第10話 全員腹黒!!・・・ですよねー
洞窟ん中は、トルシエのおっさんが言ってたように暗くてジメジメしていた。
「すまんが、松明を差し替えて火をつけてくれるか?代金は帰ったら、まとめて払うから覚えておいてくれ」
「はい、ですがお代は結構ですよ。私共の街の要衝でもありますので勇者様だけに負担を強いる訳にはまいりません」
「そうか、すまねぇな。街の偉いさんとは大違いだな」
トルシエのおっさんは苦笑いをしながら、入口近くにある松明に火を灯して行く。火が付いた地下道を見ると、スライムの移動した後がヌメヌメと光っていたり、動物とかの食い散らかし、らしきものが散乱していた。なるほどな、人の手が入らないってこういうことだよな。
ぼちぼち、この近辺でのクライマックスってとこかね。一応勇者らしく全体指示でも出しておくか、適当に考えついた作戦でも考え無しよりはマシだろうよ。
「さて、この地下道を一気に抜けてしまおうと思う。道中モンスターがいるかもしれんので隊列を変えるぞ、前は俺とトルシエの2人で横一列、2段目はエルザとフラーレ、最後尾はウェンディに頼む。ウェンディは後方に注意しながら歩いてくれ、そして俺たちPTに何かあったら街まで戻って伝える役を頼む。まあ大きな事は起きねぇと思うが、一応そういう心構えで居てくれ」
「みんないいか?意見があれば聞くぞ?」
「はいはーい」
「おっウェンディか何だ?」
「何かあったらって具体的にどんな感じー?」
「ああ、今の状態だと。地下道が崩れて生き埋めになる。モンスターに襲われてPTが壊滅する。くれぇだな。戦闘に関してはヤバいなと思ったら、見切りをつけて逃げろ。それについて責める事はしない」
「地下道は頑丈だし敵は余裕だと思うけどねー。勇者様は慎重だねー、わかったよー。任されました」
「まあ、最悪を想定してると動きやすいってだけだ。俺だって生き埋めになる気もモンスターに負けるつもりもねぇからな。危なかったらすぐ撤退するさ」
隊列を組みなおして、地下道を進む。道中にモンスターが数匹いたが、周囲にいた雑魚と変わらなかったのでトルシエを中衛にさげて、エルザを前衛に上げて、ウェンディに後衛2人を守らせながら進んだ。
「エルザ―、必殺技は温存しておけよ。小島の様子次第では魔物の巣に突っ込むかもしれんからな」
「分かりましたわ!!巣にある卵を割りませんとね!!」
巣って鳥の巣あたりと思い込んでねぇか、まあ俺も見た事ねぇけどよ。でも大カラスとかの巣っていやぁ卵もあるのか。あながち間違いとも言えねぇのが何とも言えねぇな。
行軍しながら地下道内に火を着けて行く、さっきから火を着けた後にフラーレがなにやら火に向かって祈ってるんだが、なんだありゃ。・・・祈りおわったみてえだから聞いて見るか。
「フラーレ、火に祈ってるが何か効果があるのか?」
「はい、勇者様。火の精霊様にお祈りを捧げて聖火としております。モンスター避けの効果が若干ですが発生します」
退路と安全領域確保において、わりかし重要な事をシレッと言いやがったな。先に言ってくれよって思ったが、こいつらの世界では常識なのか。勇者の出自なんて知らねぇだろうから、この世界の常識を知らないって事を知らなくて当然か。まあいい、良い効果だ。
「なるほどな、助かる。祈りに使うコストはあるのか?」
「コストですか?」
「費用の事ですわ!祈ると疲れたりしませんか?ってマスターのお心遣いですわ!!」
おい、大げさにいうな。通常行動の消耗度を知らねぇと行動予定がたたねぇだけだ。
「まぁ、ありがとうございます。私たち僧侶にとって祈りは安らぎなので、疲れたりすることはありません。勇者様の慈悲深い御心に感謝します」
そんな大事なようで大事じゃねぇ話をしながら、地下道を進んでいく。海産物を運搬するってだけあって道は広く直線的だ、自然にあった道をだいぶ削ったんだろう。途中で数回あった曲がった道も緩やかな曲線だったしな。
