第19話 力を一つに!2

 私とかなたは、勢いよく首をめぐらせ惺也を見る。

「惺也、の声、なの?」

「だったら悪いか」

「……」

「おい、だまんな。なんか言え」

「今の、ツクヨのバトルの時のセリフだよね?」

「おぅ」

「すごく、合ってた……」

「!」

「惺也、天才すぎない?」

「……」

 惺也は私から目をそらし、薄紅色うすべにいろに染まったほっぺをポリポリとかく。

 そして次の瞬間、スイッチが入ったように笑いだした。

「まっ、オレは天才ですから? あれくらいヨユーですし?」

 赤い顔のまま、両手をこしに当てて胸を反らし、ガハガハとわざとらしく笑いつづけている。

「ひょっとして、惺也、照れてんのかな?」

「かもね。郷田くん、ちょっとかわいいかも」

「うっせーわ!! かわいいとか、いらねーし!」

「よかったね、惺也」

 理輝くんがうれしそうに笑って、惺也の肩に手をやる。

「僕の思った通りだ。惺也のお芝居は、たくさんの人をおどろかせて感動させるよ!」

「ちっ」

「でも理輝くん」

 私は1つの疑問をぶつける。

「どうして惺也の声が、もうゲームに入ってるの?」

「今日の午前中に、ウチに来てったんだよ」

「朝のうちに?」

「うん。まだバトルのとオープニングの分しか録ってないけどね」

 理輝くんのサクランボのようなくちびるが近づき、私の耳にささやく。

「明日果ちゃんのシナリオ読んで、待ちきれなかったみたい。演技がしたくて」

「ぇえ!?」

「おい理輝、聞こえてんぞ!」

 惺也の腕がのびると、理輝くんを私から引きはがす。

 そのままはがいじめにしてずるずると引きずっていく。

「あはは、痛いよ惺也。ギブギブ!」

「うるせぇ、お前がよけいなことしゃべるからだ!」

 楽しげにはしゃぐ2人を見て、私はつい笑ってしまう。

(よかった……)

 理輝くんと惺也が、仲直りして。

 前と同じように、笑い合えるようになって。

 あの日、2人の間の空気が変になってしまったことに、少し責任を感じていたから。

「ねぇ」

 明るい空気の中、1人冷静なかなたが、やや不満げな声を上げる。

「カナ、ゲームのつづきを見たいんだけど」

「あぁ、ごめんごめん」

 惺也から解放してもらい、理輝くんはPCの前に戻る。

「入力できたのはまだオープニングのみだけどね。じゃ、つづきするよ」

 マウスにふれる理輝くんの指が動くたび、目の前にファンタジックな世界が広がる。

 私の生み出した物語に、かなたのイラストが色どりをそえ、そこに惺也の声が命を吹き込んでる。

(すごい……!)

そ してその全てを指揮しているのが理輝くんだ。

(私の書いた小説が……、アニメになったみたい!)

 私1人の頭の中の空想上の存在だったキャラクター。

 それが厚みや体温を手に入れて、私以外のだれかにも見える現実世界に飛び出した感じ。

 今まで味わったことのない感動が、心の奥底からわき上がってくる。

(自分の書いた物語がゲームになるのって、こんなに楽しいんだ……!)


 ゲームのオープニングを見せてもらった日から、もう2週間が過ぎた。

 あれからメンバー全員、理輝くんの家に集まってない。

「入力は1人の作業になるし、集中したいから」

 そう、理輝くんが言ったから。

(今、ゲーム作り、どんな状態なのかな)

 私とかなたは、教室の後ろでたくさんの子に囲まれて笑ってる理輝くんを見る。

 パーフェクトで、カリスマ性にあふれてて。

 それなのに親しみがあってみんなに人気者の理輝くん。

「新川くん、ちょっとやつれたよね」

「うん……」

 理輝くんの目の下に、うっすらとクマが見える。

「だいじょうぶかな、理輝くん……」

 そうつぶやきながら、私の心にはもう1つの気持ちがわきあがっていた。

(さびしいな……)

 別に、理輝くんと話せなくなったわけじゃない。

 毎日、学校では顔を合わせるし、クラスメイト同士のふつうの会話もしてる。

(でも……)

 理輝くんにスカウトされてからの1ヶ月と少しが楽しすぎたから。

 毎週木曜の児童会室、毎週土曜の理輝くんの家でのヒミツの打ち合わせ。

 他の人の知らない、理輝くんとのナイショで特別な2人だけの時間。

 それは私にとって、とても大切で幸せなひとときになっていた。

(もう一度、あの時に戻りたい……)

「さびしそうだね、明日果」

「えっ?」

 突然かなたに図星をつかれて、ドキッとなる。

「そう見える?」

「見える」

「そんなこと、ないよ……」

「そう? カナはさびしいよ?」

「えっ?」

「自分の描いた絵が動くの見るなんて初めてだったもん。もう一度見たい」

 あ、そっちか。

 かなた的には、お祭りから追い出されたようなさびしさなんだ。

(私のはちょっぴりちがうんだよね……)

 私はかなたに気づかれないよう、ほっと息をついた。

「ゲーム作るのって楽しいけど、あんなに大変とは思わなかったね」

 私の言葉に、かなたはうんうんとうなずく。

 2週間前を思い出す。

 タイトル画面のボタンの音の変更。

 あれだけで15分はかかった。

 それからキャラクターの動きや位置を調整したり。

 雰囲気を盛り上げるために数秒「シーン」となる場面を入れたり。

 効果音を入れるタイミングを変えたり。

 イメージ通りのBGMを見つけるために、無料の音楽素材サイトを探したり。

 ほんの数分しかないオープニングを調整するのに、あの日は午後いっぱい使ったのだから。

「短編だけど、物語全部になるとあのオープニングの何倍ものボリュームなんだよね」

 私はほおづえをついて、目をふせる。

「理輝くん、コンテストに間に合うかな」

「だよね。それに、新川くん1人で無理してたおれたりしないかな」

「たおれねーよ」

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