第23話 勇者洗礼!!・・・おねがいタッチ

 水場近くで周囲を見渡せる場所を確保した俺たちは休憩に入る。緑の棺桶ボーイからは大分距離をとったからいいだろう。

 

 「大分進んだな、道中急ぎでまわっちまったが疲労はどうだ?」

 

 用意してあった軽食と水筒を頭陀袋から取り出しながら話しかける。

 

 「全然問題ありませんわ。正直手ごたえがありませんわね」

 

 「見たまんまか。まっそうだわな、空を飛ばれても所詮は洞窟の中で遠くまで飛べねぇしな」

 

 「マスターに落としてもらえますもの、わたくしは楽ちんですわ」

 

 「んじゃあ、軽く食事を取ったら攻略ってーか先へ進みますかね。恐らくそんなに深い階層じゃねぇだろうしな」

 

 確かあと半分くらいな筈だ、この水場の先に無意味に地下に降りる階段があるが、そこはスカだったはず。正解はこのまま道なりで地底湖みたいになってるとこだ。

 

 「はひ、わかりまひたわ」

 

 もう注意しねぇぞ、食いながら喋るってのはエルザの個性だな。うん、そういうことにするぞ。

 

 パンに香草と肉を挟んだだけの食事を取る、携帯食ってマズイのが何故か相場になってるが、ある程度の味は欲しいよな。ちなみにこいつはどこかで売ってるわけじゃねぇので自作だ。

 

 味の感じはベトナムのバインミーに似てるっちゃー似てる。

 

 こっちの世界の香草はなんつーか癖が強い、工業だの農業製品じゃねぇ自然の物だからかも知れねぇとか適当な事を思うが、まあ今となってはこれしか食えねぇんだろうから深く考えねぇ。合う味を作ればいいだけだしな。

 

 「ところでまひゅたー。んぐ、先ほどの方はどなたですの?」

 

 「んーあぁ、ありゃ噂の奴だわな。この国の王子で勇者ってとこだろ」

 

 「でしたら、マスターと同じですの?」

 

 「んーどうなんだろうな、よくわからんってのが正直な所だな。まあでも近寄ったら確実に面倒事に巻き込まれるだろう」

 

 「そうなのですわね、君子危うきに近寄らずですわね」

 

 おっ正解じゃんか。君子になりてぇわけじゃねぇが面倒事はお断りってやつだ。あいつ仲間にしてもすぐ死ぬしな。

 

 「まっそんなとこだ、また洞窟内で遭ってもスルーしてくぞ」

 

 「わかりましたわ」

 

 その後はたいした会話もせずに、黙々と食事をとって体を休める。もちろん周りに気を配るが背面は何も無い水場で前面を見てればいいだけだから気楽だ。

 

 「おし、体調はどうだ?ぼちぼち行こうと思うんだが」

 

 エルザが立ち上がって屈伸と胸の前で腕を伸ばして逆側に押し込むストレッチをしている。あの運動部くさい動きだ。しなやかだな、抜群の見栄えで動きが良いってんは目に甘いわ。毒ではないだよたわわってな。

 

 「んじゃいくか、手はそこの水で洗っとけよ。食いもんの油で武器がすっぽ抜ける、なんてのはシャレにもならねぇからな」

 

 「はいっ」

 

 エルザは、なんだか知らねぇけがウキウキと水場で手を洗いに行った。あいかわらずエルザの琴線はつかめねぇ指示されるんの好きなんかねぇ。まあいいけどよ。

 

 準備を終えたエルザと一緒に洞窟を進む、道中の雑魚モンスターは機械的に処理できる程に雑魚ばかりだ。

 

 

 ・・・サクサクと片づけて先に進む。

 

 

 しばらく歩くと地底湖っぽいのが見えて来た。そうだそうだここにジジイが居て「すれちがいじゃぞ?」的な煽りをされるんだったな。

 

 そのままエルザとともに地底湖に近寄ると、そこにジジイはおらずにジジイの形をした石像が置いてあるってかー祭壇的なものの上にジジイが飾ってあった。


 ジジイは石になりましたってか。まあ完璧な大作RPG世界ではねぇけど、まあ・・・そうかそんなもんか。ありゃ仲間にする為のイベントの一環だったしな。

 

 そういや洞窟の名前も少し違ってる気がするわ。あーなんだったかなぁ忘れちまったな。

 

 ・・・まあいい、似て異なるものだ。

 

 で、これどうすんだ?

