第11話 -裏側戦記-!!・・・まあそうよね

 世界中に出された1つの神託、それがはじまりだった。

 

 今より三年の時が流れしに海沿いの街近くに勇者と従者が降臨する。

 

 勇者と従者は、やがて魔王を封印するに至るであろう。

 

 人よ人の子らよ、汝らは勇者と従者を守り育むのだ。

 

 ともに強くあり、人と対なる魔を打ち滅ぼせ。

 

 さすれば世は人の平和に包まれるであろう。

 

 しかして汝らが勇者と従者を拒み。

 

 世に蔓延る苦しみ、悩み、惑い、悲しみにある多く者を救うこと叶わずば、勇者は魔王を封印するに至らず。

 

 やがて世は魔の平和に包まれるであろう。

 

 汝ら、選べ、人の平和か、魔の平和か。

 

 

 その神託は世界各地の教会だけではなく、占いや呪いを行うものにも及んだ。神が憑依し語りだし、見知らぬ言語で文字を書き伝え、透き通る水晶へ言葉を映す。手段や時を選ばずに神は世界へ伝えた。

 

 世界は突然の神託に混乱を極めたが、やがて勇者を支援し平和を望む事で一致していった。

 

 それに伴い、支援組織として銀行や仲間の貸し出しの出来る酒場を設立し組織化がなされた。

 

 そして、今も随時集められている義援金は勇者降臨国の管理とされていた・・・。

 

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 勇者とエルザが灯台の解放を終えて、次の街へ辿り着く頃。王城へと登城する一行が居た。

 

 その一行は、勇者を支援する組織の幹部でもあるダルーイを含む、各国からの使節団の代表だった。世界各国では、神託の勇者降臨にあたって勇者を強力に支援すべく義援金と人員を用意し、使節団として降臨が予定されている街に滞在し、その時を待っていた。

 

 一行は勇者が街を初めて訪れた(降臨)事を確認した後に、旅立ちが順調であれば各国へ戻るつもりでいたのだが、勇者降臨国を交えての行われる。定期会合で確認される進捗は「勇者様は目下鍛錬中です」「充分に支援を行っています」との答え一辺倒で要領を得ない。

 

 知りうる限りでは、戦闘に教練がされた形跡も無く、魔法を指導した形跡も無くと、どうにも旅立ちが順調で無いように見えていて、定期的に連絡を行う本国からも経過を観察せよとの指示が出ている為に長期の滞在を余儀なくされていた。

 

 要領を得ない回答に、各国の使節団は当然ながら事実確認を自ら行った。そして実際に勇者が近隣のモンスターを駆除している事を見て聞いて知る。

 

 貧相な店売りの装備で戦い、安い街宿に泊まって夜を過ごし、モンスターの素材を売ってようやく食事にありつけているだけにしか見えない。日雇いの狩人か旅人にしか見えない暮らしで鍛錬中とは、程遠い状況だと各国の誰しもが思った。しいて言うなら見た事のない服を来ているだけで、魔王との戦いに備えて力を蓄えているようには見えていなかった。

 

 その件について、何度も質問したが追加で出て来た言葉も「見た事の無い服装が最上級の装備なのです」との確認の出来ないような回答が帰ってくるだけだった。

 

 各国の使節団の目には、強力な支援で守り育んでいるようには到底見えておらず、日増しに勇者降臨国への不信感が募った。そんな時に勇者がダルーイの酒場に顔を出して事実と実態が発覚する。

 

 ダルーイは勇者がいつまでも仲間を増やしに来ないことに疑問を持ちつつも、街長の「酒場と支援組織の案内は私からしておくよ」との言葉を信じて待っていた。使節団の会議に参加して、疑惑を募らせつつも、近隣のモンスター駆除に励んでいることは確かだからと、不安と不満を押し込めて眠れない日々を過ごしてた。そうして眠れずに溜まるストレスの中で起こしてきた相手を見ると待ち焦がれた勇者だった。

 

 -ダルーイさん視点はじまり-

 

 ここ最近の疲労と眠気、そしていつまでも来ない勇者を待ってるイライラの腹いせも含めて私は勇者に何で来なかったのかと嫌味ったらしく問い詰めた。良くて謝罪の言葉があるのだろうと思ったら、勇者の言葉を聞いて驚愕した。支援組織がある事は知らない、そもそも国から勇者に対する支援が「50G」と「ひのきの棒」だけで、日々の暮らしはモンスターの素材を売却して賄っていたですって?その事実をさも当然のように語る勇者を見ながら考える。

 

 ・・・嘘じゃないわよね。定例会でも貧相な装備でって話が何度も出ていましたものね。

 

 あの各国から募った支援金はどうなったのですか?数年に渡り各国が「勇者支援税」として特別徴税までした集めたお金です。最終的には15億Gを超えたと聞きました。

 

 私は、勇者様への仲間の紹介を職員に任せて建物を飛び出した。

 

