第18話 勇者積荷!!・・・がちがち

 隣の国まで商人の馬車の荷台に揺られて移動している。ケツが痛てぇ。

 

 ちなみにエルザは御者台に座っている。どうやらダウンロードデータに馬術があったらしい、馬を使った戦闘ってのも遥か昔にはあったみたいだし、技術自体は体系化されてんだろう。荷馬車の馬とはいえ扱えてるみたいだしな。

 

 そんで馬の方を見てみると、今回の移動に使ってんのはサラブレッドみたいにアラブ種ベースの線の細い馬じゃなくて、ペルシュロンのような足腰がしっかりとした大型馬だ。サラブレッドが500kg前後でペルシュロンが1t超えってな具合だ。そう思うと見た目は似てるが、同じ馬って感じはしねぇな。毎日土日に眺めてた馬とは別物の大型の動物だわな。でもまあ馬だ、実際に現地民もそう言ってるしな。

 

 さて、早朝に荷物と共に街を抜け出した俺たちは、馬車の通行で禿げた土の街道をのんびりと進んでいる。馬車なんてもんは荷物運搬がメインだから、遅いのは当たり前っちゃー当たり前だ。詳しい話は忘れたが、徒歩で1日30km、馬車で1日50kmってな具合だったと思う。小走り程度の速度しかでねぇわな。車?新幹線?飛行機?あんなチート移動手段は知らねぇってかアクセルだのの加減でいくらでも変わんだろう。

 

 今回の逃亡は路線馬車ってのか?そういうのが無かったので、馬車の積荷と同じ扱いで少しばかりの代金を払って移動って話になってたんだが、戦闘も馬も扱えるって事で護衛兼交代の御者要員になった。

 

 明確な個人認証制度は無いものの国境付近には衛兵がいて、何処の誰かと聞かれるので商人の護衛と御者っていう位置付けにしてもらったのは都合が良い。まあ少しの働きで遠くに逃げれるなら儲けもんだ。その分、道中のモンスター処理に命を賭けなきゃいけねぇが。

 

 馬車はこのまま北上して隣国のサマルカンドに行く事になる。

 

 荷台に相乗りして居る丁稚みたいな坊主に聞くところによると、この大陸には3つの国があるらしい、ローランドとサマルカンドとサンブルクだとさ。世界ってか高次元なんちゃらの舞台装置は2作目準拠か?どうりでモンスターが居るエリアに来ると数歩毎に沸いてくるわけだ、エンカウントの厳しいところも原作準拠ってことですかね。まあ武器種とか、はじまりの街を見ると2がベースの世界に各作品をごちゃまぜにしたってのが最終的な正解で良さそうだな。

 

 「・・ター!いらっ・い・すか!!」

 

 馬車の揺れで声が聞こえにくいがエルザが呼んでるな。何言ってるか、わっかりづれぇ。仕方ねぇから荷台から箱乗りをするように体を出して応じる。


 「エルザ!!どうかしたか!!」


 「前方にモンスターですわ!」

 

 「おうっ!馬車を止めて馬車の護衛を頼むわ!」

 

 エルザが馬車を街道脇に寄せてから止めると同時に馬車から飛び出して、馬車より前方5m位で迎撃準備をした。

 

 前方から土を巻き上げながら、でかい蟻が5、6匹こちらに向かって来た。ちっと一人じゃ無理だな。

 

 「エルザちっと数が多い、わりぃが馬車は任せてこっちに来てくれ!!」

 

 エルザをチラッと横目で見ながら声を出す。

 

 ・・・あれ?馬にニンジンあげてやがる。平和かよ。

 

 「んご?わっかりまひたわ」

 

 食ってんのかよ。ニンジンを・・・。生でニンジンとかお通じ大事か、ちくしょうめ。後食いながら喋るな。クチャラー予備軍だぞそれ。

 

 「敵は蟻だな、おそらくかってぇ外殻になってるはずだ」

 

 「っわかりましたわ!!」

 

 エルザが荷台から武器を取り出しながら返事をする。

 

 荷台から武器を出しているエルザを待たずに敵はやってくる。まあ当然なんだが、蟻ってのは目が悪いんだよな。匂いと触覚で行動判断してる筈だ。

 

 都合よく匂いをぶちまけるものはねぇな。がちんこでいきますか。節足っていうんだっけか横移動に弱そうな足の形してるし、いっちょ横から責めるとしますかね。

 

 「エルザ、俺が横合いから機動力を削ぐ!鈍くなったやつから頭を叩き潰せ!」

 

 「はい!まもなく着きますわ!!頭ですわね!」

 

 大き目の石っころに唾を吐きかけて、牽制がてら蟻の真ん前にぶんなげて戦闘開始だ。

 

 ドゴンッと大きな音がして、蟻の群れの中央に落ちる。そして触覚で匂いの確認をしてる。馬鹿め。その隙に横合いに大きく回り込んで、大剣を数匹の足へむかってぶんまわす。

 

