18-2.プレゼント ※ジェイク視点

     ジェイク視点のお話です

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澄んだ水面の揺れる池を前に2人並んで腰を降ろし、サンドイッチを頬張る。

多くは喋らないが、気持ち良さそうに風の音や鳥のさえずりを聴いている姿は見ているだけでほっとする。


そんなに永く会えなかった訳でもないのに、傍で護ってやれないもどかしさでおかしくなりそうだった。


「…こんなふうに、外で景色を楽しみながら食事をするのは本当に久しぶりだわ」


揺れる木々を見上げ、感慨深げに呟くルイーズから視線を移し、彼女が見上げる先をその視線を追うように見上げる。


「少しは気晴らしになったか?」

「ええ。とても」


短く返し、俺へ向けられた顔に満面の笑みが浮かぶ。


「ありがとうジェイク」


今までに見たことのない艶やかな笑みに、まともに言葉が返せず思わず顔を逸らし、小さく「…いや…」とだけ答えるのがやっとだった。



昼食を食べ終わり、俺に背を向け片付けを始めるルイーズの後ろ姿を見て、ふとポケットに入れていた包に手を伸ばす。

セレスへのプレゼントと一緒に買った髪飾り。


「あ…。そうだジェイク…」


何かを言いかける彼女の髪にそっとあててみる。

深紅の髪に水色が良くえる。


「ジェイク?」


不思議そうに顔を上げ、俺を見つめるルイーズに「似合うと思ったんだ」と髪飾りを差し出す。


土台に幾つかの石が花びらのようにしつらえられたターコイズの髪飾り。

ターコイズは危険から身を守る、護り石として有名な石だ。

気休めにもならないが、お護り代わりにでも持っていてくれれば嬉しい。


「…私に…?」

「ああ。ルイーズに」


彼女は、差し出した髪飾りに恐る恐るといった体で手を伸ばす。

その手を取り、もう片方の手で髪飾りを握らせる。


髪飾りを受け取るとルイーズは両手でそっと包み、髪飾りを撫でた。


「嬉しい」


零すようにそう言葉を漏らし、彼女は髪を纏めると早速髪飾りを着けてくれる。

そして子どもみたいに嬉しそうに「…どうかな?」と問いかけてくる。


「ああ。よく似合ってる」


笑顔が可愛くて、愛しくて、ふと手が彼女の頬へ伸びる。


手を触れた頬が一気に赤く染まり、視線が忙しなく揺れる。

その様子を見て、ようやく無意識に彼女に触れていたことに気付き慌てて手を引いた。


「すまない」

「…あ…。えっと…大丈夫…気にしないで」


気にするなと言いながらも、やはり彼女の頬は真っ赤で、慌てて俯き顔を逸らす。


しかし、深呼吸でもするように何度か大きく息をすると、彼女は顔を上げ、鞄から出した包みを俺に向かって差し出した。


「あの…ジェイク。私からも貴方に贈りたいものがあるの」



「俺に?」


自分が贈ることは考えても、まさか贈られるとは考えもせず、驚いて一瞬止まってしまう。

けれど、すぐにルイーズから包みを受け取り、その場で開ける許可をもらい、そっと包みを開いていく。


包みの中から出てきたものに、思わず動きを止めてしまう。

彼女が意味を知っているとは思えない。


それでも──。



包みを持つ手が震えてしまいそうになる。

そんな俺の手からその中身を手に取り、彼女は膝立ちになりそれを俺の首にかける。


「ガーネットよ。戦地へ赴く兵士が、ケガをせず生還できるためのお守りとして持っていたって話を母から聞いたことがあったの。ジェイクもこれから騎士として危険な仕事に就くこともあるのでしょう?」


穴を開け革ひもを通したガーネットが俺の胸に落ちる。

彼女の言葉に思考が止まり一瞬硬直した。

そして次の瞬間には衝動的に彼女を強く抱きしめていた。


「?!…ジェイク?」


問いかけるように名前を呼ばれるが、返事を返す余裕はない。


彼女が、その意味を知らずにこれを贈ったとしても、俺にはこらえられない程に嬉しかった。



女性がガーネットの装飾品を男性に贈るのは『無事に私の元へ帰ってきて』という、愛の告白を意味する。



ルイーズがただ友人としてこれを贈ってくれたのだとしても、このまま想いを伝えてしまいたい衝動に駆られる。


イアンの件が片付かない今、心落ち着かない彼女に伝えることでないことはわかっている。

セレスにもまだきちんと俺の気持ちを伝えられていない。


今ここで彼女に気持ちを伝えてしまうのは、セレスにもルイーズにも不誠実だ。


俺は意識的に深く呼吸を繰り返し、衝動に駆られそうになる自分を抑える。


ようやく幾分気持ちが落ち着き、ルイーズを抱きしめる力を緩めた。

身体を離し、彼女の両腕を掴み、真っ直ぐに見据える。


「ありがとうルイーズ」


必死に感情を抑え込み、それでも感謝を伝える。

その瞬間。

彼女の顔色が一気に引いていく。

そして慌てて俺から顔を逸らすと、立ち上がってハンカチを拾い上げた。


「帰りましょうか」


明るく言ったつもりだろう声が震えを帯びている。


瞬時に後悔が襲ってくる。

彼女に取り繕った表情を見せてしまった──。

悪感情ではない。けれど取り繕ったそれが彼女にどんな思いを抱かせたのか…。


俺に背を向けて歩き出す彼女に手を伸ばすが、引き留めようとしたその手を下ろし、俺は「ああ」と短く返事を返した。






馬車に乗ると、ルイーズは沈黙に耐えられなかったのか、移動に疲れたのか、すぐに寝てしまった。

馬車の揺れで彼女が倒れ込まないよう、自分にもたれかけさせ、肩を抱き支える。


時々触れる髪が柔らかく俺の頬を撫でる。

見下ろせば、先程絶望したように顔色を失くした姿とはかけ離れた、綺麗な寝顔がそこにある。


「…すまなかったルイーズ…」

お前を傷つけるつもりはなかったのに。


小さく息を吐き、抱き寄せる手に力を込める。






やがて馬車は見慣れた街並みへと辿り着く。

俺は腕の中で眠る彼女に静かに声をかけた。

「着いたぞルイーズ」

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