 -ダルーイさん視点おわり-

 

 勇者と話して、事実を知ったダルーイは勇者への仲間の紹介を職員へ任せて、各国の使節を緊急招集して事実と現況を話した。その話された内容に驚愕と混乱が起きる中、各国の使節団は勇者降臨国の世界に対する裏切り行為の可能性が高いとして、慎重かつ厳格に対応せねば世界の危機が起きうる事を全員で確認し合った上で緊急の事態として、本国へ連絡を行い指示を仰ぐ事にした。

 

 誰もが悪い予感を抱えていた。最低で勇者降臨国の孤立や消失、最悪で勇者を支援しきれずに死亡、魔王とモンスターの跋扈する世界の到来。だれもが慎重にならざるえない状況だった。

 

 指示を仰ぐにあたって、誰が言い出したのか分からないが、使節団の全員で同じ文面と同じ資料を、同じ時刻に本国に送ろうと決めた。ここで一次情報に偏りが出来てただけで国家間の大きな火種になると誰もが思ったのだろう。異論は出なかった。。

 

 本国への通信用の魔法や魔道具は各国に性能差があるが、最低性能の手段に合わせて報告内容は、綿密に精査されて作られた。

 

 そうして緊急の一斉同報として伝えられた内容に、各国は混乱を極めた。通信用の魔法や道具で真実を問う言葉や文字が飛び交うが、一貫されていて齟齬のない使節団の賢明なる対応のおかげで、最終的に返ってくる指示内容は「事実の確認を勇者降臨国へ行い、必要に応じて対応せよ」が大半を占めた。

 

 だが大陸最大の国家だけは違った。他国の使節団員の才覚まで知りうる情報力を元に、かの使節団がこのような慎重な対応をして居る時点で手遅れと見て、勇者降臨国を亡きとする事に決めた。この開戦意図は通信にて使節団へも伝わり。さらに遠方の他国にも伝播していった。そして大国は近隣諸国への開戦予告と対勇者降臨国の同盟設立を早急に行っていった。

 

 一方、開戦予告の連絡を受けた大国の近隣国や友好国は反ではなく対になっている時点で対勇者降臨国同盟への参加を表明した。

 

 開戦を宣言した国家と、同盟への参加を表明した国家の動きは早かった。宣戦布告書の作成権限を使節団へ委譲し、開戦の宣言を使節団員へ命じた。内政としては国交を断絶とし、商業的な繋がりも交通の停止も下達していた。大国に居る勇者降臨国の国民は心身に問題を抱えて居ない限りは、通告日より3日以内の国外退去とし、それ以降に国内に滞在した場合はスパイとして投獄することとした。 実際の運用は時間的なズレがあるだろうが、火急として厳命された指示に添えられた勇者降臨国の愚行は官民の怒りと共に火を見るより早く遵守反映されていった。

 

 

 現場となる勇者降臨国では、滞在する各国の使節団が意見の取りまとめの必要性を訴え、暫定的に大国の使節団長を使節団全体の団長とした。全体団長の最初の仕事は勇者降臨国の国王へ直接問答として、現状が勇者様の発言と相違が無いかを確認する事と満場一致で決まった。

 

 そして大国の意向を受けて、開戦の告知と本丸での決死の戦いの作戦が練られた。

 

 各国の使節団員は敵国の真ん中で開戦をするという意味を知っているにも関わらず、神託に殉死する事を恐れる事は無かった。そして酒場で燻っていた戦闘支援として手配された人員にも事実と作戦を伝えて参加を促した。そこには灯台より戻った盗賊と商人と僧侶の姿も見えた。無論、参加の可否も是非も問う事は無かったが全員が日々の勇者とエルザを目にしており、真実を知り参加としていた。

 

 そんな中でも盗賊は強い後悔を抱いていた。潤沢なるはずの資金を戦闘に使わない勇者を敵視し軽視していたことを。

  

 そして、すべての用意が整い最後の事実の確認として今の登城と相成った。


 一行は城を守る衛兵に先導され城内を移動し謁見の手続きを行い。謁見前の控室にて待ちがならも、失望と驚きの声を隠せずに呟きを漏らしていた。

 

 「勇者への支度金と義援金がすべて王家に収まってしまった・・・のか?」

 「この城内のありさまは・・もしや」

 「なんということだ・・・」

 「なによこれ、なによこれ」

 

 衛兵の案内時に通った城内も、今控えている謁見の前室も豪華な調度品に溢れ、数か月前に登城した時とは大きく様変わりしている。すべてが金銀や宝石で彩られ煌びやかにて絢爛だ。 

 

 大国の使節団の団長は各国の団員に指示し、調度品の簡易な査定と室内様子をスケッチさせてしていった。本来ならば他国にて、このような事を行うことは侮辱行為にあたる為に、勇者降臨国の衛兵が制止の声をかけて来たが、使節団団長が「勇者支援の現況として必要な調査である」と抜剣しながら宣言したので衛兵も引き下がった。