 3匹が行動不能だ、一匹はあたりが悪くて腹から何か出てやがる。踏み込み過ぎたか。

 

 「エルザこいつらを任せた、俺は次をやる」

 

 「わっかりましたー。いっきますわ!」

 

 エルザが後方からから「おおかなづち」を持って走り込んで来たのでトドメを任せる。

 

 「これが勝利の鍵ですわ!!!アイアンハンマーぁああああ!!!光におなりなさい!!!」

 

 あーアウトだが、その件はとりあえず後だ。

 

 残りの2匹は大きな口元をガチガチと鳴らしながらこちらに来る。警戒の匂いを出してんだっけか。細かい話は、まあいい。

 

 俺は上着を丸めて左手に持ちつつ、大剣を右手で握りしめて正面から走り込む。蟻の直前まで来た所で、上着を蟻の触覚ってーか顔に向けてぶん投げる。はい挟んだ。アホめ、猫騙しならぬ蟻だましだ。その隙に横合いに大きく回り込んで、大剣を2匹の足へ向かってぶん回す。

 

 「エルザ、最後にこっちの2匹だ」

 

 「ピコハンですわ!ピコハンですわ!マスターの上着の仇ですわ!!」

 

 うーん一般商品でもあるなぁせーふ!!ってかゲーム知識もいけるんかよ。んで、俺の上着は死んでねぇ。後で拾って着るぞ。

 

 にしても、こいつは確殺だな。ほんと殺意の高い美少女で助かるわ。ぐだぐだと怖いだのなんだのと言わないのがいい。

 

 っとまあ、そんなことより、今は戦闘とモンスターの事後処理だな。

 

 「エルザ!こっちには増援は見えてねぇが、そっちはどうだ?」

 

 「こちらからも見えませんわ!おーほっほほ完全勝利ですわ!!」

 

 ふむ増敵なしで戦闘終了かね。しかし御者と戦闘どっちもさせちまってるな。

 

 「おう!完勝だな、おつかれさん。御者もしてるのに戦闘までさせてすまねぇな」

 

 「大丈夫ですわ!ソクラテス号とクサンティッペ号は賢い馬ですし楽なのですわ!」

 

 「おっおう、そんな名前だったのか」

 

 「ええ!ワタクシが偉人にちなんでつけましたのよ!!」

 

 勝手につけたんかよ・・・しかも夫婦仲悪そうだしよ。

 

 「そっか、まあ仲良くなってくれよ」

 

 「???ゎかりましたわ!」

 

 んでは、後処理と追いはぎですかね。って匂いの元断ちは丁稚が水撒きしてくれてるわ。何時の間に洗い流す水を用意してんだ?慣れてんな、まあこれがこの世界の長距離移動の常なのかもしれねぇな。とりあえず、上着を回収しつつ戦闘の後処理を手伝うか。

 

 そんで、こいつらの素材は需要が結構あるらしい。今回は移動中ってこともあって、馬車の主である商人が若干高く引き取ってくれることになった。ただの人運搬かと思ったら御者は変わるは護衛はしてくれるわで好感度が高かったみたいだ。まあほとんどエルザのおかげなんだがな。

 

 蟻の解体には戦闘中に避難してた商人も出て来て、高く売れる場所の指示を受けながら慎重にバラしていった。外殻は思った通り固くて難儀したが、曰く服だの袋だのの強度が必要な部分で使うらしい。他は顎と尻に匂いの元があるらしく、そいつは魔物寄せになるらしい。寄せればそれはそれで役に立つって話らしいが、まあ確かにそうだわな。顎は潰しちまったので尻部分の匂い袋を丁寧に切り離す。

 

 なるほどな、こいつは素材として有用なのか。たしか「てつのあり」とかそんなだったと思うし、鉄分でも含まれてんのかね。拳でこづくとコンと音が返ってくる。

 

 しかし人の腰くらいの高さまで体高がある蟻かよ。どんなに有用な素材でもリアルでみると恐怖でしかねぇな。戦闘中は昂ってるからいいけど、こりゃ怖えぇしグロいわ。

 

 こんなんが街の近くに巣作っちまったら、人の生活圏なんてすぐに食いつくされてしまわねぇかって思うが、この世界だとそれもねえんだろうな。国の軍とかがなんとかしてるんだろう。しかしまあモンスターって呼ばれるのは伊達じゃねぇってことか。

 

 ・・・街の安全は良く知らねぇけど、この世界だとなんとかなってんだろう。人も繁殖してるってかー繁栄してるしな。

 

 世界だの環境だのは落ち着いてから、考えればいい。今はクソ国家から離れる事が優先だ。ってなわけで商人を少し急かすようだが、モンスターの処理も終わった所で、隣国へと向かう馬車の旅を続けるとしますかね。

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