第3話 エルザ爆睡!!・・・ですわ
食事が来るのを待ちながら、店内を自然な感じで観察する。
エルザも真似て観察するが、キョロキョロと挙動がでけぇ。
安定のロークォリティ先生はいいとしてだ、ここは酒場ってだけあって酒を飲んでる奴らの方が多い、食事を取っているのは商人らしき一行だけだ、彼らは行商人か何かで、この街の人間では無いのだろう。広く情報取れそうで助かるわ。
「あんぱんと牛乳も頼むべきですわ」
それは張り込みだ。隠れるべき電信柱と住み込むべき車がねぇ。
「大丈夫だエルザ、ちゃんと正面から声をかけるつもりだ」
「わかりましたわ!正々堂々とお祝いしましょう!!」
情報収集が張り込みに変わって、正面から聞き込みがお祝いになるのか飛躍してんな、それで何をお祝いすんだよ。
「おまたせしましたー。今日のお勧めと、うさぎのローストです。お食事にはスープとパンがセットになってます」
「おぅ、ありがとう。代金は今がいいか?」
「はい、今お願いします」
酒場の娘に代金を支払いテーブルに向き直って食事をはじめる。エルザに目をやるとナイフとフォークを使ってローストされたウサギを削ぐように切っている。不器用なんだか器用なんだか全くわからん手つきだ。おっかなびっくりやったかと思うと綺麗に出来ている。
「こうやって削ぐ!こうやってこうですわ」
んーー?もしかして、これ知識はあるけど経験が無いせいか?「こうやってこう」ってアレだろ考えながら動いてるだろ。考えた通りに動けるかの確認発声だよな。
・・ん?・・・あっそりゃそうか、データでしかなかったんだもんな。
「エルザ、ゆっくりやっていいんだからな?」
「でもお腹が空いてますわ!」
「そうか、ちょっとやってみせるから覚えればいい」
エルザからナイフとフォークを借りて、見やすいように削ぎ切る。シュラスコみたいに食べやすいサイズに数個切った所でエルザにナイフとフォークを戻した。
「こんな感じで削げば食べやすいだろう」
「マスターは博識ですわね!わかりましたわ。こうですわねこう!そしてこう!」
「そうそう、そんな感じだ。あんまり削ぎすぎると食べる前に冷めちまうから、削いだ分から食べちまいな」
「そうしますわ、お腹が空きましたの」
「じゃあ少し周りに話を聞いてくるわ、少し金を使うぞ」
「はい、だふわ」
食うか喋るかどっちかにしろと呆れつつも情報収集をはじめた。聞くべきことは「魔王について」「近くの街について」「この近辺での困りごと」位か。まずは一般的に認識されてる魔王ってものと、このあたりの情報を集めよう。
酒場の娘に金を払い、酒のジョッキを手土産に持って街の住人らしき人たちに聞き込みをする。それが終わったら、今度は酒を瓶ごと買って行商してるらしき商人のところで聞き込みをする。商隊らしき奴らには近隣の街情報も聞けた。
少し、大枚を叩いてしまったがまあいいだろう。充分に話は聞けた、後はエルザと2人で情報をまとめよう。聞き込みを終えて席にもどろうとすると酒場の娘から追加料金の請求をされたので払っておく、チラリとエルザに目をやると。
あいつ少しの隙に酒まで飲んでやがる・・・何事も経験か、今回は許しておこう。
「エルザ戻ったぞ、情報は集まったと思うぞ」
「・・・さすがヒック、マスターでわねック」
大分酔ってんじゃねぇかよ、代金からすりゃ結構飲んでるな。
「おう、どうだ。酒はうまかったか?」
「はい!ック、ただシャックリは止まりまヒックせんわ、後少し眠いですわ」
「そうかそうか、じゃあ目的は果たしたし宿に帰るか」
「わかりましたわ、・・・ヒック。・・・これから眠りのエル郎として大活躍しま・・すあZzz」
寝ちまったか、そりゃな。初めての酒だ。横隔膜も驚いてシャックリは出るだろう。多分アルコール分解も出来るだろうけど、まだ慣れないだろう。それとな眠りの人は近くにショタと隊長機みたいなツノ生えたJKいねぇとダメだ。
「ねえちゃーん、残りのお代はあるか?連れがつぶれちまったので帰るわ」
少し離れた所にいた酒場の娘がやってきた。
「お代の残りはありませんよ?食事が少し残ってますが、お持ち帰りにされます?」
「あっああ、明日の昼まで持ちそうなものがあれば頼みたい」
テーブルを見ると、酒はそんなに飲んでないか、酒に弱いみたいだな食い物の方が多い。
「はい、結構日持ちするものがありますので、日持ち順に数個にわけてお包みします」
「すまねぇな、ここの飯はうまかったからありがてぇ」
「うふふふ、ありがとうございます。あとこれお連れ様用のお水です」
気が利く奴だ、目の前でテキパキと詰め物をしている娘に感謝しつつ。肩ですっかり眠ってしまっているエルザを眺める。こいつもせっかく命を貰ったんだ、無駄にはしねぇ。そして色々と経験させてやらねぇとな。楽しく生きて行こうぜ。
「できましたよ、本日はご利用ありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい」
「ああ、ありがとうな。それでこれは心づけだ取っといてくれ」
肩に寄りかかってるエルザを背中に背負い宿を出る。多少のふるまいをしつつ情報を聞いたので、店内で知らぬ顔は無い状態だったせいか、どいつもこいつも笑顔で椅子やらテーブル動かして帰りやすくしてくれる。
チッいい奴らかよ・・・積み重なるじゃねぇか勇者とやらの重責がよ。
だが今の俺にはなにも出来ねぇ、明日から聞き込みで知った「この近辺での困りごと」ってやつを少しづづ片づけていくとするよ。
・・・っは俺も少し酔ったのかもな。
それにしてもだ、この背中に感じる双丘は磔刑にされちまうかな?
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