 

 大国の使節団員は一人離れた場所で悲痛な顔を隠しもせずに、最後通牒の無い宣戦布告書を作成していた。

 

 やがて近衛兵らしき人物が控室に来て、謁見の用意が出来た事を告知し時は来た。

 

 謁見の間は、控室よりもさらに豪華になっており。王が座る椅子にいたっては金色に輝いていた。

 

 各国使節団は、現状を歯噛みしながらも礼を尽くして謁見の作法に則り、謁見をはじめた。

 

 「この度は、緊急の用件と伺ったが何事かあったか」

 

 「直答を許す!!」

 

 王の右手に居る人物、宰相から直答の許可が出るのを待って使節団団長が問いかける。

 

 「それでは、勇者支援の越境使節団として問いを申し上げる。数日前に支援組織が勇者様に伺った話が、あまりに衝撃的な内容だった為に真実の回答を頂きたい。この国が勇者義援金から捻出した勇者様への支援は50Gとひのきの棒だけだったと伺っておりますが、これは真実でありましょうか?」

 

 「そ、そんなことはないはずだ。・・・大臣どうなっている?」

 

 謁見の間に居た貴族群から大臣と呼ばれた男が出て来て回答をする。この貴族は使節団に来て「鍛錬中」と「支援を行っている」を繰り言をしている貴族になる。

 

 「勇者様への支援は充分に行っております」

 

 「だそうだ。そなたの言うような事は起きておらん」

 

 「それでは、お言葉が足りません。充分とはどのような加減でありますでしょうか?もしや陛下は勇者降臨国としての支援とは、50Gとひのきの棒と申されるのか?」

 

 「大臣が言う通りであれば・・・そうなるな」

 

 「わかりました。最後に確認いたします。勇者は市井で販売されている武器をご自身で買われて、自らの費用で街の低料金の宿に泊まっております。それでも充分な支援をされておるとおっしゃるのですね」

 

 「うむ、困ってはおらんのだろう。ならば手を差し伸べる必要は無いと思うがの」

 

 「ご回答ありがとうございました。私共使節団は先ほど本国に勇者様への支援状況を一報として伝えております。こちらは真実であったと陛下より回答を頂いた事をあらためて報告する事とします。あわせて貴国の王城が華美で豪奢であった事も賛辞として伝えておきましょう。15億Gにも上った勇者様への義援金を横領し華美に飾られた見事な城であったと」

 

 使節団の団長が跪く事を辞めて王に向かい前に出る。近衛が動き「無礼なっ・・」と声が聞こえるが、団長が一喝した。

 

 「無礼なのはどちらだ、盗っ人が王と成れる国など敬う必要は無い!!!」

 

 大国の使節団長は懐から先ほど団員が書き上げた書類を王へ投げつけた。

 

 「わが国が大陸随一の大国であり、最大の軍事国家である事はご存知かと思う。だからこそ!世界を魔王の脅威から守ることを第一に考える」

 

 謁見の間に居た近衛兵が使節団長へと向かうが、使節団が扉に向かいV字を組むように守り、護身用の短剣を持ち近づけさせない。

 

 緊迫の最中、使節団の団長は高らかに宣言する。

 

 「我が国と使節団は!神託に背き勇者と従者への支援を拒んだ国を!魔王に従属する国家として敵国とみなし、今ここに開戦を宣言する!!・・・最後通牒は無い。即開戦だ、かかってまいれ欲深い山猿ども」

 

 その声を合図に大国の使節団員が大きな発破音らしきものを鳴らす。

 

 「なななな・・・」

 「何事だ」「どうなってるんだ」「儂は何もしとらんぞ」「道を開けろ帰るぞ」

 

 王座に座ったまま声が出ない王を尻目に、謁見の間に集まった貴族たちが騒ぎ逃げ出す。そんな中、謁見の間に繋がる大扉が開き、酒場で燻っていた各国の戦闘支援用人員がなだれ込んで来た。戦闘人員は使節団が謁見前に預けた剣を渡して行き。謁見の間は、あっという間に戦場と化した。

 

 

 数多の剣戟が、この時より勇者降臨国で鳴り響いた。

 

 -数か月後-

 この戦争は国家間とは思えぬ速度で終焉を迎えた。これは宣戦布告時に使節団の団長が本丸である城を押さえた為に、各地の王家に連なる貴族の平定をするだけの小規模な戦闘のみの戦争だった為である。

 

 王と王家は抵抗の術も無く捉えられ。

 

 虚言の大臣は髪を切られ吊るされ。

 

 だまし取った街長達は亀と煮え湯に入れられ。

 

 関心を捨てられた盗賊と商人と僧侶は真実を知り、勇者の足取りを追った。

 

 

 こうして勇者降臨国は民を残して歴史と地図から消えた。


 栄光の中に勇者降臨の地として語られる筈だった国は愚かに滅び、ゆるやかな歳月の中で隣国に分割吸収されていった。

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