第7話 勇者腹黒!!・・・だってばよ

 道具や換金とかの雑務をこなして宿に居るエルザと合流した。

 

 「マスター!お待ちしておりましたわ!!こちらの方がマスターにご用事があるとのことですわ」

 

 「おっおう、そうか繋ぎありがとな」

 

 「どういたしまして、ですわ!!」

 

 ですわが強いエルザに案内されて、待ち人とやらの所に行くと街長の側近みたいなやつがいた。こいつらとは、たまにモンスター討伐について話し合う事がある。街の近辺のモンスター退治にあたって、何処を優先す「べき」だとか、被害の多い場所とかの情報という名の指示をもらっている。

 

 最初は丁寧だったのだが、近頃は常に偉そうで「あっちに被害が出ている早く行け」だの「そんな事も知らないのか」だのと、ずいぶんな言い草が多い。

 

 しかも面倒を言いやがる癖に対価を払わねぇ。クエストだのお使いつかいだのには報酬なりお駄賃ってものが出るだろうに。

 

 「あんた、たしか街長んとこの人だよな。今日はなんだ?」

 

 何人か居る街長の側近でも偉めのじいさんだ。こんな片田舎で偉そうに小奇麗な服を着ている。普段偉そうに指示を出してくるやつらとは別口ではあるな。面倒の匂いしかしねぇ。


 「ここのところ近隣のモンスターが減って来て、街もようやく平和になってきました」

 

 んーーなんだそら、モンスターが自然現象で減ったような言いまわしかよ。しかも苦労しましたを前面に出した話しっぷりと来たもんだ。誰が何をして平和になったつもりなんだ?バッテン叩きすんぞコラ。

 

 苦しい時に、自分の力で苦しみに抗わねぇやつは、苦しいのが好きで妥協してんだろ?

 

 あんたらは好きでモンスターに苦しめられてたんじゃねぇのか?俺にはそう見えてたぞ、通商の要の街道整備とモンスター駆除による安全確保もしねぇ、王城に兵がたくさん居る癖に近隣のモンスター討伐をやらせることもねぇ。そんでもって街で自警団を作るわけでもねぇ、そんなんはモンスターに襲われる私大好きモードってしか思えねぇ。何言ってやがる、頭沸いてねぇか?

 

 「おう、お題目はいいから。本題よろしく」

 

 「はっ・・・はい。勇者様ご一行には、そろそろモンスターの巣を討伐していただきたいのです」

 

 丁度いいな、沸いてくるやつを処理するだけってのもめんどくせぇと思ってたんだよ。

 

 「ふーん、それはいつもの報酬の無い依頼か?」

 

 「何度も申し上げております通り、街からは明確に依頼と出来ない現状がありまして」

 

 愉快な顔が繕えてねぇぞ。ガキの使いかよ。

 

 「それで?その巣の情報はあるのか?まさか一月も変化のねぇ依頼出来ない現状とやらで、どこぞから沸いて出た勇者様におんぶに抱っこって訳はねぇよな?」

 

 別にモンスター倒すのはいいんだけどよ、初日以外は俺に顔すら見せず面倒事だけを言ってくる街長とやらは礼をいう事もねぇ。部下を使って面倒事を押し付けて来るお貴族様スタイルってやつだ。まあこの国のトップからクソだったからな、棒きれと支度金といいよ。

 

 ったく、何処の世界でも為政者ってのは変わらねぇ。痛みに耐えてよく頑張った!とかセクシーでなきゃいけないとか言葉だけはうめぇ。セクシーはうめぇか知らねぇが。

 

 やくそうを5個、買ったら終わっちまう支度金ってなんだよ。エナドリを5本あげるから年始の東京ドームでベルト奪取ヨロって話だ。

 

 調度品1個1個が50Gじゃ効かないような、豪華なお城に呼びつけて大層な口上述べてから、結局は命かけろ、給付金は1000円だ!こんなんが王なら暴動が起こると思うぜ?・・・日本人なら平気か?まあいい。

 

 「どうせ、あんたに言っても変わらねぇんだろうがな。ちょっと適当がすぎねぇか?あんただって街の偉いさんなんだろ、家族も居るんだろう?なんで命かけてモンスターと戦いに行かねぇんだ」

 

 「当たり前でしょう!そんな危険な真似は出来ません」

 

 おっ調子出て来たな。この異常者め。

 

 「だよな?でも俺にはやらせるんだよな、そんな危険な真似とやらを。でだ事前に調査するわけでもなく手を貸すわけでも無く、一方通行でここ一月の偉そうな態度して俺をこき使ってくれてるるけど、あんたら何をもってそんなに偉そうに人の群れでリーダーやってんだ?獣だってモンスターだって、群れのリーダーってのは仲間をちゃんと守るぞ?なんなら命がけで庇ったりもしてたぜ」

 

 「そっそれは、、、勇者様だか・・ら?、やらせ・・ている?」

 

 へっ、悩む頭があるなら、せいぜい悩め。現状のおまえらは獣やモンスター以下ってことだよ。ははは。

 

 「まあいい、その巣とやらは退治に行く。そして持ち帰った素材売っぱらったら、この街を出るわ。その方が都合いいだろ?それでいいか、追手とか寄越すなよ?そんな事したら、この素敵な街の噂話を世界のあちこちでしてくるぜ、特に近くにある隣国の街で重点的にな」

 

 「・・・はい。討伐をお願いします・・・そっそんなことは」

 

 「まだ言葉が通じてるようでなによりだ、対価が出せねぇってんなら明日の朝までに、その巣の情報位はまとめてくれるか?朝までに宿に届けておいてくれりゃあいい。クソみたいな国と街だからクソみたいにしか対応しねぇ。それを忘れんなよ」

