第20話 勇者散策!!・・・即おち

 エルザと2人で旅の汚れをイチャコラと落とし終えた後は街歩きだ。国境を超えたと言ってもまだ追われてる身だろう。もうちょい距離が出るまでは周辺の路地や脱出経路を覚えておかねぇとな。

 

 擬態すべきは、旅人が新しい街について適当にぶらつきながら散策ってとこか。よっぽど変な行動しなきゃ問題は起きねぇだろう。さっそくエルザを連れて宿の女将らしき人に木製の鍵をあずけて街を歩いてくると告げて外へ出る。

 

 狭い街とは言え、店舗はなくとも露店や屋台があちこちにあって、それなりに人通りもある。まあ一応城の側だしな、城で働く人の台所でもあるわけだから、それなりに活気はあるか。

 

 裏を返せば、街の住人の大半がなんらかの形で城で働いてたり関与してるって感じだろうな。旦那が衛兵だの門番だの料理人だのって感じなんだろ。

 

 しかし、ちいせぇ街並みだな。どっちかってーと集落に近いわな。なんでこんなところに城があるんだろうねぇ、行商の丁稚の言ってた勇者の子孫だのなんだのが関係あるんだろうけど、このサイズで国家になったものの領土云々は他国に譲ってるって感じなのねぇ、各国家のパワーバランスとかとかどうなってんだ。あとでどっかで情報集めとくか。

 

 俺は何々国の王様だーなんて言ってても、民は芋も満足に食えねぇ国が前世にもあったしな。国とか言ってもピンキリってことだわな。

 

 「エルザ、とりあえず外出する時に備えて外へ出る道順とかを確立すんぞー」

 

 「わかりまひたわ」

 

 またなんか食ってるのか、こいつ旅エンジョイ勢か。

 

 「マスター、これ要ります?おいしいですよ?」

 

 なんだか謎の肉が刺さった串をだされた。見た感じウサギあたりかねぇ。

 

 「おう、すまねぇな。後で代金は清算しような」

 

 エルザとふたりで串に噛り付きながら「モグモグ」「あっひっだ」「ング」とか行儀のわりぃ擬音を出しながら食べ歩く。いかにも旅人ですよーって面をしながら細かい路地やショートカット出来そうな道を頭の中で組み立てておく避難経路ってのは大事だ。

 

 2人でふらふらとアチコチを確認するように歩く。通りすがる人を見ても物見遊山で歩いているように見えてるんだろう特に凝視されることも無い。このまま逃走ルートだけは確保しておく。

 

 とりあえずのルートの確保を終えて、次は道具屋か教会か?んー教会とか面倒くせぇ匂いしかしねぇしスルーだな。ってことで道具屋あたりかねぇ。

 

 

 道具屋でやることは物資の補給が可能かってのと武器類はあるかってのと魔物を引き取れるかって確認だな。

 

 「エルザぁ町はもう歩きつくしたよな、次は道具屋を見ようぜ」

 

 「たまにはこういう散策もいいですわね」

 

 とか平和な返事をしつつ、ワイルドに手に着いた肉串のタレを舐めとってる。猫かっつーの。ハンカチってか布切れくらい持とうぜ。

 

 「手が汚れたのか?ちょっと待ってろ」

 

 たまたま近くにあった街の共用井戸らしきところで綺麗目の布切れを濡らしてエルザに渡す。ちなみにだ、こんな風に中世RPGな世界を歩く時や長距離の旅だったりをする時には布切れ必須だぜ?

 

 道路の整備もされてねぇし、土壌はあれてるしで土埃りまみれになったらりはザラだからな。俺は最初の街で学習したぞ。エルザもしとけってとこだが、あいつは夜のダウンロードで学習することに注力してもらいてぇってのもあるから細かく言ってねぇ。

 

 「マスターは紳士ですわね、惚れなおしました」

 

 「はははっすでに惚れてたのかよ。そりゃありがとさん」

 

 「・・・新手の唐変木ですわ」

 

 2人で旅してんだから、些末だったり瑣事ってのは出来る方がササっとやっちまうのがいい。だれがだれの担当なんだからやれよ。みたいなのは非効率すぎて欠伸がでるしストレスがすげぇからな。唐変木呼ばわりってのは大いに聞き流しておこう。生活が落ち着くまでは色恋だのに寝ぼけてられねぇからな。正確にはスティールハートってやつだ、もちろんハビタット系の馬じゃねぇぞ。

 

 「そう、道具屋さんですわね。何かいい物売ってますでしょうか」

 

 「おぅ、基本的には前の街と距離的に無いから気候だったり環境だったりの特産はねぇんだろうが国が違うからな。まあ面白いものあったら買おうぜ」

 

 なんつーか、エルザはお気楽だ。一応追われているだろうという身にしては、ついピリピリやキリキリとした部分が出てしまうが、この調子で癒されるな。これが計算だったらやべぇやつだと思うが。まあエルザだしな、そりゃないだろう。

 

 この街のメインストリートになるんだろうな、宿屋の向かいに道具屋があった。ここの店は行商の馬車が来る位だからおいてあるものの質は前の店と大差ないんだろうなって思うが、街の規模の問題で量は少ないだろうから注意だな。下手に量買うと目立つからな、あとはこの国独自の産業なんかで国内の別の個所から入ってくる商品もあるだろうし、そこいらを期待ってとこだな。

 

 道具屋に入って店内を見渡すと、いかにもな緑の服をきた店員がカウンター向こうに座っていた。商品は勝手に見ろって事なんだろうな。

 

