30.何の為に ※本編ユージン視点

  本編をユージン隊長視点で書いたお話です

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リアム様を見送り、俺はルイーズ嬢の部屋が見える位置まで移動してきていた。


昨日宿舎に戻ってからケネスからルイーズ嬢の様子を聞かされた時には少し驚いたが、確かに最初に彼女と逢った時の様子を思い出せば、今の役柄が彼女には随分負担になっているんだろうとは思う。

ケネスが気に病んでいる様子を見るに、随分酷い様子だったんだろう。


そんなふうに考えを巡らせていると、ルイーズ嬢がエマに連れられてやってきた。

通り過ぎていく彼女を見る限り、今は回復しているようだ。


2人が部屋へ入り暫くすると、既に中にいたのだろうジーンと、エマが部屋を出て行く。


今朝、リアム様が一日の予定を半分に減らしたと言われていたから、今日の予定人数は5人か。


1人ずつ順番に案内され、1人終わるごとに休憩を入れている様子が伺える。

途中には庭園へ出ることもあり、昨日ケネスが言っていた通り使用人たちが彼女を遠巻きに見ている様子が伺えたので、部屋へ戻る際には先回りして使用人たちの注意を逸らして歩いてみた。


今日からはイアンはリアム様の傍に控えているので、遭遇する確率はぐんと下がる。

それに面談中以外は常にジーンが傍にいてくれるので彼女への負担も随分軽減できるだろう。


午前中に男女1人ずつと、午後から女が2人、そして最後に男が1人面談へやってきたが、出入りするジーンの様子や、たまに部屋から出てくる彼女の様子を見る限り、特に問題はなかったようだ。

最後の1人を除いては。


どうも、最後の1人の男のみ、他と比べると随分面談終了の時間が早かったように感じる。

その上、部屋から出てきた男は周りに人がいないと思ったのか、酷く苛立った様子が見て取れた。


ジーンが一度部屋へ入り、退室した後にお茶を用意してエマを伴って戻ってきた。

この後どうするつもりかと様子を見ていれば、暫くしてエマが書類を持って出てくる。

あれは面談者のリストだろう。


そのすぐ後にジーンとルイーズ嬢も部屋から出てきた。

彼らが向かう先を、様子を見ながらついていけば、どうやら屋敷内を案内してもらっているようだった。

屋敷内の部屋から順番に見て回り、屋敷の外へと出たところで、俺がいるところとは別方向から人影が現れた。


彼らから一定距離を取り、同じ方向へ進む様子は、明らかに後をつけているのだろう。

距離があって確認はできないが、体形からして恐らく最後の面談者だろう。


この先、彼らが進む先にあるのは、貯蔵庫と裏庭。その先に厩舎がある。

どこをとってもあまり人気がなく、状況的にあまり好ましくない場所だ。


幸いなことになのか、こちらに気付く様子はない。

俺は、距離を保ちながら、彼らの後に続いた。






貯蔵庫まで辿り着いたところで、やはり男は動き出した。

ジーンとルイーズ嬢が中へ入ったところを、追いかけ中へ駆け込んでいく。

それを確認して俺も一気に速度をあげ、貯蔵庫へと駆け込んだ。


「──やめなさい!!」

ジーンの大きな声が響く。


薄暗い中、ジーンが盾になりなんとかルイーズ嬢を守ろうとしている姿が見える。

それを男が勢いよく突き飛ばす。

「ジーンさん!!」


ジーンの小さな呻き声とルイーズ嬢の悲鳴のような声が響く。

「じじいは引っ込んでろ!」

そう言って彼女に手を伸ばそうとしている男の、その腕に向かって俺はナイフを投げ、勢い良く駆けた。


「う゛わぁぁっ!!」


投げたナイフが腕に突き刺さる。

叫び声をあげて腕を抑える男の足を蹴り払い、転がったところを取り押さえた。

男の両腕を後ろへ回し、親指同士を持っていた拘束用の紐で縛り、顔を上げればルイーズ嬢は、突き飛ばされたジーンを助け起こしているところだった。


「大丈夫ですか?」

彼女がジーンに問いかける。

「ありがとうございます。大丈夫です」

助け起こされたジーンの様子を伺うが、特に大きな怪我をしている様子はない。


ほっと息を吐き、ルイーズ嬢に声をかける。

「ルイーズ嬢もお怪我はありませんか?」

「…あ。はい。ありがとう…ございます」


ジーンに怪我がないことを確認して、安心したら恐怖が襲ってきたのか、返事を返しながらぷるぷると震え出し、自身を掻き抱くようにして腕を摩り出す。


そうしている間にも、足下に転がした男は喧しくがなり続けている。

ほどけ!放しやがれ!!バカにしやがってっ!こいつがっ!この女がいなければっ!!」

短絡的で計画性の欠片もない。

恐らくイアンと直接はつながっていないだろうが…。


「ごふっ──」


黙らせる為に、軽く腹に蹴りを入れれば、蹴られた勢いで大きく息を吐いて静かになる。

どうするかとルイーズ嬢へ目をやれば──。

彼女は俺を見上げていた目を見開いて、ジーンに半分隠れるように寄り添っていた。


どうも怯えさせてしまったらしい。


「申し訳ありませんルイーズ嬢。怖がらせてしまいましたね」

俺はにこっと笑みを浮かべて彼女に詫びると、視線をジーンへと移した。


「ジーン殿。歩けますか?」

俺の問いかけに大丈夫だと答えるジーンの返事を受けて、俺は静かになった男の腕からナイフを抜き、血を拭いて懐にしまい、男を肩に担ぎあげた。

ナイフを抜いた瞬間に男がうめき声をあげ、血が噴き出るが放っておく。


「屋敷へ戻りましょう」


俺が声をかけると、ジーンがルイーズ嬢の手を取り立ち上がらせる。

俺が先頭に立って歩き出すと、怯えた様子を見せていた彼女もジーンに手を取られたまま後ろをついて歩き出す。


申し訳ないが、俺はケネスほど優しくはないので、彼女のことはジーンに任せておくことにしよう。


ある程度屋敷が見える場所まで引き返してきたところで、俺は立ち止まり、2人に先に屋敷へ戻るように促す。

見せしめに屋敷内を男を担いで歩いてもいいが、あまり警戒されても困るので、別ルートで一旦屋敷から出ることを伝える。


「ジーン殿。ケネスが戻っているはずです。部屋へ戻る前に彼に声をかけておいてください」


彼女をあまりイアンの傍には近づけたくないが、俺が離れる以上、ケネスに頼むしかない。

俺の言葉に、ジーンが「畏まりました」と返事を返し、彼女を促し屋敷へ向かうのを見送り、俺は来た道を引き返す。

裏庭の方へ回って、そちらから屋敷の外へ出ることにする。


「とりあえず、団に戻ってこいつの尋問だな。…あー。過保護なナイトにも声をかけておかないとな」

独り呟いて歩を進めながら考える。


これ以上、ケネスが気に病まなければいいが…。


俺は懐にしまったナイフに触れ、小さくため息を吐いた。

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