14.為すべきことは ※本編ケネス視点
本編をケネス隊長視点で書いたお話です
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ルイーズが退室した後、扉の向こうに控えていたユージンが呼ばれ、私とユージンに対して、リアム様から改めて事情を説明された。
彼女とリアム様の出逢い、リアム様からの依頼、そして今日の話を。
但し、リアム様も彼女の能力については詳しくは教えてもらえなかったらしい。
彼女自身も、彼女の能力も信用できるものなのか…。
『私のことは信用していただかなくて結構です。ですが、リアム様のためどうぞお力添えをお願いします。私のことについてはジェイク・クロフォードに確認していただいて結構です。「全てを話しても構わない」と私が言っていたとお伝えいただければ結構ですので』
退室する際の彼女の言葉が思い出される。
彼女自身、私が彼女を信用していないと思っているのだろう。
確かに私は"転写者"を信用していない。
過去には妹のイレインが襲われそうになったこともあるし、ユージンや私も随分と露骨な付きまといを受けて辟易していたりもする。
騎士として見回っていた中で"転写者"の犯罪者を捕まえたことも一度や二度ではない。
彼ら全てを信用しろと言う方が無理がある。
それなのに何故、彼女はこの会談の席に"騎士"を呼ぼうと思ったのか…。
話を聞く限り、彼女がリアム様の立場を理解していないとは思えない。
公爵家の嫡男であるリアム様に、騎士の立ち合いを願えば、駆り出されるのは隊長格以上になることくらい、いくら"転写者"とはいえ、余程の馬鹿でない限り分かりそうなものだ。
確率的には10分の1程度であっても、私がここに呼ばれることくらい想像がつきそうなものだが…。
リアム様の言われるところの"彼女の能力"が、私を信用できる人間と判断したのか。
まあ、彼女の思惑がどこにあってもやることは変わらない。
私は隣に座るユージンに視線を向ける。
後で、ユージンと一緒にジェイク・クロフォードに話を聞いてみよう。
リアム様のために動くのは当然としても、どんな情報も把握しておく必要があるだろう。
動くとすれば団長にも報告しないといけない。
リアム様の話を聞きながら、私はこの後の段取りを考え始めた──。
演習の終了後、副隊長のニックから外していた間の報告を受け、ユージンが引き留めてくれていたジェイクと合流し、そのままユージンの部屋へと向かった。
隊長格の部屋はこういった内密の話をすることも考慮して、他の隊士のフロアと分けられ、広めの間取りに防音設備、間を一部屋空けての配置という配慮がされている。
その上、隊の順番で割り振られているため、ユージンの部屋は角部屋になる。
ユージンの部屋に入り、部屋に置かれた小さなテーブルを囲み座る。
ユージンはまだ何も伝えてはいないのだろうが、ジェイクは何の件かは大体の察しがついているようだった。
あらかじめルイーズから知らされていたのかもしれない。
ユージンには私が彼女からかけられた言葉については伝えていたが、あくまでも直接聞いたのは私であるため、黙って私が口を開くのを待っている。
この後も団長への報告など、まだしなくてはならないことがある。
私は向かいに座るジェイクに単刀直入に話を切り出した。
「時間外に呼び出してすまない」
一言詫びてから、要件を口にする。
「今日、とある要件でルイーズ嬢に会った。そこで彼女から、自分のことはジェイク・クロフォードに訊いてくれて構わない。全てを話してくれて構わないと伝えてくれと言われた」
そこまで言うと、ジェイクが緊張を更に強め、肩に力が入るのが見て取れた。
「話してくれるか」
問いかけではない。
私の言葉にジェイクは「はい」と短く答え、淀みなく話し始めた。
今まで特に興味もなかった"転写者"という存在。その"転写"の意味。
彼女の前の人生での境遇。
その中で、生きるための力として身に付いた能力。
ジェイクとの出逢い、リアム様との出逢い、イアンから逃げ出したこと。
セレスという一緒にいた"転写者"が傍に控えていた経緯。
その全てをジェイクは語っていく。
その様子には、何かを隠しているような様子も、誤魔化しているような様子もない。
リアム様から聞いていた内容とも符合する。
聞いている横で、ユージンも何か結びついたことがあるのか、納得した様子が窺える。
「──以上が自分が知っている全てです」
ジェイクの言葉に、私はユージンへと視線を向ける。
それに対して、ユージンは頷き返してくるだけだった。
私はジェイクに視線を戻し「分かった。話してくれて感謝する。これ以降のことは団長とも相談してこちらで決める。任せてくれるな?」と言葉をかける。
疑問形ではあっても、問いかけではない。
それはジェイクも分かっているようで「はい」と短く答えると「では、自分はこれで失礼します」と席を立った。
扉の前で、再度「失礼します」と声をかけると躊躇う様子もなく部屋を出ていった。
扉が閉まるのを確認して、ユージンへ視線を向ける。
ユージンも私へと視線を向けてくる。
「で、どうする?ケネス」
訊かずとも私の考えていることなど分かっているだろうに。
モーティマー家とも古くからの付き合いだ。
家格の違いからユージンとの付き合いのようにはいかなかったが、リアム様も幼馴染とも言える間柄なのだ。
助けない選択肢などない。
ルイーズの言葉が真実であっても、なくても、確かめる必要はある。
「団長に報告して、明日にでも早急にモーティマー家へ向かう。私たちの目でイアンという侍従を確かめよう」
私の言葉にユージンはニッと笑うと「ああ」と短く返事を返す。
私とユージンはそろって騎士団長室へと急いだ──。
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