第18話 力を一つに!1

 マウスのカチリという音とともに、ウィンドウがひとつ開く。

「あ……!」

 思わず声を上げた。

 背に翼を持つ少女が、ホタルの光のようなものに手をのばしているイラスト。

 そこに『タケトリノツバサ』というタイトルが重なっていた。

 画面の左下には『はじめから』『つづきから』というボタンが見える。

「この音楽……」

 神秘的で透明感のあるメロディー。

 それでいてこれから何が始まるんだろうと、広がりを感じさせるBGM。

「タイトル画面はこんな感じにしたけど、明日果ちゃんどうかな?」

「すごく、いいと思う!」

「よかった。惺也と榎原さんは?」

「ま、いんじゃね?」

「うん、カナもそう思う」

「よし。じゃ、オープニングに行くよ」

 矢印の形のカーソルが動いて、『はじめから』のボタンを押す。

 『ピコン』という電子音がした。

「あ、今のちょっと」

 いきなり、惺也がストップをかけた。

「そのボタン押した時の『ピコン』って音、変えた方がよくね?」

「例えば?」

「なんか……今の音はSFって感じだったから、もっとファンタジーっぽいのがいいんじゃねぇかな」

「ファンタジーの……」

 言いながら、理輝くんはゲーム画面を閉じ、RPGバースの上に並んでる歯車のアイコンを押す。

 『システム』画面が開くと、理輝くんは『効果音』ボタンを押した。

「じゃあ、今から色んな音を鳴らすね。これだ!って音があったらみんな教えて」

 OK!と、私たちは音に耳を集中させる。

 『コッ』『ぷよっ』『ヒュオォオン』『ピルリ~ン』『ココォン……』

(へぇ……)

 次から次へ聞こえてくる電子音が、自分の中にイメージを作り上げるのを感じる。

(この音はシンプルだけど頭を使いそうなゲーム、あっ、これはペットと遊ぶゲームの音っぽい? 今聞こえてきたのはホラーって感じ)

 たった1つの音で、こんなに色々想像できるものなんだな、と思っていた時だった。

『シャラァン』

「あっ!」

 私とかなた、惺也が同時に声を上げた。

「ん? これ?」

 理輝くんがもう1度音を鳴らす。

『シャラァン』

「それだ!」

「うん!」

「私もこれがいいと思う!」

 すきとおった虹色のカーテンが開いて、進む道が見えるようなイメージだ。

「OK。今の音に変更したから、もう一度見てみて」

 再びタイトル画面が開かれる。

 かなたのきれいなイラスト、『タケトリノツバサ』の文字、透明感のある音楽。

そして、『はじめから』のボタンを押すと……。

『シャラァン』

「いい!」

「すごくいい!」

 私とかなたは手を取り合ってはしゃぐ。

「惺也はどう思う?」

「あぁ、いんじゃね?」

「よし、じゃあつづけるよ」

 理輝くんの操作で、物語は進む。

 天界の草原でかけ回る主人公のツクヨ。

 行ってはいけないと言われている場所にこっそり遊びに行き、雲のすき間から下界へと落ちてしまう。

 翼が傷つき、飛んで天界へ戻れなくなってしまったツクヨ。

 悲しんでいるツクヨに、1人の少年が近づく。

『ねぇ、どうしたの?』

(えっ?)

 繊細せんさいでやわらかな、ハイトーンの声がPCから聞こえてきた。

 かなたの描いたキュートな少年のイメージにぴったりの。

 おどろいて顔を上げた私に、理輝くんが意味ありげに笑う。

「なに? 明日果ちゃん」

「今、ゲームから声がした?」

「うん、惺也のね」

「えっ!? 今の優しい声、惺也!?」

 私とかなたは惺也を見る。

「……なんだよ」

 きまり悪げにそっぽを向いて、うっすらとほほを染めている。

「こっち見んな」

「だ、だって、今の声……、めちゃくちゃ優しそうな声だったよね? かなた」

「うん、はかない系美少年って感じで、郷田くんの声じゃなかったよね」

「オレの声だよ!」

「はいはい、3人とも、つづけるよ」

 理輝くんがマウスにふれると、画面にかしこそうな顔立ちの少年が現れる。

『いけない。翼が折れてしまったようですね』

 つづいて、ワイルドな少年が走ってくる。

『おい、すげぇ音がしたけど……。うわ、女の子!?』

「あ、今のは郷田くんのいつもの声だ」

「うんうん。でも1コ前の頭よさそうな声も惺也の口から出てるんだよね」

「信じられない」

「うん、びっくり」

「おい、お前ら、失礼すぎんだろ!」

 理輝くんが、とくいげに笑う。

「あまいね、2人とも」

『ボイスデータ』と書かれたウィンドウが、新たに開かれる。

「惺也はこんな声も出せるんだよ」

 理輝くんはその1つを選んでクリックした。

『みんな、負けないで! ヒーリング!』

 はいぃ!?

「女の子の声……にしか聞こえなかったんだけど」

「理輝くん、ひょっとしてこれも……」

「惺也の声」

「うっそでしょおぉ!?」

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