「あそこが出口になります」
前方を見ると、勾配がついた道が見えて来た。なんつーか地下鉄を上がる時みたいな絵面だな。こっちは階段じゃねぇからあんなに急ではねぇが。
「わかった、道内の案内助かった。ウェンディ、これから地上に出るから、前衛として前に上がってくれ。トルシエはエルザ達の後ろについてくれ」
「はいよー」「わかりました」
事故ってーのは、終わりかけて気が抜けたりした時に起きるもんだ。しかもここは坂になってやがるから、上から襲われたら圧倒的に下にいるほうが不利だ。用心するに越した事はねぇ。
警戒しながら坂を上り切って、小島に到着する。周辺にはモンスターはいねぇな。途中で火を着けながら来たものの、外の日差しが眩しくて強い。おもわず目を閉じそうになるがモンスターが居るかもしれねぇので気は抜かねぇ。
「ウェンディ近くにモンスターは居るか?」
「眩しいですわね」「そうですね」「日焼けが怖いですわ!」
「んーどうだろ、居ないと思うけどー」
ウェンディが5mくらいの距離を円形に移動しながら確認をしてくれた、ふーん。あーやって四方をチェックすんのか覚えておいて損はねぇな。後方で日常回のアニメみたいな平和な会話をしてるが気にしねぇぞ。緊張感もてよ。
「いないよー」
「ありがとさん、じゃあ魔物の巣とやらを探しにいきますかね」
魔物のを巣を探索しながら小島を海沿いに歩く。小島は上陸してみると結構な大きさで、あちこちに漁業をする為の設備がおいてある。小さな小屋があって網みてぇなものが吊るしてあったり。船着き場みてぇな木の桟橋もある。所々、モンスターに攻撃された後があるが、甚大なダメージって程じゃなくて軽ーく歪んだり、欠けたりしてる程度だ。まあ手直しすりゃまだ使えんだろって感じだな。
周辺を探索してるんだが、巣になってるって言われる程のモンスターが居ねぇ。
「地下道の手前より、モンスターが少ねぇな・・・」
その呟きを捉えてウェンディが指さしながら答える。
「倒すべきモンスターは、あそこに居るんだと思うよ」
指差す方向を見ると、4階建て位のちょっと小高い建物があった。建物ってかありゃ灯台か?
「灯台か?あそこに居るのか?」
「そうです。数か月前から灯台がモンスターに占拠されて、そのまま人が寄り付かなくなり、島にモンスターが増えました」
なるほど、要は灯台のモンスターを駆除して漁業を再開させろって話か。クソッあのじじい。「そろそろモンスターの巣を討伐してもらいたい」の「そろそろ」ってのは漁業再開にかかってて、モンスターの巣なんてのは無かったてぇ事か。
「ちっ街長とやら、やってくれるな。こいつは国やら街の仕事じゃねぇか。普段の税金を何処に使ってやがる、兵士や衛兵たちは何のために居やがるんだっての」
マジでくそったれな国だな、魔王とやらを倒す勇者の仕事じゃねぇ。そりゃあ言い淀みにも拍車がかかるってもんだな。まあここまで来たついでだ。癪だが、灯台の解放とやらをしてやるよ。今回は酒場のやつらの陽気さで許してやるってーの。
「ここまで来て、四の五のいっても仕方ねぇ・・か。とりあえず灯台まで行くぞ」
「わかりましたわ!!」「「はい」」「はーい」
ちょろちょろと出て来るモンスターを蹴散らしながら、ウェンディの案内で灯台へと向かう。灯台への道は、申し訳程度には歩ける道だった。管理者みてぇな奴が通っていたって所か。
「着いたよー」
お気楽なウェンディの案内に目を向けると、壊された大きな木の扉が目についた。れが灯台とやらか。おーおー、あんなに派手に壊せるってことは結構、力のあるモンスターがいるのか。
「案内ありがとさん、さて乗り込んでモンスター掃除でもしますかね」
「「「はい」」」「はーい」「わっかりましたわ!!」
気合が入って言葉がホップしてるエルザが居るが、戦闘狂に近くねぇか?これいいのか?
