10.協力者or好敵手?
ジェイクに、2人背中を押すように客間に押し込められ、ソファに座るよう促される。
「……」
ジェイクとセレスさんが向かい合うように腰を降ろす。
迷いなく座る2人を見ながら、私は途方に暮れてしまった。
…私はどこに座るべきなんだろうか…。
立ち尽くす私を見上げると、ジェイクは早く座れと言うように、ジェイクの隣をポンポンと叩く。
隣に座ってしまっていいんだろうかと、私は、セレスさんの方をチラリと見るが、特に気にしてる様子はないので、私は素直にジェイクの隣に腰を降ろした。
「さっきも言ったが、セレス。お前に頼みたいことがある」
私が座ったのを確認すると、ジェイクが徐に口を開く。
ジェイクの様子が真剣みを帯びているからか、セレスさんは先ほどとは打って変わって、静かにジェイクを見つめていた。
「理由は後で話すが、まずは頼みたい内容だ」
ジェイクの言葉に、セレスさんは目だけで「何だ、早く言え」と訴えているように見える。
それを受けて、ジェイクももったいぶるようなこともなく、さらりと言葉を続ける。
「しばらくの間、俺がいない時にルイーズの護衛を頼みたい」
「……えっ?」
一瞬の間をおいて、間抜けな声を漏らしたのは私だった。
まさかジェイクの口からそんな頼みがされると思わなかった私は、慌ててジェイクとセレスさんを交互に見やる。
ジェイクとセレスさんは目で会話してるのかと思う程、真剣に見つめ合っていた。
どうして…と言葉を紡ごうと、口を開きかけた私より早く、今度はセレスさんが口を開いた。
「理由による」
ただ一言の返事だったけれど、けっして断ること前提の返事には聞こえなかった。
その返事を聞いたジェイクは私の方へ視線を向けると、真っ直ぐな瞳で私を見つめ、私に同意を求めるように話し始めた。
「ルイーズ。セレスは強い。女でありながら、普通の男どころか、訓練された兵士であっても倒せる程強い。本当なら俺が常にお前を守ってやりたいが、騎士として勤める以上、ずっとお前の傍にいてやることはできない。だから、俺はセレスにお前の護衛を頼みたいと思っている。セレスが納得してくれるよう、お前の事情を彼女に話したいのだが、許可してくれるか?」
一息に続けられたその言葉に、すぐに返事をすべきことは分かっているけれど、そこに含まれていた思わぬ言葉に一瞬
けれど、返事を待たれていることに気付き、すぐに頷き返した。
それを確認すると、ジェイクは説明を待っていたセレスさんに向かって話し始める。
私が前世の境遇から身に着けた力、そして今日あった全てを──。
「…なるほど」
一通り話し終えると、セレスさんは短く、息を吐くように呟いた。
そして、話を聞く間ずっと視線を向けていたジェイクから私へと視線を移し、一つ大きく頷いた。
「分かった。ルイーズの護衛、引き受けよう」
セレスさんがそう言うと、隣でジェイクが僅か身を乗り出し「ありがとうセレス!」と声をあげた。
それを手で制し、セレスさんは更に続けて私に向けて話し出す。
「だがその前に、私の事情もルイーズに話しておくべきだろう。ルイーズの事情だけを聞いて、私のことを話さないのは不公平だ。それに聞けば納得もいくだろう」
セレスさんの言葉に、確かに私も"転写者"でありながら、とても強いというセレスさんについて、疑問は沢山あり、事情を話してくれるというのなら有難いと感じ、頷き返すことで返事をした。
それを受けて、セレスさんは自分がどうして"転写"されてここへ来たのか、
「私は、前世では格闘技の選手だった。格闘技と言っても色々種類はあるが、身体を動かすことが好きで、殆どの格闘術、武術は極めていた。父もその道の人間で、女である私にも拘りなく、色々なことを教えてくれた。まあ、おかげで、それは何の技だと訊かれれば、分からないほど今は混ざってしまっているがな。だが、まあ、前世では試合などでも上位を維持できる程にはなっていたのだが、ある時命に係わる病にかかってな。当時の先端医療でも回復は見込めなかった。…あとは分かるだろう。プロとしてやっていたから、金は使いきれぬ程あった。まあ、その金で命は救えなかったがな。そうして、今ここにこうしているという訳だ」
そこで、一旦言葉を切ると、今度はジェイクへと視線を向け、ジェイクを見つめながらもどこか違うところを見ているように、先を続けた。
「そして、この世界に来て、とりあえず食べ物を買おうとして、店の親父に値切り倒していたところ、ジェイクに声をかけられた」
当時を思い出したのか、くっと笑いを漏らし、少しだけ顔を俯ける。
「暫く、この近所で、ジェイクたち家族にも世話になりながら過ごしていたのだが、この世界を色々見てみたくてな、暫く旅に出ていたのだが、久しぶりに戻ってきたところにこの話という訳だ」
私に視線を戻し、楽しそうに語る彼女の言葉に厭味は感じられない。
それどころか本当に楽しそうに「本当に"良いところ"へ帰ってきたな!」とニカッと笑って見せた。
その姿は、本当に裏表のない"武"に生きる人なのだなと感じさせる。
セレスさんの言葉に、ジェイクも嬉しそうに「ああ!本当に良いところへ帰って来てくれた」と相槌を打っている。
2人の心遣いに、昼間の恐怖などどこへいったのかと思う程、心が温かく、落ち着いた気持ちになった。
「ありがとうございます、セレスさん。そして、ジェイクも。本当にありがとう」
私は体を隣と斜め向かいに座る2人に向くよう、僅か斜めに向け、深々と頭を下げた。
それを受け、2人は同時に「礼などいらん」「礼など必要ない」と声をあげる。
それにつられて頭を上げると、セレスさんが何か思い出したように、僅かに私の方へ体を向けなおし口を開いた。
「それより!まだ自己紹介をしていなかったな。私の名はセレス・チェスタートン。17歳だ。さん付けは必要ない。セレスと呼んでくれ」
「あ…。ルイーズ・クリスティ。16歳です。改めてよろしくお願いします、セレス」
「ところで、気になっていたんだが…」
お互いに改めて自己紹介をした後、セレスが私とジェイクを交互に見やりながら考える風に言葉を続ける。
何か、先程の話で気になることでもあったのだろうか?
少し首を傾げ、言葉の続きを待つと、セレスは人差し指を軽く曲げた状態で唇の下に当て、私と同じように少しだけ首を傾げる。
「ジェイク。ルイーズはお前の彼女なのか?」
今の話の流れの中に、いったいどこにその要素があったの?
「ちっ、違います!」「違う!」
慌てた私たちの言葉は重なり、ジェイクも私もテーブルに手をついて腰を浮かせてしまった。
「そうなのか?私はてっきり、私が旅に出ている間にジェイクに
続けられた言葉に、理解が追い付かず、私もジェイクも「えっ?」「はっ?」と短な声だけが漏れる。
「私はジェイクのことを好ましく思っている。旅に出て、離れてみて気が付いた。だからこうして戻ってきたのだ」
「………」
「………」
直球な告白に、ジェイクも私も言葉が出ず、ポスンと音を立てて、ソファに腰を落とした―。
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