9.チクチク、モヤモヤ…?
ジェイクの家族に温かく迎えらえれ、食事を…と言っているところへジェイクのお父様も帰ってこられた。
ジェイクは、今までも家で私の話をよくしていたらしく、お父様もお母様もすごく嬉しそうに色々な話をしてくださった。
コリンとトリシャも懐いてくれて、一緒に食事をとった後、散々一緒に遊ぼうと誘われたが、ジェイクが「大事な話があるから」と2人を私から引き離し、私は二階にあるジェイクの部屋へと連れていかれた。
「…さて」
私にベッドに腰掛けるように勧め、自分は椅子に反対向きに座り、椅子の背に腕を組んで乗せ私に向かい合うと、ジェイクは「話してくれるよな?」と目で訴えかけてくる。
家に着いてからはいつものような柔らかな雰囲気に戻っていたのに、向かい合った彼は、また帰り道のように少し怒っているような空気を纏っている。
騎士勤め初日だというのに、迷惑をかけてしまったのだから、怒らせてしまったのも当然だ。
申し訳ない気持ちになりながら、私は深く息を吐いた。
迷惑をかけてしまったジェイクには、知る権利がある。
私は意を決して、今日一日の出来事を話し始めた。
職業紹介所でジーンに声をかけられたところから──。
ジェイクは私が話し終わるまで、黙って話を聞いてくれていた。
途中口をはさみたいところがあったみたいだけれど、言葉を飲みこみ、ただじっと私の話に耳を傾けてくれていた。
「──それで、馬車には戻らず、イアンに気づかれないように小道を通って帰ろうとしてたところだったの」
ジェイクが小道で私を見つけたところまでを話し終えると、ジェイクは器用に椅子の背に肘をつき組んだ手に顎をつき大きく息を吐いた。
「…なるほど。思うところも、言いたいこともいっぱいあるが、とりあえず状況は分かった」
物凄く文句言いたげな棘のある口調でそう言うと、ジェイクはゆっくりと椅子から立ち上がり、私の隣まで来るとボスンッと音を立ててベッドに腰かけた。
そして、私の背後から腕を回し、私の頭を抱き込むと、彼の肩に頭が乗るように優しく引き寄せた。
もう何度も、抱き寄せ、抱きしめられているとは言え、このシチュエーションで、この体制は流石に非常に恥ずかしい。
私は慌てて手をついて体を起こそうとするけれど、距離がなさ過ぎて、ベッドにつくつもりだった手がジェイクの太ももに触れ、余計に気恥ずかしさが増してしまう。
「あのっ、ジェイク…」
慌てて声をかけようとした私の言葉を遮るように、隣からふぅっと息を吐く音が聞こえる。
「ルイーズ」
優しく名前を呼ばれ、思わず体が固まる。
「…頼むから、もう少し俺を頼ってくれ」
切なげに呟かれた言葉に、思わず無理矢理に頭を上げてしまうと、戸惑ったような表情のジェイクと間近で目が合った。
あまりの距離の近さに慌てて目を逸らそうとするけれど、ジェイクに真っ直ぐに見つめられ、目を逸らすことができない。
何を喋ったらいいのか、どうしたらいいのか、焦る頭で考えるけれど、考えが纏まるどころか身動きが取れず、ただ感じたこともないほど顔が熱くなってくる感覚だけがはっきりとあった。
どれくらいの間そうして見つめ合っていたのか、息の仕方も瞬きの仕方も忘れてしまいそうになっていた私がゆっくりと瞬きをした瞬間、頭に置かれていたジェイクの手がピクリと動いた。
その手に力がかかったと思った瞬間──
コンコン
ノックの音と共に扉の向こうからお母様の声が聞こえてきた。
「ジェイク、セレスちゃんが帰ってきたわよ!」
その言葉に、ジェイクはバッと勢いよく立ち上がり、扉へと向かった。
「セレスが?本当か!?」
扉の向こうへ駆け出すジェイクの背中を確認して、私はポスンとそのままベッドに倒れこんだ。
……心臓に悪い…。
ええと…
ええと…
今のは別に深い意味はないわよね。
そうよね。
ジェイクだもの。
きっと、本当に私のことを心配してくれて…。
だって、ほら。セレスさん?が帰ってきたって聞いたらとんで行ってしまったもの。
…セレス…さん?
彼女さんかしら?
あ…!
だったら、私ここにいたら不味いわよね。
えと…とりあえず居間へ移動したらいいかしら?
自分を落ち着かせようと、混乱する頭であれこれ考え、熱くなった頬を両手で挟み、私はベッドから立ち上がった。
そして、また賑やかになった居間へゆっくりと降りて行った。
開いている扉から賑やかな居間をそおっと覗き込むと、家族全員で誰かを取り囲むように立っている様子が伺えた。
私が、入って良いものか悩んでいると、お母様が振り返り、私に手招きしてくれた。
招かれるまま素直にその輪に近づくと、輪の中心には私と同じくらいの背丈の美人が立っていた。
クロフォード家の人たちと同じ、綺麗な金色の長い髪をまとめ、ポニーテールに結ってある。
瞳は綺麗な碧色で、どこかのお姫様かと思う程、美しく、凛としていた。
「ルイーズさん、この子はセレスちゃん。この子も"転写者"なのよ」
お母様がそう言うと、セレスちゃんと呼ばれた彼女が私より先に反応する。
「ほお。あんた"転生者"なのか!」
その容姿からは想像もつかない言葉遣いで声をかけられ、思わずパチパチと目を瞬く。
そんな私の様子にはお構いなしに、彼女は私の両肩に手をかけ、楽しそうに話しかけてくる。
「ということは、あんたもジェイクに助けられた口か」
肩にかけた手で、バシバシと両肩を叩き、可笑し気に笑う姿に呆気にとられてしまう。
あんたも…助けられた口…ということは、セレスさんもジェイクに助けられた?
…私以外にも声をかけていたのね。
当たり前よね。
ジェイクは優しい人だもの…。
可笑し気に笑いながら、話を続けるセレスの言葉に、なぜだか僅かに胸がチクリと痛む。
変わらず、私の様子などお構いなしの彼女は「あんた名前は?」「今、何してるんだ?」と質問攻めにする勢いで言葉を継いでいく。
「…ルイーズ。ルイーズ・クリスティです」
辛うじて名前だけ告げた所で、ジェイクがセレスさんを私から引きはがした。
「セレス、ルイーズが困ってるだろ。ちょっと落ち着け」
そう言って、セレスさんの横に並んで、彼女の肩を抱くように掴んで数歩下がる。
その瞬間に、ものすごくモヤモヤとした気持ちが沸き起こり、私は思わず2人から視線を逸らした。
この場から逃げ出してしまいたいような気持ちにもなったけれど、そういう訳にもいかず、私はその場で立ち尽くしてしまう。
「ところでセレス。ちょうど良いところへ帰ってきてくれた。お前に頼みがあるんだ」
セレスさんの肩を掴んでいたジェイクの手をセレスさんが叩き払いのけるのも気にせず、ジェイクはチラリとだけ私に視線をよこしてから、セレスさんに向き直った。
セレスさんがジェイクのその言葉に「何だよ?」とぶっきらぼうに訊ねると、なぜかジェイクはその場でぐるりと全員を見回し、セレスさん、そして私へと視線を向け「ちょっと3人で話したい。客間へ来てくれ」と声をかけた。
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