 

 「さて、エルザさんや。一応ここが目的地なんだが。なんか変わった事とか変な所はねぇか?」

 

 「特には見当たりませんわね。何かあるとしたら、この像なのでしょうか?」

 

 まあ、そうだよな。無茶ぶりしたわ。俺も混乱してんのか、落ち着けってーのにな。

 

 とりあえず近くにモンスターの影も気配も無いのを確認して、近辺を調べる事にした。玉座の後ろに風とか感じる世界観だしな。

 

 あちこち調べるとなんかあるかも知れねぇ。

 

 ・・・案の定、像近辺を調べようと像に近づいたタイミングでジジイが光りだした。

 

 「ひぃ」と軽く後ずさるエルザの手を引いて距離を取ると、ジジイの輝きが止まった。なんだこりゃ人感センサーでも着いてんのかよ。つかキモイぞシャイニングジジイ。

 

 「武器を抜いて用心しててくれ、俺だけもう一度近づいて見る」

 

 「わかりましたわ、どうかお気をつけて」

 

 「ああ、何か出て来たら援護を頼む」

 

 エルザに後方支援を頼んで、ゆっくりとジジイに近づくが光らないし何の変化もしない。

 

 ・・・あーん?一人じゃない?俺じゃない?

 

 「エルザ、ゆっくりこっちに来てもらえるか?」

 

 「はい」

 

 心なし固い返事のままエルザがゆっくり俺の隣に向かって歩いて来る。こういう意味不なやつは苦手なのか。

 

 エルザが隣に着いたと同時にジジイ像が光り出した。

 

 「エルザ俺だけ少しさがるぞ、警戒はそのままだ」

 

 エルザはコクリとだけ頷く。それを見ながら数歩さがったが光は収まらない。

 

 ・・・こりゃエルザっすかねぇ。

 

 ちっと何だかわかんねぇな、こういうのは触ると変化あるってーのが定番だっけか。呪われたりしねぇよな。なんかあったら像ぶっこわすか、剣を抜いて像に近寄りつつエルザに声をかける。

 

 「エルザすまねぇが、像に近づいて可能なら触れてくれねぇか」

 

 「わかりましたわ」

 

 コクリと頷きながら、エルザがジジイ像に触れる。

 

 ・・・なんで股間に手を出す。

 

 「なんでそこだよ」

 

 「きゅきゅうしょですわ」

 

 エルザのセクハラタッチを受けて、像が一瞬だけ強く光り、ゆっくりと光が消えていった。

 

 不用意だとは思うが触るで正解か。っつーかなんで急所タッチすかねぇ。

 

 「エルザ、何か変化は?」

 

 「呪文というんですの?それがダウンロードされましたわ」

 

 あーうん、遊ばれてんな。こりゃ高次元なんちゃら遊びだろ。まあ呪われたりしてねぇだけマシか。

 

 「なるほどな、そりゃ魔法だな。ちなみに何をダウンロードしたんだ?」

 

 「ミホとキラですわ」

 

 ミホねぇミホ、ミホミホミホ。ああ回復魔法か。はいはい、じゃあもう一個は雷魔法な。

 

 「なるほどな、たぶんだがミホってのは傷を治して、キラってのは雷出して攻撃だな。なんか思い当ったり感じたりするものはあるか?」

 

 「はい、ダウンロード時の取説に書いてありましたわ」

 

 そっかそか取説かぁ、、、丁寧かよ。

 

 なんだか気を張ってるこっちがバカくせぇ感じがして来たっつーの。どうしようもない諦観が芽生えつつあるな、こんな場所で感情乱してる場合じゃねぇな。とりあえず、もうここは去るか。

 

 「よし、じゃあこの地底湖っつーか洞窟の目的は終了だろう。撤収すんぞ」

 

 「はい!帰りに魔法使ってみてもいいですか?」

 

 「ああ、無理しねぇ程度にな」

 

 うっきうきだなおい。しかしエルザだけダウンロードとかいうチートがあったり勇者の呪文を覚えたりと大分遊びが入ってるな。


 もう似た仕組みの違う世界ってことで認識を固定して、勇者だのなんだので警戒して逃亡生活なんてのは捨てちまって。アホみたいに楽しむのが良いかもしれねぇな。っと考え込むのは後だ。

 

 とりあえず例によって考えてもわかんねぇ状況で謎が1つ追加って事で今はいい。

 

 エルザと2人で来た道を戻って行く、途中で飛んでるモンスターにキラを撃ってもらったらアニメ的な稲妻エフェクトがエルザの手のひらからぶっ飛んでいって感電死させてた。


 感電死ってのは燃えるよりひでぇな、そしてクセェ。

 

 道を戻って行きゃ行き当たる筈の緑のアレは何故かおらずに無事に外へと出た。あいつはアレか無意味に下に降りる階段に行ったんだろう。なんにせよメンドクセェから合わなくて良かったんだがな。

 

 外に出ると大分陽も落ちて来ていたので、そのまま真っすぐ街へと帰る事にした。道中のモンスターは、ほとんど居ないままだったので道を知ってる帰りのが楽だったって言うのは言うまでも無い。

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