地獄の住人は科学力で神を打ち滅ぼす
僧侶A
第1話
あなたは地獄についてどう考えている?
とても厳しく辛いところ。悪行を行った人間が最終的に落ちていくところ。
少なくとも好印象を抱いている人間は無いのではなかろうか。
実際にそれは間違いではない。
ただしそれは人間としての尺度ではないのだ。
深い眠りから覚めた。俺は本当に長い時間眠っていたようだ。
「やっと目が覚めたか」
見知らぬ男に声をかけられた。
「誰ですか?」
そもそもここはどこだ。俺は病院で寝ていたはずだ。
「俺は三上悟。お前さんのようにここへやってきた奴の世話を行っている者だ」
世話?俺は目の前の男の警戒レベルを引き上げた。
「おっと、説明不足だったか。警戒させちまったな。俺は最近この仕事についたばっかりでな。許してくれ」
三上という男は戸棚から何やら見慣れぬ機械を取り出し、その画面を見せた。
「これは、俺ですか?」
映っていたのは箱の中に入っている俺だった。
「ああ。紛れもないあんただ。この画像でなんとなく察したかもしれないが、あんたは死んだ」
「死んだ?」
俺は今ここで生きているというのに?
「ああ。あんたは長い闘病生活の末、47歳で息を引き取った。ここは死後の世界ってやつだ」
「そういうことですか」
「案外あっさり受け入れたもんだな。——まああれだけ重い病にかかってりゃあ自分の死は自覚できるか」
俺は癌だった。気付いたときにはもう末期であり、長くは生きられないと前々から言われていた。
「ここで俺は何をするんですか?」
「別にここでは何かを強要されることは無い。ただ、この世界について知ってもらうためにこの端末を使用して勉強して欲しいくらいだな」
俺の死の画像を映していた端末をそのまま渡された。
「わかりました」
「俺からの説明はここまでだ。大体の事はその端末で知ることが出来るが、何かあったらそれを使って連絡してくれ」
「はい」
「ここはあんたの家だ。好きに使ってくれ。じゃあな」
「ありがとうございました」
三上と名乗る男は部屋の扉を開け、出て行った。
「あ、言い忘れてた。この世界は現世で言う地獄にあたるところだ。神の意志に反した悪しき生物が叩き落される終焉の地だ」
それだけ言い残し、本当に去っていった。
ここは地獄だったのか。正直地獄であるようには思えない。
部屋を見渡すと、見たことのない機械が多数配置されていた。それは前時代的なものだからという理由ではなく、寧ろ近未来的なものだったから。
寧ろ現代よりも行きやすい世の中ではないのか?
「ひとまず、この世界について勉強しないとな」
とりあえず端末を開いて勉強することにした。
なるほど。ここは地獄だけど俺たちの想像する地獄では無いのか。
悪行を犯したものが地獄に堕ちる。確かにこれは間違っていない。
ただし、視点が違った。
確かによく考えれば、いくら現世で人を大切にしたり、犯罪をせず真っ当に生きたりしたとしても生き物を殺しているということに変わりは無いのだ。
別に人間だけが神の被造物では無いのだ。現世に存在するありとあらゆるものが神の手で作られている。
「だから、同族を大事にしたところで何の価値も存在しない」
では、神にとっての悪行とは何か。
第一に上げられるのは、神を信じないこと。ただし、これに関してはあまり影響はないらしい。信じていなくとも天国に行った奴はいるとのこと。
第二に、自ら命を絶ったこと。神が与えた命をみすみす捨てるのはだめとのこと。
そして第三。あるがままの自然を放棄し、技術を手に入れようと邁進すること。
三つ目が最悪の部類に立つらしい。神は生き物を自由に生きる様を見るために作ったらしい。俺たち人間に求めていたのはありのままの姿を見せること。
あまつさえ動物を飼育し、人間以外の被造物に手をかけるというのは論外らしい。
まだ生きるために働いているだけならまだ許されるらしいが、科学の発展のために動いたものは皆悪らしい。
実際現代人の大体がアウトになっているようだ。
その結果生まれたのが現在の地獄らしい。
科学の発展を阻害しようとするものは皆天国へ向かうため、一切の邪魔を受けず、死者は基本的に減ることは無いので現世の比ではないレベルに人が居る。
そのため、現世よりも遥かに科学技術が発展しているらしい。
確かに、アインシュタインやガリレオのような人間が一堂に会しているわけだから、そうなっても仕方ないのだろう。
「腹減ったな」
死んでも腹が減るのは不思議な感覚だが、ここまで現世っぽいと違和感は不思議と生まれない。
どうやって食べればいいんだと考えていると、端末が丁度説明を始めてくれた。
この電子レンジみたいなやつから飯が出てくるんだな。
指示通りにボタンを押すと、電子レンジと全く同じ音を立てながら飯が錬成されていった。
3Dプリンタのようだ。
どういった原理なのかは分かりようもないが、カレーが出てきた。
食べ物はどの時代でもそこまで変わらないんだな。
恐る恐る食べてみても単なるカレーで、別段味も特別に美味しいとかいうわけでもなかった。
「外に出てみるか」
飯も食ったので散歩がしたくなった俺は、外に出た。
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