55.非凡だけれど愛ある人生

王室付きの監督官として、騎士宿舎に詰めるようになってひと月余り。

当初の頃の賑やかさは時間の経過と共に落ち着き、部屋から溢れるほどの来訪者はなくなったけれど、暇を持て余してはいないかと、パラパラと手隙の騎士が話し相手をしにきてくれる。

そんなふうに穏やかに日常を過ごせるようになり、今日はいよいよジェイクの17歳の誕生日。

そして、私たちの結婚式の日。


結婚式には、是非に呼んでくれと王太子殿下に乞われたが丁重にお断りした。

王室付きとは言え、庶民と変わらない私と一騎士の結婚式に、王族が出席するなんてあり得ない。


私にはこの世界に家族がいないため、参列者はほぼジェイクの関係者だった。

それでも、セレスやエマもいてくれるし、グレイス様も私の友人として参列してくださる。


ジェイクの家族の他には、彼の関係者としてはユージン隊長とケネス隊長だけ参列していただく。

騎士団長や、お会いしたことはないけれど、副団長にも参列していただければ良かったのだけれど、一騎士の結婚式のために、あまり多くの主要な方々を騎士団から離す訳にもいかないので、特にお世話になったお2人に参列していただくことになった。


あまり日もなかったというのに、お母様とセレス、それにグレイス様まで一緒になって、私のドレスを用意してくださっていた。

ウエストが細く腰から裾にかけて丸くベルのように広がっている。

こちらの世界で舞踏会などでよく着られるようなタイプのベルラインのドレスだ。

控室で着替えを終え、鏡を前に立つ私に、お母様が「とても綺麗、よく似合っているわ」と褒めてくださる。

何だか、前世では経験できなかった、結婚式前の母娘のようで、じんわりと心が温かくなってくる。


そうしている内に、準備ができたことを知らせに行っていたエマが、ジェイクを伴って部屋へと戻ってきた。

今日の彼は騎士の正装を纏っている。

普段の隊服ではなく、白色に赤のラインの入った上着に、白のズボン、マントだけはいつもと同じ青色だった。

騎士宿舎で詰めるようになってから、何度か彼の隊服姿も見ているけれど、やはりいつもは演習用の服なので、こんなふうにキッチリした服を着ている姿を見ると見惚れてしまう。


部屋へ入ってきたジェイクと暫く無言で見つめ合っていると、コホンとお母様が咳払いをして、2人して我に返った。

「ルイーズ、凄く綺麗だ。よく似合っている」

「ジェイクも。凄くかっこいい」

お互いに褒められて、ほんのり頬に朱がのぼる。


「旦那様、奥様そろそろ…」

いつまでも見つめ合っている私たちに痺れを切らしたように、エマが横から声をかけてくる。

「ああ、そうだな。すまない。行こうかルイーズ」

エマの言葉に、ジェイクが応え、私の隣に立ち手をかけやすいように肘を突き出す。

彼にエスコートされ、そのまま2人で礼拝堂へと向かった。


ゆっくりと祭壇の前まで辿り着くと、神父様が私たち2人をゆっくりと眺め、おごそかに口を開く。

神父様が聖書を朗読し、それぞれに誓約を求める。


「新郎ジェイク・クロフォード、あなたはルイーズ・クリスティを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい。誓います」

神父様の言葉に、迷いなく真っ直ぐな返事が返される。

その言葉に、心が震える思いがする。

彼の返事を受け、今度は私へと神父様が語り掛ける。


「新婦ルイーズ・クリスティ、あなたはジェイク・クロフォードを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

