第4話
『空襲警報です。住民の皆さんは部屋の中に隠れ、待機してください。繰り返します——』
「空襲?」
高野さんは突然の空襲警報に驚いたらしく、状況を把握するために窓の外を見た。
「なんですか、アレ」
高野さんがそう言いながら指をさしたのは大量の飛翔体。
そう、天使だったのだ。
「天使だね。危ないからカーテン閉めて隠れるよ」
「天使ですか?それならば安全な存在なのでは?」
「私たちが天使ならね。こんな感じで現世よりも便利な道具で溢れてはいるけれど、あくまで私たちは地獄に落とされた人間の集まりなんだよ。だから、天使にとって私たちは浄化の対象になる。魂が塗り替えられるらしい」
先程会った住民の言っていたことをそのまま話した。
「そういうことですか」
「詳しいことは一切分からないんだけど、この世界の事が深く分かっていない以上は危険な可能性のある道にいくべきではないと思う」
「そうですね。せっかくこんなに健康な体を手に入れたのですから、魂が浄化されるにしても十分に堪能してからにしてもらいたいものです」
そう結論づいた俺たちは、身を守るためにカーテンを閉め、窓のカギを閉め、部屋を暗くしてやり過ごすことにした。
そして耐えること数十分。
『皆さまお疲れ様でした。天使は去っていきました。今まで通りの生活を送ってください』
無事だったようだ。
そのまま俺はカーテンを開け、外を見る。
そこには荒れ果てた地面が広がっていた。
「本当に容赦ないんだね」
「地獄に落ちた理由が文明の進歩なら、こんな道路は最悪ですものね」
そんな会話をしていると、再び放送が始まった。
『今から緊急の会見を行います。各自支給されている端末を準備し、ご覧ください』
言われるがままにデバイスを開いた。
「なんだか厳格な雰囲気だね」
「そうですね」
若干の緊張感を持ったまま、会見が始まった。
『私は天界対策本部長のアドルフ・ヒトラーだ。我々地獄の住人の今後についての話を行う』
現れたのは世界的にも有名な独裁者だった。
「何故この人が!?」
高野さんも驚いている。それも当然だ。彼女は大学で世界史を専攻していたのだから。
俺よりもその悪行を知っているのだ。
『地獄に来て初めて私を見るものは驚いているかもしれない。だが説明は省かせていただく』
『今回話させてもらうのは天界に大規模な攻撃を行うことについて』
『これまで私達はあくまで神に生み出された被造物として対応に当たっていた。天使も元人間であり、攻撃の対象にふさわしくないと考えていた。しかし』
『あちらの対応が度を超えてきた。我々が身を守るにも限度がある。そのため、この争いに片を付けるときが来たのだ』
『実行は翌日。我々が事前に用意した部隊のみで行う。第二次世界大戦のようにただの一般市民を駆り出すことは無い。そのため、皆に出来る仕事は安心して我々の戦いを応援することだ』
『我々の最終目標は神を殺すこと。それだけだ』
『以上で説明は終了だ。何か疑問のある者は直接問い合わせると良い。あらかじめ用意されたAIが事細かに説明してくれるだろう』
『では』
という言葉と共にか意見が終了した。
神を殺す、か。にしてもヒトラーという人選は何故だったのだろうか。
「恐らく彼は全ての責任を負うために表に出たのだわ」
「どうして?リスクしかないじゃないか」
もしこの作戦が失敗したら、あり得ないレベルのバッシングを受ける。
「だってあの男は最初から好感度が最低だもの。これ以上下がることは無いでしょ?」
よく考えれば確かにそうだ。
「あの戦争後にここに来る人達は間違いなくあの男を嫌っているもの。一生あの男の好感度は最低を推移するわ」
「それに、もし成功したのであれば今地獄にいる人たちの好感度は上がるでしょうしね」
最低の好感度がリスクを全部消してしまったというわけか。それなら納得だ。
「なるほどな」
「ま、そんなことよりも神を殺すという行為の影響を聞いてみましょう」
「それは何故?」
「神が死んで天使からの被害は無くなったけれどこの世界も無くなりましたーじゃ問題しかないもの」
そう言ってそのまま電話をかけた。
『はい、こちらは天界対策本部です』
「早速で悪いけど質問をさせてもらうわ。もし神を殺せた場合、この世界はどうなるの?」
『どうにもなりません。ただ神という存在が消え去るだけです。神というのはあくまでこの世界を作っただけであり、完成後は天使に口を出す以外の行為は行っていません。天国、地獄、そして現世での調査の結果、そう証明されております』
「ならば神というのは便宜的な物で、ただこの世界を作った存在ということ?それならば神は一人では無いのかしら?」
『はい。神と同列の位置に当たる存在は複数存在します。また、それより上位の存在も確認されております』
「わかったわ。ありがとう」
そうお礼を言い電話を切った。
「流石の技術だ。まるで人間が喋っているようだったよ」
「私たちの世界とは大違いね。サラっと次元を超えているかのような発言もあったけどそれに見合う技術力と言えるわ」
まさか現世でも調査を行っているとは。
「もしかすると地球に飛来していたUFOは地獄からの調査隊なのかもね」
「そうかもね。現世ではまだ解明されていないのだし、そういうことなのかもしれないわ。正直地球外にUFOを作れるほどの文明が出来上がった生命体がいるなんて信じられないもの」
「まあ、とりあえず私たちは勉強しながら明日を待とうか」
「そうね」
俺は自室に戻り、端末を使用して勉強した。
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