第20話 力を一つに!3

 突然後ろから声をかけられ、私たちは飛び上がった。

「惺也かぁ……」

「おぅ」

 いきなり話に入ってくんな。

「なんで理輝くんがたおれないって言えるの? 惺也は心配じゃない?」

「あ? 別に?」

「友だちなのに、薄情……」

「お前らこそ、理輝に失礼じゃね?」

 失礼?

「あいつ今、夢に向かって必死にがんばってんじゃん」

「!」

「夢のためにがんばる時って、体が疲れても、心の底から無限にパワーわいてこねぇ?」

「……」

「オレだとさ、例えば本気で走ってる時に、『苦しそう! 休んだほうがいいよ』とか言われるとスッゲェなえる。それより『かっこいい! がんばれ!』って言われた方がうれしいし力になる」

「スポーツマンの郷田くんらしいね」

「でも『かっこいい』は関係なくない?」

「うっせぇな、言われた方がパワーわいてくるんだよ!」

 うん、そうだね。

 私はもう1度理輝くんを見る。

 確かに少しやつれた感じだ。

 けれど。

「理輝くんの目、かがやいてるね」

「うん、たしかに」

 かっこいい、かもしれない。

 目標に向かって、挑戦しつづけている人の瞳だ。

「今は、オレらに手伝えることがねぇからな」

 惺也も理輝くんを見る。

「見守ることしかできねぇのは、オレだって歯がゆいけど」

「うん……」

「けど、理輝はオレらの力全部まとめて、すごいもん作るはずだ」

 惺也がニッと笑った。

「今は待とうぜ。オレらのリーダーをさ」

――できれば世界中の人にプレイしてもらいたい。ゲームクリエイターになって――

――だから見せつけてやるんだ、このコンテストで結果を出して――

 あの時の、夢を語っていた理輝くんの声が、耳の奥によみがえる。

「うん、そうだね」

(少しさびしいけど)

 理輝くんは今、夢に向かってがんばってる最中なんだから。

 みんなの輪の中心にいた理輝くんが、私たちの視線に気づいたのかこちらを向く。

 笑って手をふる理輝くんに、私たち3人も同じように返した。


 それからまた1ヶ月以上過ぎて、夏休みは半ばにさしかかっていた。

(理輝くん、今ごろどうしてるかな……)

 一学期の間はまだ学校で会えたし、会話もできた。

 けれど夏休みに入ると、そうもいかない。

(毎週土曜日に待ち合わせるの、楽しかったなぁ……)

 理輝くんの家の場所はもう覚えてる。

 実は、夏休みに入ってから何度も様子を見に行こうと考えた。

 そしてそのたびに、「じゃまをしちゃいけない」って思い直して……。

「はぁ……」

 つい、ため息がもれる。

「理輝くんに会いたいなぁ……」

 その時、スマホの着信音が聞こえてきた。

 私はのろのろと手をのばし、画面を見る。

 その瞬間息を飲んだ。

「えっ? 理輝くん!?」

 グループ通話になってる。

 私はあわててタップした。

『あ、明日果ちゃん? ひさしぶり!』

「ひさしぶり、理輝くん。急にどうしたの?」

『ゲームの入力、終わったよ!』

「えっ、本当に!?」

 スマホごしに聞こえてきた理輝くんのはずんだ声。

 何だかなつかしくて、ちょっと泣きたくなった。

 ワンテンポおくれて、かなたと惺也も通話に参加してくる。

 理輝くんが入力作業を終えたと聞いて、私たちの間から自然とはくしゅが起こった。

「やったね、理輝くん!」

『おめでとう!』

『おぅ、おつかれ!』

「じゃあ、あとはコンテストに送るだけ?」

 私の問いに返ってきたのは、意外な言葉だった。

『え? まだだよ』

「? 完成したんだよね?」

『テストプレイしてないから』

「てすとぷれい?」

『なんだ明日果、知らねぇの?』

 割り込むように、惺也の声が入る。

『入力したら、今度は最初から最後までプレイして、バグがないか探すんだよ』

「ばく?」

『間違ってる部分のこと。通れないはずの場所が通れたり、同じ音が繰り返し流れて止まらなかったり。そういうの『バグ』っていうんだ。明日果、そんなことも知らねぇの?』

「知らないよ、ゲーム作りなんて初めてだもん」

『テストプレイは人数が多い方がいい。オレらに協力してほしいんだろ? 理輝』

『うん。でも用事があるなら無理しなくていいよ。僕ひとりでもできるし』

『今さら遠慮えんりょすんな。いつそっちの家に行けばいい?』

『そうだね。今週の土曜はどう?』

『OK、じゃ、土曜な』

『あっ、カナも行けるよ』

「うん、私も問題なし!」

『ありがとう、みんな。じゃあ、土曜日。いつもの待ち合わせ場所で』

 通話が終了する。

一呼吸おいて、急に胸がドキドキしてきた。

(ゲーム、ついに出来たんだ……!)

 私の書いた物語が、人の手で動く。

 もしかすると、それはネットを通じて世界中の人たちのもとへも。

(それって、すごい!)

 私はベッドに寝ころぶと、ゴロゴロと転がった。

(それに……)

 胸の高鳴りをおさえこむように、自分の体をギュッとだきしめる。

(理輝くんに会えるんだ。ひさしぶりに……!)

 終業式から2週間。

 本来なら、夏休みが明けるまで会えないはずの理輝くんと。

(夏休みに、待ち合わせして会えるなんて)

 ドキドキが早くて苦しくて、大きく1度息をはく。

(土曜日が楽しみだなぁ……)

 両手でほおをおさえても、勝手に笑ってしまう。

「そうだ!」

 私はあわててはね起きる。

 クローゼットを開いて中身をチェックした。

(どの服を着て行こうかな)

 初めて理輝くんの家に行った日の、フワフワした気持ちを思い出す。

「~♪」

 自然と口から流れ出したメロディー。

 それは『タケトリノツバサ』のタイトル画面で流れたあのBGMだった。


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