 

 「わかりました。この事は街長にも伝えて、ご判断いただき対処します」

 

 街長につげ口するから覚えてろよって事か。ちっやっぱドクズかよ、この街は、さっさと出ていくに限るな。酒場の気のいい奴らを考えると退治だけはしておくが、こいつらの小間使いを延々とやる気はねぇ。終わったら、さっさと出て行くか。

 

 この調子じゃ情報収集もあてにならねぇな。形式上、要点だけはいっておくがな。

 

 「メモ書きも持ってねぇ見てえだから、たいした記憶がいいんだろ?一応必要な情報について言っておくぞ。無料で退治してもらいたい巣とやらの場所、出て来るモンスターの種類、そして拾得物の処遇についてだ。拾得物には、人も含まれることもあるだろうな、生きてる死んでるは別にな。巣に人が連れ去られる。巣で殺されたやつの遺体とかな。そしてそいつらの遺品やモンスターが奪った金品だ、街の外に、大きなカラスが居るだろ?あいつら光物すきなんだよな。知ってたか?」

 

 さて言いたいことも言ったので、僕は不満ですって顔を隠しもせずに立ち尽くしてるバカはほっといて、酒場に行って情報収集でもしますかね、これ以上の会話は時間の無駄だろう。

 

 「さて、エルザ酒場で巣の情報を集めにいくぞ。これで巣に高価な宝でもあったらおもしれえな、はは」

 

 「はい!うさぎの削ぎ取りはお手の物ですわ!!」

 

 おう、正しいお手の物だ。成長したな。おまえだけが平常運転で好ましいわ。

 

 しっかし、なんちゃら意識体は、この世界は楽しいとか言ってたが、大分歪んでねぇか?人ってのものは、そんなもんだって言えばそうなんだろうがよ。明日、自分の家族がモンスターに襲われるかもしれないってのに街に引き籠って権力闘争だの税金の勘定だのお役所仕事に夢中だ。どこまで行っても人は人なのかねぇ。

 

 さて、ちーっとばかし不愉快な事があったが酒場に着いた。とっくの昔に行商のやつらは移動してて今は街の独身者で食事も作れねぇおっさんと、酒好きのおっさん達が集まってる。まあ辺境の街にしては賑わってる方だと思う。

 

 「さて、エルザ。俺はこれから銀行に行って道具と金預けたりと雑用してくるんだが、どうする?先に食ってるか?」

 

 「マスターだめですわ!。孤独を愛さない人間は自由を愛さ無くなりますわ!!そんなに一人で行動するのはダメですの。モンスターの換金もいっつも一人ですわ、もっと一緒に行動すべきですわ」

 

 おっおう、ショーペンハウアーの引用付きの「べき論」で怒られたわ。だが意味わからん、一人で行くってことは孤独を愛して自由じゃねぇか、問題無いだろ?

 

 「んー?ああ一緒に来るか」

 

 両手を腰に手を当て、左右の腕で三角形を作って、ふんぞり帰るエルザを見ながら言われた事を考える。

 

 ・・・んあ・・ああ俺が一人で居る自由に慣れるとエルザも一緒に孤独になるってことか?要するに捨てられる危機感ってやつか。

 

 それともさっきのやりとりか?街と大きく関わらずに2人で孤独にモンスター退治してれば、ああいう不自由なコミュニケーションが出来るってことか?

 

 どっちだ・・・わからねぇ。くっそ、訳わかんねぇ事を言いやがって。かしこぶりかよ。かわいこぶりに、かしこぶりとか属性過多だってーの。つーか、それもそうだがAI進化しすぎだろ。

 

 「行きますわ、それから一緒に情報収集ですわ!!」

 

 まあ、エルザなりに思う事があんだろう。おとなしく従っておくか、たった一人の相棒だしな。

 

 銀行に金を預けて、エルザと大分馴染んだ酒場内で飯を食いつつ情報を集める。

 

 「最近、漁に出ても魚が居ない」

 「モンスターが海の方から飛んできた」

 「最近、肉の流通が増えて食事のメニューが増えた」

 「近海にある小島に通じる地下道からモンスターが沢山いる」

 「街の娘達の間で、ですわ口調が流行っている」

 「道具屋のおやじが店舗の拡大をするらしい」

 

 ・・・っとこんなもんか、余計な情報もいくつか混じってるけど。こりゃあ小島とやらが巣っぽいなぁ。

 

 「エルザ、みんなの話を聞くに海にある小島とやらが怪しいと思うんだが、どう思う?」

 

 「それより街にいるワタクシの偽物が怪しいと思いますわ!」

 

 偽物はいねぇだろ、ただおまえに憧れてるだけだ。見た目は完璧美少女だからな。

 

 「そうか、じゃあそいつも後で調査するか」

 

 「はい、さすがマスターですわ!疑わしきは罰ですのよ!」

 

 そいつぁ、駄目だ。悪・即・断ってか?極端が過ぎるわ。どこの過激派だよ。

 

 「おうよ、調べてからな。それじゃ明日からは、怪しい小島ってのに乗り込んでみるとするか、エルザの偽物はそいつが落ち着いてからでいいか?」

 

 ・・・どうせ、魔物の巣を潰すまでに忘れちまうだろうしな。

 

 「はい!ワタクシの拳が、光って唸りますわ、轟叫びますわ、必殺シャーイニンもがががが」

 

 おっとそこまでだ。エルザの口に手をあてて「陽が昇る」方向にお詫び申し上げるぜ。

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