・・・それはまあ後で考えるか、それよりちょっと全員と話さないとな。
「でだ、お前らはどうする?ある程度事情知った上で、国だの街だの酒場から依頼されて来た奴もいんだろ?こっからは面倒になるかもしれんから、なんなら帰っていいぞ?もちろん灯台のモンスター退治はしておくぜ」
突然の解散宣言をしておく、音楽性の違いってやつだ仕方ねぇ。って、そんな冗談はつまらねぇから口に出さねぇが。まあ少しだけ真面目に考えると、現段階で街で国や街長やダルーイだっけ人材斡旋所?とかの組織的なもんに関わる人員は信用ならねぇってことだ。平気で人を騙す奴って自分に得がありゃ何でもする。出自の知らねぇ勇者の生死なんてのはゴミみたいなもんだろう。ってな訳で後ろから刺されたんじゃやってられねぇ。一緒に居て難癖つけられて首輪つけられて飼い殺しってのもあるしな。ここで解散が正解だ。
「じゃあ、私は帰ろっかなー」
「私は残ります」
「私も残ります」
「わたくしは!マスターと一緒ですわ!!」
まあ、そんなとこだな。盗賊と商人は、この感じだと事情知って来てるんだろうし、僧侶はわからんが宗教家なんてのは往々にして、金と権力が欲しいからやってるだろうしな。本人がそうじゃなくても上司だのに何かしらの思惑あんだろう。後、エルザさん。ここでお前が離れるとか訳わかんなすぎるから、検討するのはヤメロください。とりあえず無言の圧力と共に手を出して商人から預けていた道具を返して貰った。
「よし、じゃあここからは別行動だ。道中おつかれさん。盗賊さん最後に一仕事頼んでいいか?」
「なーにー?めんどくさくないなら、いいよー」
「酒場に報告を頼むわ、勇者を無事に灯台に送り届けました。戦力的に灯台の解放は確定でしょうって一報いれといてくれ」
「はーい、言われなくてもそれはするけどね」
盗賊は酒場から依頼受けて来たってのが確定かな。まあいいか。んじゃあ、行きますか。
「エルザ、じゃあ勇者様のお仕事とやらをしてくるぞ」
「はい!マスター!!」
俺とエルザは、壊れた木の扉を抜けて灯台の中へと向かった。灯台に向かう際に商人と僧侶が困惑してたが知ったこっちゃねぇ。あんたらを信用することはもうねぇ。
灯台自体は、一フロアがそんなに広くねぇ広間があるだけの4階層だった。小難しい事は無く、襲ってくるモンスターを倒して終わりってだけだから簡単に攻略が進んだ。普段灯台として使ってんだから、最上階までの移動が複雑な構造はありえんわな。
途中でいかにもな宝箱があったが、開けて中身を持ってったりすると、後々面倒事になりそうだから放置しておいた。たぶんこいつが首輪つける為の罠なんだろうな。同行してこの宝箱から何か持ってたら窃盗罪って寸法だろう。この国と街と人材斡旋所はマジでクソだな信用ならねぇ、PT解散しても揚げ足とられるような行動はすべきじゃないってこった。
そんで今は、四階のいかにもってボスが居ます。って場所で何かを貪り食っている大型のモンスターを離れた距離で観察してる。まあ見えない位置からの戦力確認だな。
ちなみに、一階から三階のダイジェストはこんな感じだ。
一階「モンスターはまとめてドーーーーンですわ!!ルナティックでドーン!」
二階「モンスターはまとめてドーーーーンですわ!!ホライゾンなドーン!」
三階「モンスターを塔の外にドーーーーンですわ!!スモールウエストですわ!!」
サザンタワーあたりだったり、時々セールするゲームだったり、ファッション界の大御所だったりと多方面から攻めてきた。いや責めてかもしれんが。そこはどうでもいいか、まあ楽勝だったってことだ。
四階は屋上みたいな構造になっていて、灯台として使う為の大きな篝火っていうのか?キャンプファイヤーみたいな設備がある。開けてはいるけど風も吹きあがって来てあぶねぇ。ちょっと気を付けるか。
モンスターとやらを確認すると、腕がたくさん生えたライオンみたいな顔したやつだ。ちょっと見覚えある気がするわ。物理バカな敵だったと思うぞ。
「エルザ、あれが恐らく今回の灯台占拠の犯人だろうよ。腕が多いから、攻撃回数が多いかもしれん」
「はい、大丈夫ですわ!ここからがクライマックスですもの!!」
「おいっ声がでけぇ、静かにしろって、もう遅いか」
グァギャアアアアアアアアア。
「気づかれたぞ!行くぞ。下の扉を壊す位には、力がある敵みてぇだから一撃注意しろよ!」
「はい!蝶のように舞い蜂のようにですわ!!」
刺すまで言えよ。・・・半端で言い止めやがって。
エルザと共に左右に展開するように飛び出す、伊達に長い事一緒にモンスター狩りしてない。俺と逆に飛び出してくれる。
両方から挟まれる形になった多腕のライオンみてぇなやつは、俺とエルザを見比べて俺に向き直った。おそらく俺の脅威度が高いとみたんだろう、馬鹿め。
時間稼ぎに「どうのつるぎ」をライオン野郎の目線の高さまで上げて挑発する。
・・・エルザの脅威度が低い?そいつぁ間違いだ。俺より強えぇと思うぜ?
