35.確信を得る ※本編ユージン視点

  本編をユージン隊長視点で書いたお話です

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応接間を出ると、すぐに騎士団長室へ足を向ける。

急ぎ歩き、騎士団長室が見えてきたところで、別方向から聞きなれた声をかけられ、俺は足を止めた。


「ユージン。どうした、何かあったか?」

低く威厳のあるその声は、今まさに会いに行こうとしていた人物の声だった。

「カルヴィン騎士団長。お疲れ様です。少々動きがありまして、今報告に伺うところでした。お時間よろしですか?」

「ああ。構わんよ」

俺が問うと騎士団長は辿り着いた部屋の扉を開け、中へと招き入れてくれた。


「それで?」

騎士団長が執務机に向かい腰掛けながら問いかけてくる。

その執務机を挟み立ち、俺はそれに答えた。

もう随分慣れたとはいえ、やはりこの人の前に立つと緊張する。

意識的にぐっと背筋を伸ばし、一つ大きく息を吸う。


「屋敷にて、ルイーズ嬢の不在の部屋へ侵入し、書類を盗み見た者がいたようです。先ほどルイーズ嬢より報告がありました。また、その他にも夕刻頃に貯蔵庫方向へ向かう者を見かけたという使用人からの話も聴いたとのこと。恐らく今夜何らかの動きがあると思われます」

「うむ」

一息に告げた報告に、騎士団長は短く返事を返し頷く。

それを合図に、次に続く言葉を紡ぐ。


「ケネスが引き上げてき次第、隊員を何名か連れて屋敷へ向かいたいと思います。ルイーズ嬢については、念のためジェイクに同室での警護を申し付けてあります」

「分かった。では私とアイザック、メイソンの3人でリアム様とグレイス様の警護にあたろう」

俺の言葉に、あと何が必要なのかを的確に判断し、すぐに対応策を打ち出してくれる。

平民の出であっても、王宮に出入りするような貴族連中からも一目置かれるのは、やはり個人の実力も然ることながら、団を統率し、有事の時にその統率力を遺憾なく発揮し認められてきたからだろう。

「よろしくお願いします。では私は1番隊、3番隊の者に声をかけてきます」

俺はそう声をかけると、一礼して騎士団長室を後にした。






会議室に1番隊と3番隊の隊員たちを招集し、暫く待つとケネスが帰ってきたと、3番隊副隊長のニックがケネスを連れ会議室へと入ってきた。

「何か動きがあったらしいな」

ここへ来るまでにニックから招集の理由を聞いたらしく、入ってくるなりケネスはそう言いながら席に着いた。

「ああ。じゃあ、揃ったことだし始めるか」

俺はそう言って、状況の説明から話し始めた。


ルイーズ嬢はジェイクが、リアム様とグレイス様は騎士団長と2番隊隊長のメイソン、5番隊隊長のアイザックが警護している。

後は、屋敷内で1番隊、3番隊俺たちがどう立ち回るかだ。


「話を聞く限り、恐らく書類を盗み見た者の動きと、貯蔵庫方面へ行く者の動きは別のものだろう」

やはりケネスは相変わらず察しがいい。

「ああ。だから向かう者を分けた方がいいだろうな」

部屋に集まっている隊士たちを見まわし、ケネスの言葉に続ける。

ぐるりと見まわし、最終的にケネスと視線を合わせる。


「恐らく、俺たちが本当に押さえたい方は貯蔵庫とは別だな」

「ああ。ニック、ロイド、それぞれ5名程連れて貯蔵庫方面を張ってくれ。手を出す必要はない。何をしているか探ってくれ」

俺がケネスに確認するように言うと、ケネスは副隊長2人に指示を出す。

そして再度俺と視線を合わせると頷いて見せる。

「俺たちは別の方を探る。動きの確認だけできたらこちらへ戻ってきてくれ」


最低限のことだけを伝えれば、ニックとロイドは2人で下の者へ指示を飛ばしだす。

1番隊の副隊長であるロイドと、3番隊の副隊長であるニックは、俺とケネスがセットで動くことが多いため、自然と連携も増える。

俺たちが言葉にせずに量っていることが多いため、2人も自然と俺たちが言葉にしない分まで理解してくれることも増えてきた。


「後は任せたぞ」と言い残し、俺とケネスは部屋を出た。






「どこだと思う?」

歩きながら問うと、ケネスは「そうだな」と顎に手をあて少し考える素振りを見せる。

「あるとすれば、休息所か農工具入れの小屋あたりだろうな」

貯蔵庫方面で目立った動きを見せている以上、確かにそちらに行くとは考えにくい。

「だろうな」と答えながら、俺たちは着実に歩を進めていく。


もう既に騎士団長たちはリアム様の元に着いているだろう。

ニックとロイドも、間もなく行動に出るはずだ。

彼らに任せておけばいずれも心配はない。


俺とケネスは屋敷の裏手から敷地内に入り、農工具入れの小屋へと向かう。

もうすっかり陽は落ち、灯りのない敷地内は暗く、常人であれば灯りもなしに歩けはしないだろう。

だが訓練された騎士なら、この程度も明るさがあれば迷いなく歩を進められる。


俺たちは気配を殺し、物音を立てぬよう細心の注意を払いながら、小屋の裏手へと近づいていく。

小屋の中には既に灯りが一つ。

小屋の壁の打ち付けられた木の隙間から光が漏れてくる。


当たり、だな──。


俺とケネスは無言で小屋の左右に別れる。

そうして暫く様子を伺っていると、明るさを極限まで抑えた灯りが一つ、小屋へと向かって進んできた。

小屋の扉を開くきぃという小さな音が響く。


「馬鹿かお前は。灯りをもう少し小さくしろ」


小屋の中に入るなり、中にいた人物へ呆れるような声がかけられる。


「す、すまない」

慌てる声に合わせて、光源が絞られる。


「第一、ここにいる間は接触してくるなと言っておいたはずだ。殺されたいのか?」

「す、すまない。だが、あんたも気にしていただろう、あの女の動向を──」


漏れてくる声を聞きながら、中の動きに意識を集中する。

暫く続いたやり取りが、ぐふっと言うくぐもった声と、床に倒れこむような音で途切れる。

俺とケネスは視線を合わせ、音を立てぬよう細心の注意を払い、その場を素早く離れた。


小屋からは気取られぬ程に離れたところで、小屋の裏手に灯りが回ってくる。

ゆるゆると小屋の周りを回り、灯りの一つは去っていった。

その暫く後には、もう一つの灯りも小屋から出てすぐに去っていった。


「確定だな」

「ああ」

俺の言葉に、ケネスが短く応える。


「帰って、ロイドたちの報告を聞こうか」

「ああ。内容は先の言葉通りだろうがな」

ケネスの言葉に、小屋の中にいた人物の言葉を思い出す。

問題はこの状況をどこまで引っ張るか…だな。


「俺は騎士団長に声をかけてから戻る」

俺が声をかけると、ケネスは「ああ、分かった」と言って、軽く手をあげる。

恐らく、俺が宿舎に戻る頃には、ケネスがロイドたちから話を聞いてくれているだろう。


俺たちは望まれた通りに動くしかないが、リアム様と殿下はどうされるつもりなのだろうな。


そんなことを考えながら、俺は足早に屋敷を目指した。

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