その言葉に、私も気持ちを表すように真っ直ぐな声で答えた。

「はい。誓います」


「では誓約の証として指輪の交換を──」

私たちの前に指輪が差し出され、お互いの指にその証を嵌める。

その様子をしっかりと見届けた後には──。


「誓いの口づけを──」

ジェイクの手が、ゆっくりとベールを上げ後ろへと流す。

参列者は誰もがずっと黙って式の進行を見守ってくれている。

ベールを上げられ、視界を遮るものがなくなった私は伏せていた目を上げ、夫となる彼を見上げた。

指輪を交わすため空いていた距離を、彼がすっと詰める。

両肩を優しく掴まれ、促されるように顎を上げ目を閉じると、優しく口づけられた。


そっと離れた彼が私の手を取り、私たちは神父様へと向き直った。

重ねられた私たちの手に、神父様が手を重ね祈りを捧げ、最後に結婚誓約書にお互いのサインをして、結婚式は滞りなく終了した。


礼拝堂を後にする私たちを温かい拍手と、祝福の言葉で参列してくれた人たちが送り出してくれる。

「ジェイク、ルイーズさんおめでとう。ジェイク、彼女を幸せにしてあげるんだよ」

「おめでとう2人とも。素敵な娘が増えて嬉しいわ。これからよろしくねルイーズさん」

お父様とお母様がそう声をかけ、お母様が私を抱きしめてくれる。


「兄ちゃん、ルイーズ姉ちゃんおめでとう!今日から本当の義姉ちゃんだな!」

「お兄ちゃん、ルイーズお姉ちゃんおめでとう!本当のお義姉ちゃんができて嬉しい!」

コリンとトリシャが両方から私の手を引き絡みつく。


潤みそうになりながら、足を進めれば、グレイス様、セレスが声をかけてくれた。

「おめでとうございます。とても素敵な結婚式でしたわ。どうぞ末永くお幸せに」

「おめでとう。2人が幸せになってくれることを心から願ってるよ」


「おめでとう。短期間に色々と大変だったけど、結果的にジェイクがお姫様と結ばれることができて良かったよ。お幸せに」

「ルイーズ嬢には随分と酷い役割をさせてしまい申し訳ありませんでした。2人が幸せになってくださることを心より願っております。おめでとうございます」

ユージン隊長がいつもの朗らかな笑みを浮かべ、ウインクをしてみせる。

ケネス隊長はもう何度も謝っていただいたのに、また謝罪を述べた後に、今まで見たこともない笑みを浮かべて祝福してくださった。


扉の傍にはエマが感極まったというように、涙を流して立っていた。


私は隣を歩くジェイクを見上げる。

ユージン隊長が言うように、本当に短期間の間に色々なことがあった。

無駄に長くて苦しかった前世での8年間と比べると、恐ろしい程濃密で、苦しみや悲しみもあったけれど、大切なものに気付けた本当に幸せな時間だった。


ここへ来た時に願った人生。

平凡でいい。誰か、たった1人でいいから、私を愛してくれる人に出逢える、幸せな人生を歩みたいと願った。

ちょっと平凡ではなくなってしまった感はあるけれど。

それでも、ずっと寄り添っていける、愛してくれる人に出逢えた。

私のことを大切に想ってくれる人たちにも出逢えた。


ジェイクに出逢えたから手に入れられた──。


本当に、あの時へ来る選択をして良かった。


「ジェイク。貴方に出逢えて、本当に良かった──」




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[後書き]

これにて完結となります。

拙い作品を最後までお読みいただきありがとうございました。

フォローや評価をいただき大変励みになりました。

ありがとうございました。


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小説家になろうにて、2021/9/25より新規連載

【一夫多妻なんて受け入れられない!どうせお前じゃ貰い手がないだろうからなと言われた私は下衆な婚約者を捨てて逃げることにしました】

を掲載開始致します。


10月以降は更新頻度が落ちる可能性がありますが未完に終わらないようには頑張ります。

拙い作品ですが、よろしければお付き合い下さい。


※作中に下品な言葉、性行為を連想させる言葉(孕ませる、手籠めにする、犯す等…)が入っています。直接的な性的描写はありませんが苦手な方はご注意下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6236hf/

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【完結】逃げ出した先は異世界!二度目の人生は平凡で愛ある人生を望んでいるのに、平凡では終われない 絆結 @kizunayui

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