 「旅の物だ、少し店内を見て歩いていいか?」

 

 「ああ、昨日の護衛の方ですね。どうぞどうぞご覧ください。仲間もお世話になりましたのでお眼鏡にかなえば少しは値引きしますよ」

 

 「そいつぁありがえてぇ、ちょっと見させてもらうわ。エルザ、すきなもんや欲しい物あったら遠慮なく言えよ。生活必需品もな」

 

 「・・・わかりまし・・たわ」

 

 ん、夢中であちこち見始めたってとこか。買い物好きは女性のDNAに刻み込まれた何かだわな。じゃあこっちはこっちで物色しますかねぇ。

 

 しばし店主と歓談しながら物色をしてると、話のついでのこの国と隣国ってーか俺が飛び出した国のの勇者の話になった。まあ俺の事だよな。慎重に話を聞いてみることにした。

 

 なんつーか国を讃えたり、過去の勇者を讃えたりと遠回りしたが、この国の勇者に関して確定的な現状を聞けた。

 

 今、現在この国であるサマルカンドの王子さまは、勇者として加護を得る為に試練の洞窟へと数日前に出かけたらしい。

 

 なんでもその加護ってのがあると勇者の血が覚醒して強くなるらしい。

 

 あれ?これ俺もこなさなきゃいけねぇイベントくせぇな。ってことでとりあえず洞窟の場所と敵の強さ情報だけを教えてもらった。ちょっと訝しがられたが、観光を兼ねた旅ってことで行けるところは行こうと思ってとかアホな理由で納得してもらった。

 

 それと俺たちが脱出した国は、勇者を失ったと噂が流れてるらしい。曰く灯台で死んだ、曰く国が支援金を横領して死地へ放り出した。みたいな色々な情報が錯綜しているらしい。

 

 参考までに、勇者ってどんなやつだ?って聞いたら。若い男性で従者に女性を伴っているらしい、しかわかってないらしい。冗談交じりにってことは俺が勇者か?って笑い飛ばしたら。疑われること無く一緒に笑われたので疑念すら持たれてないくさい。

 

 ちっと考えると、行商の来た方向や突然現れた男と女の旅人で怪しいと思うんだがねぇ。商人は不確実な事に手を出さないわな。真偽がわかるまで噂は噂で止めとくって事か。かしけぇな前世にいたビジネスモデルとか戯言言って実態FXでギャンブルして金溶かすサル族とは大違いだわな。

 

 まあサル族はいいとして勇者情報の拡散状況がわかったのはでけぇや。

 

 「で、おやっさん。その勇者ってのを見つけると報奨金みてぇのは出るのか?こっちは旅してるから路銀の足しになるならついでに探すのもいいかなって思ってよ」

 

 「宿屋協会の方で管理してるので何とも言えませんが、金一封くらいは出ると思いますよ」

 

 「ふーん、ありがとさん。まっついでに探してみるわ。どうせ他の誰かが見つけるだろうけどな」

 

 「あはは、それがいい。堅実なのは大事だ。大物は余力でやるくらいが儲けがいいってもんです」

 

 道具屋の主人とダラダラと雑談という名の情報収集を終えて、エルザへと振り返ると結構な量の小物類を購入してた。体綺麗にする系統の生活必需品のストックと手鏡、布切れ、髪留めあたりが目に付いた。

 

 「あー身だしなみの事を考えてやれてなかったな。すまん、今度から言える範囲の物は言ってくれ」

 「さすがマスターっ!すきっ腹ですわ!」

 

 「そこは太っ腹だ、飯が食えてねぇ貧乏みてぇじゃねえかよ、それより、必うようなものはちゃんと言えよ」

 

 「わかりましたわ」

 

 歓喜なのか?ニコニコと手を繋ぐな。クッソかわいいからいいんだけどよ。

 

 そのまま道具屋の親父と談笑しつつ、ちょいと長く狩りできるように「たいまつ」「やくそう」あたりも追加で会計を済まして宿に戻った。

 

 「エルザ、かえるぞー」「はーい、マスター」

 

 宿に着いて、夕食を取りながら今日のお浚いと情報の共有をする。今日は道具屋の親父から勇者周りの情報を結構聞けたからな、エルザにも知っておいてもらおう。

 

 そこそこうまい物を食って、早々に布団に入る。最近エルザは同じ布団で寝るようにしたらしい。

 心細いんかね、まあそりゃそっか。別段邪魔じゃないので放置しておこう。

 

 「んで今日のエルザダウンロードはなんだい?」

 

 「今日は雑学にしようと思いますわ。小さな知識が細々と生きてる場面があるかもしれませんわ」

 

 「ん、基本的には自由に決めてくれ。その知識の集まりがエルザの性格になってくもんだしな」

 

 「はい、ありがとございます。それでは寝ますね・・・おやすみなさい」

 

 「あぁおやすみだ」

 

 なんだか画面的なのを操作してるエルザを横目に今後の事を考えながら、ゆっくり眠りに着く。

 

 ・・・徐々に人になっていく俺好み3Dデータかぁ・・・きっと予想も出来ない最終系だろうが、まあおもしれぇしいいだろう。勇者とは言われたものの救えって話じゃなかったと思うしな。言われててももう忘れてるし使命感なんてねぇわ。

 

 「ピーガーピガピガピガ・・・・」

 

 っと、エルザのダウンロードもはじまったか。俺も寝るか・・・そんでは、とりあえず明日は洗礼の洞窟とやらに寄ってみるか。もしかしたら、俺の勇者パワーも向上するものしれねぇからな。今の脳筋からは進歩してぇもんだ。

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