第2話

  廊下はよくあるマンションと同じつくりだった。あそこまでの発展度合いに対して何もかもが現代と同じだった。もしかするとここは最近死んだ人が集まる場所なのだろうか。


 ならば使い勝手が急に変わって家から出れないということが無いように配慮してくれたのだろうか。


 外に出ると、見事な都会だった。まるで東京23区のように高層ビルが立ち並び、マンションが乱立していた。


 しかし、車は一台も通っていない。その代わりなのか、バリアの張られたセグウェイのようなものが道を埋め尽くしていた。


 歩いている人もそんなに多くないのでもしかすると見た目だけ都会ってことなのだろうか。


 そのまま歩いていると、巨大な書店があった。


『いらっしゃいませ』


 中に入ると、これまた美人なメイドが待ち構えていた。


「あ、はい」


 やはりこの世界でも働かないといけないのだろうか。


 中に入ると、数多くの本が並んでおり、現世で見た本屋のようだった。


 特に迷うことも無く漫画本が置いてあるエリアに行く。


 ど〇え〇んの150巻?


 見慣れた国民的アニメの原作と思わしき漫画が置いてあるのだが、馬鹿みたいな巻数を示していた。


 現世では見ることの出来なかった話の続きが見られるのか。


 ということはあの休載ばかりしている某漫画家の作品の完結も見届けることが出来そうだ。


 確か話によると普通に体を壊して休んでいるらしいからな。


 地獄に来ると超健康体になるから満足に書いてくれるだろう。


 本を眺めたはいいもののそもそも買い方が分からないのでそのまま店を出た。


 そしてしばらく街を歩いていると、何やら人だかりが出来ていた。


 近づいて見ると、どうやら喧嘩しているようだ。


「ほんとうに汚らわしい。なんで私がこんな屑共を救済しなければならないのかしら」


「俺たちはそんなものお呼びでないんだよ!さっさとお家に帰りな!しっしっ」



 どうやら女性と男性のトラブルらしい。


「何が起こっているんですか?」


 俺は近くにいた人にどうしてこんなことが起こっているのか聞いてみた。


「もしかしてあなたはここに来たばかりかな?」


「はい。そうですが」


「あそこのいる女性は、天使なんだ」


「天使?天国にいるあれですか?」


「そうだよ。まあ現世での話とは違って元人間がなるものなんだけどね」


「どうしてそんな方が地獄へ?」


「私たち地獄の住人を救済するためだよ」


「救済、ですか?」


「うん。具体的には私たちを天国に送るために魂を変化させようとしているんだ」


 魂を変化?わざわざ地獄に落としておいて?


「何のために?」


「私たちの存在が神にとって不都合だからだよ」


 確かに神の意思に反するものは神にとって邪魔でしかないだろう。だが、


「ならば神が直々に裁きを下せば終わりなのでは?」


「確かにそうだとは思うんだけどね。実際現世ではノアの箱舟みたいなことをしでかしているわけだしね」


「ただ、地獄の住人に関しては今まで一度も行為に及んだことが無いらしい。理由は不明だけど。天国の研究をしている科学者によると、神は死者に対して直接影響を与えることが出来ないのではという説が最有力とされているよ」


 だからこうして天使に指示して地獄を変化させようとしているのか。


 そんな会話をしていると、空中から摩訶不思議な機械が飛んできた。


「やってきてしまいましたわね。一旦ここは引くことにしますわ!」


 その機械に恐れをなしたのか?一目散に飛び去って行った。


「あの機械は何かあるんですか?」


「あれはね。天使を天国に送り戻す機械だよ。天使はこちらの世界にくるためにはかなりの労力が必要らしいからね」


「そうなんですか」


「君も天使に出会ったら絶対に着いていかないようにね。特に地獄に来たばかりの人が危ないんだから」


「心にとめておきます」


 目の前の男性にお礼を言い、別れた。


 にしても天使か…… 本当に天国と地獄があって、地獄という場所に辿り着いたんだな。


 一旦帰宅してちゃんと勉強することにした。


 自宅に戻り、真っ先にデバイスを開く。


 そして最初に勉強させられたのが天使の話だった。


 本当に一歩手前の所で切り上げてしまったんだな。


 もしあの天使に最初に出会ったのが俺だと想像するとなかなかに恐ろしい。


 みすみす着いていって自分ではない何者かにされてしまっていたかもしれないのだ。


 ジリリリリリリ!


 そんなことを考えながら勉強していると、端末から目覚ましのような音が鳴った。

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