「確殺!!膝裏ホームランですわ!!!」
俺に向き直ったライオン野郎の後ろ側で、エルザが走る。途中で「こんぼう」を一本放り投げて、もう一本を両手持ちにして、ライオン野郎の膝裏に往年のホームランバッターよろしく「こんぼう」を一本足の野球振りで振りぬいた。
ありゃ戦闘の天才かねぇ。正面から向き合った俺から見ると、途中で投げ捨てた「こんぼう」に驚いたライオン野郎が左側に視線を逸らしちまった所為で、死角となった右手後方から走り込んで一撃だ。これが会心じゃねぇなら何が会心なんだって勢いだ。
擬音だけなら「たたたた」「がらーん!」「たたたたっん」「ばっこーん」だ。バカっぽい表現だがマジだ。
途中で「こんぼう」を一本投げ捨てながら、両手持ちで一本だけ持って走り込むとか。ヒーロー的ムーブすぎやしませんかねぇ。勇者は俺なんだが?
エルザを軽視して、まさに足元を掬われたライオン野郎は、そのまま派手に仰向けにすっころんで頭を強打して動きが止まった。脳震盪みてぇなもんか?とりあえず、喉元を斬り気道を開けて胸元に「どうのつるぎ」を差し込んで終了ってな感じ。
まあ、これで終わりか?そのなんだ、もうちょっと緊張した戦いはねぇのか。
はぁ、なんだか拍子抜けというか活躍出来なくて消沈っていうか、まあライオン野郎も動いてねぇし戦闘も終わりかな。トドメによって血なまぐさい空気はするが仕方ねぇ。
「エルザ、お疲れさん。これで灯台の解放は完了だと思うぞ」
「はい、お疲れさまでしたわ!簡単でしたわね!!」
そうだな、俺は実質なんもしてねぇしな。
「ところでマスター!先ほどから不思議なのですが、灯台なのに火がついてませんわね!まさに灯台もと暗しですわ!!」
「おっおう、そうだな。そいつに火を着けれるようにって此処に来たんだわ」
なんか違うと思うけどそうだな。こいつの対応は親父ギャグをスルーするキャバ嬢って位のトーンでいいのかもしれんな。
「そうでしたわね!まさにモンスターに苦しむ民を救う勇者の所業でしたわね!!」
いや、俺はなんもしてねぇし勇者の所業違うし。しかもエルザが掬ったのはライオン野郎の足元だけだし。
とりあえず、まわりを見渡してモンスターの残党もねぇ事を確認した。
よし、帰るかって思ったが、あの街には帰りたくねぇな。宿も日払いだし、このまま次の街まで行くか。まだ日も高いし行けんだろ。
「エルザ、この灯台にある水場を使って身ぎれいにしたら、このまま次の街に行くぞ」
「わかりましたわ!もうここは用済みですのよ!!」
まあ、用がある奴が居るから解放したんだけどな。俺たちには用済みってのは確かにそうだな。とりあえずモンスターのべとべとだのグチャグチャだのを綺麗に洗い流して出て行きますかね。
そのまま一階まで下りて行き、炊事用の水場らしきものがあったので拝借して、武器や防具の汚れを落として外に出る。外に商人と僧侶が居たので解放が終わった事だけ伝えておく。
「中のモンスターは全部倒した。屋上に居たボスらしきやつも倒したので、もう大丈夫だ。確認したいなら行ってくるといい。あっそうそう道中の宝箱は開けてねぇからな」
ひきつった顔の商人と悲しげな顔をした僧侶の2人は、無言で頭を下げながら灯台内に入って行った。
「さて、エルザ。ここからは二人で行動だ。次の街まで少し歩くがいいか?」
「はいっ!かまいませんわ!!元々二人旅ですもの。今回だけ特別だったのですわ」
まあ、そうだな。・・・この旅に余計な人員はいらねぇのかもながらいな。高次元なんちゃらの「面白い」から外れるだろうけどな。
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