございました」」

 

 そのまま衛兵の元を離れて、一路サンペタへと向かう。

 

 とりあえず、関所で得た重要な情報は、前の大陸の国家は勇者国家ってことで大分頭がアレなやつらが揃ってましたってことくれぇかな。

 

 次の国はまともだといいねぇ。ってかサンブルクは魔物襲撃にあってたんだっけな。まあそこらへんも適当に考えておくか。

 

 そんなことより、俺らの暮らしだわ。

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