第3話 闇を抜けて

もう、妻を抱く事は無いと思っていた


私は電話で荷物の引き取りの為に一緒に住んでいた部屋に呼ばれた


玄関の前に立つと、昔の事が頭を駆け巡る

気配に気がついた妻が玄関を開け

私を迎え入れた、優しい声で

『おかえりなさい』

私は一瞬時間が戻ったのか?と錯覚したが

乱雑に詰められた私の荷物が入った段ボールを見て、正気に戻った

やはり、もうお終いなのだ

『ご飯たべるやんな?沙耶にご飯あげて』

我が子にご飯を食べさせる

親なら当たり前、当然な話し

しかし今日は幸せな、一生続いて欲しい瞬間に感じる

私は用意された沙耶のご飯茶碗を持ち

沙耶の口にスプーンを運ぶ

沙耶はグイグイと顔をスプーンに近づけてご飯を方張る

我が子の成長を見て、大きく元気に育って欲しい、どのツラ下げて言ってるやら

そう言われて当然だが、そう願ってやまない

沙耶はすぐに完食した、それと同時に

妻が食事を運んできた

『ありがとう!流石父親は違うなぁ』

違う男性と比べる言葉に胸が苦しくなったが

『当たり前やんけ』

私の全力の強がりだった

妻の料理は基本的に質素で彩りや豪華さは全く無かったがこの日は、冷凍食品がオードブルの様に皿に盛られ、まるで居酒屋に来たのかと思わせるメニューだった

『珍しいメニューやな』

思わず口に出た言葉に

『あんたの弁当用のおかずがいっぱいあったんよ、あんたの好きなおかずばっかりやしちょうど良かったわ』

まさに最後の晩餐だった

食べ終わる頃には沙耶は眠むりについていた

私は今が話す最後のチャンスと思い

精一杯の言葉を伝えた

『ごめんな、今までありがとう』

カッコいい台詞考えて言ったつもりやった

自分でも青ざめるくらい凡人な言葉に嫌気がさした

そして頭が真っ白になった時に口から言葉が出た

『寂しいよぅ、、、』

言葉と共に涙が溢れ出た

次の瞬間、妻は私を抱きしめて

『ほんまごめんな』

私は妻を押し倒して服を脱がそうとした

それを妻は憐れむ表情で見つめ、呆れた様子で微笑み自分から服を脱ぎ始めた

私はただ、妻の身体を貪る様に抱き果てた

余韻を楽しむ事なく服を着る妻を見て

私はようやく別れを受け入れた。

荷物を載せて、沙耶に別れのキスをして

私は家に向かって再び走り出した。



数ヶ月後


私は離婚を認め新しい人生をスタートさせた


仕事は日雇い派遣バイト


稼いだ給料をスロットに注ぎ込み、勝った金で贅沢したり、かろうじて養育費を払っていた


その日もパチスロに行き、運良く快勝

意気揚々と車の中で勝った金を分けていた

『やりくりは大切やからなぁ』

一人で充実した気分に浸っていた


そこに知らない番号から電話があった

『もしもし?誰ぇ?』

地元の後輩からの電話だった

『ハジメさん!お久しぶりです!いきなりなんですが、処女の子を抱いてくれないすか?』

この世にこんなお願いがあるのだろうか!

私は全く悪い気がしなかった

もはや王様になったかの様な気分になり

『かまへんけど?』

精一杯格好をつける、後輩に飢えてるなんて悟られるわけにいかないのだ

『ほなら、ハジメさん

今から遊びましょ!迎えに来て下さいよ〜』

なんか上手い事利用されてる感があるが

なんてったって女の子がいる!

馬鹿みたいに浮かれながら待ち合わせ場所に向かった

待ち合わせ場所には、後輩と後輩の友人と処女とされる女の子の3人がいて、明らかに2人は警戒していた。

『お待たせ〜』

愛想は大事やなと思って精一杯の愛想を振りまくが、相手はあからさまに怖がっていた

『思ってたんと違うなぁ』

私は呟き、後輩にこれは?と状況を説明しろと催促した

後輩が言うのはこうだ

●女の子が処女なのは間違いない事実で、処女を気にしていた

●ヤバイ先輩にレイプされる前に優しい先輩に抱いてもらおうと勝手に決めて連絡した

●ハジメさんのヤンチャな武勇伝を自分の兄の友達が2人に話して怖がらせた


一気にテンションが下がった


相手の女の子からしたら、怖い先輩が処女だってだけで抱きにくるから抱かれないといけない


警戒しない、怖がらない要素が無さ過ぎてむしろ笑える


一緒に遊びに行くにも3人はバイトすらしてない高校生、仕方なくお菓子を適当に買って自分の家で菓子パーティーをする事にした


よく考えたら、相手の女の子からしたら最低最悪な状況でしかない


家に着くと服を脱いで部屋着に着替えた


お金は車の椅子の下に隠してあるし、酔い潰れても大丈夫な様に自己防衛を張り巡らせて一人酒を飲み始めた


後輩達も最初は警戒して遠慮していたが、次第に私に慣れて最終的には4人で川の字に寝ていた


それがきっかけとなり、由美と付き合う事になった


毎日毎日飽きもせず、家に来てはセックスをせがむ、次第に私も求めていく様になるが、そんな終わりなさそうな日々は一瞬で消滅する


連絡も無く、元嫁が家に訪問してきたのだ


ノックもせず、ズカズカと部屋に入ってきた元嫁の目にしたものは、女子高生を抱いている元旦那の姿


彼女からすれば、まさかのバツイチ、まさかの子持ち、まさかのセックス中の裸を見られる訳だから当然そこからパニックになり、逃げる様に家から出て行ったまま、消滅してしまった、、、


元嫁のいきなりの訪問理由を聞こうとしたが、流石に女子高生とセックスしている元旦那はあまりに衝撃的だったのか、涙を浮かべ部屋を出て行ったまま連絡が取れなくなってしまった。



数ヶ月後



なんとか由美とヨリを戻した私は誕生日を迎えていた、由美はなけなしの小遣いで、私が吸っているタバコを買ってくれた

金額より何より気持ちが嬉しかった


サプライズプレゼントが無ければ最高の誕生日になったのだが、、、、、


家で由美といちゃついていた、すると弟から『兄貴〜なんか郵便きてんぞ?』

郵便物の中に、元嫁からのサプライズプレゼントがあった

それは俺の誕生日に受理される様に調整された離婚受理票だった

元嫁はあの日、ヨリを戻す為に家に来たのかも知れない、、、

私は由美が帰った後、ひたすら泣いた

まるで、私を忘れるな!と言うかの様に

私の誕生日に離婚した日が刻まれた

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