第24話 勇者冷静!!・・・になろう

 洞窟から戻って来て体もさっぱりした後は、エルザと夕食をとる。

 

 ここいらに一軒しかない宿屋ってことで、夜は半分酒場だ。例によって情報収集しつつ食事をこなす。

 

 結論から言うと、大した情報はなかった。噂の大半は緑のアイツが占めてるってとこだな、王子の立場で勇者として試練に向かう素晴らしい人だって話し。まあ城が近いここで悪口なんざ言えねぇだろうけどな。

  

 これで食うものも食ったし、聞くべきとこも聞いただろ。とりあえず、部屋に戻って休むとするか。

 

 「エルザ、食事は足りたか?」

 

 「はい、満足しましたわ」

 

 「いつまでも席に座ってても仕方ねえ、部屋に戻るとするか。今日の事とか少し話し会おうぜ」

 

 「はいっ呪文のこ・・・」

        「そこから先は部屋でな?」

 

 部屋に戻って一応エルザに忠告だけしておく。

 

 「エルザさんや、あんたが覚えたのは勇者の呪文ってやつだ。下手に周りに知られると面倒事が起きちまう、戦闘中に使うのはかまわねぇが吹聴してまわるのだけはやめとこうか」

 

 「そうなんですのね、勇者はマスターではありませんの?」

 

 「そこら辺はどうなんだろうな、あの高次元なんちゃらの遊びもあるだろうから、正直わかんねぇってのが本当にとこだな」

 

 「んー勇者って何なんでしょうね。よくわかりませんわね」

 

 俺たち二人がこの世界に来て、はじめての街についてすぐに勇者扱いされて国王とやらに謁見まで行ったってことは、なんらかの手段で偉いさん方は勇者を判別する方法を持ってると思うんだよな。そいつらが俺を勇者と認定してたから、間違えるってのはちょっと訳がわからねぇ。

 

 「とりあえずだ、自分から積極的に呪文だのなんだのを話すのをやめときゃいいだろう、また奴隷みたいに狩り続ける羽目になるしな」

 

 「そうですわね!リンカーンおじさんも奴隷はダメって言ってましたもの」

 

 エイブラハムの顔見知りかっつーの。あってるけどよってか最近ポンコツっつーかピントズレが多いだけで大分普通だよな。

 

 ・・・なんらかのネットワークに繋がって成長できるって人類の夢っちゃ夢だよな。必要な知識をその都度インストール出来るってね。

 

 「でだ、明日からなんだが。この町はちいせぇから腰を落ち着けるにはちょっと厳しいと思ってんだわ。そんでなまたしばらくモンスター狩りをして小銭貯めようと思ってんだが、どう思う?」

 

 「いいと思いますわ、そういえば依頼みたいものって無いのでしょうか?」

 

 「あー依頼なぁ、ダルーイだったか宿泊協会だったかに集まってたりするって言うよな」

 

 「はい!そちらをやれば金銭の溜まりは良いのではないのですか?」

 

 「結構、距離はとったんだが前の国あたりから指名手配って線もまだあるから躊躇してるんだよな、まあ宿屋に泊ってる時点で平気だろっては思うんだが、明日の朝に宿屋の女将に聞いて見るか。聞く前に逃亡できる用意しておいてって注意がいるけどな」

 

 「大丈夫だと思いますよ、お手洗いの順番待ちで女将さんと一緒になった時に依頼もこなしておくれよって言われてますので」

 

 ・・・エルちゃん?俺ら勇者一行って宿に認識されてるじゃねぇか!!

 

 「それいつだ?」

 

 「昨日ですわ」

 

 あーっと、まてよ。現状がわかんねぇ、俺らは王から逃げた勇者だ。

 

 国家単位で追われてる筈、何故追う?追う必要は?最後のコンタクトは何処だ?

 

 執事みたいなやつが街のまわりが平和になって最後に巣を一掃しろって言われたのが最後だ。そいつはこなした。

 

 後始末は商人と僧侶がした筈だ。

 

 酒場だの宿屋関連には盗賊が達成報告をした筈だ。

 

 その後そのまま逃亡して隣街から隣の国へと移動した。

 

 あれ?逃げる必要ってそんなになくねぇか?

 

 どっちかっつーと依頼達成して報酬貰わずに勝手に移動したって感じか?こっち的な都合で言えば成果報酬無しの労働強要から逃げ出したって所だよな。

 

 勇者って言う名の戦闘奴隷を辞めたって感じだよな。

 

 んーそれ許されるのか?

 

 王だかは魔王を倒せとか棒きれとガキの小遣いくれたよな。王が居るような社会だから王は人間社会の中では絶対なんだろうって事で魔王倒すべしが前提になって、それから逃げだしたって思ってたんだが、緑の王子みたいな勇者も個別に動いてるしな。

  

 あー、なんだ考えてもわかんねーぞ。

 

 「マスターマスター!」

 

 「あーすまんなんだ、ちょっと混乱しちまった。とりあえず明日女将に状況含めて聞いて見るか」

 

 「はい、一応荷物はまとめた状態で話し会いに臨みますね」

 

 「ああ、頼む。俺は少し考え事をしてるわ。眠かったら先に寝てていいぞ」

 

 「わかりましたわ、今日も好きな物をダウンロードしていいのですわよね?」

 

 「ああ、そのスキルはお前のもんだから好きにしていいと思うぞ」

 

 エルザが寝やすい格好に着替えて、布団の上で空間ディスプレイをいじってスキルを落としてるのを横目に見ながら、現状と環境について堂々巡りを繰り返しつづけた。

 

 

 このゲームライクな世界で勇者って呼ばれてるわりには勇者らしきものが一切無い、具体的にはレベルがあがらねぇ、呪文を覚えない。おそらく俺は物語の勇者ではないだろう。

 

 この世界に来る前にあったというか、元凶の高次元なんちゃらに「安全で楽しい世界」ってオーダーした筈だが現状は血なまぐさい日常に逃亡って所だ。

 

 これだけオーダーと違うって事は、こいつはペナルティの類なんだろう。詳しくは理解できねぇがエルザを作り込ん事によって問題が発生した。そして何かしらの不都合があって俺を移転させたんだろう。

 

 まあエルザだけ消滅させても、俺が居れば何度でも作っちまうもんな。エルザを。

 

 にしてもだ、エルザの作成がなんらかの禁忌でペナルティってのなら、転移なんてぬるい話しじゃなく苛烈で辛辣な対応がもっとあると思うんだよなぁ。

 

 ただずっと一方的に話しかけて来てご褒美ですよ?みたいなトーンだったが。高次元なんちゃらが悪意100%のクソ野郎でトリックスター気取りのロキみたいなクソ性格してたら。

 

 ・・・世界の舞台装置そのものが罠ってことだわな。 

 

 ・・・疑ったらきりがねぇし、煩悶すらも笑い転げてそうで憎らしいって具合だ。

 

 

 何杯目かのお茶を口にしたあたりで、馬鹿みたいにコネクリ回すのをやめた。

 

 

 結論?わかんねぇが結論だ。ははは、情けねぇがわかんねぇ。

 

 

 今んとこ最低限の食うものと寝る場所、んでエルザが楽し気に生きてりゃそれでいい。

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