第32話 4人集まれば

 どうしてこうなった?


 期末テストまであと3週間。ほとんどの生徒が2週間前からテスト勉強を意識しだす中、1週間早く僕と里奈りな仁奈になさんと爽井さわいくんで勉強会を開くという話になっていた。

 

 学年トップの里奈りなを筆頭に勉強すれば全員がレベルアップして、成績上位をこの4人で独占しちゃうかもなんて話もしていたはず。


 それが、なぜ僕らは休日に水族館に来ているのだろうか。


「なんかごめん。デートの邪魔しちゃって」


 ジーンズにTシャツという僕と同じシンプルなファッションなのになぜかカッコよく決まっている爽井さわいくんが謝った。


「全然邪魔じゃないよ。むしろ妹とのダブルデートみたいで楽しい」


 太ももどころかお尻の境界線も見えかけているショートパンツが非常に扇情的な里奈りなが元気に答えた。


 爽井さわいくんもいるからなのか胸元はしっかりガードされている。彼氏以外の男の前でノーブラ姿を晒す痴女ではないみたいだ。


「ごめんね純浦すみうらくん」

 

対して妹の仁奈になさんはゆったりしとしたワンピースを身にまとい露出は控えめだ。

 それでも胸の膨らみは隠しきれず豪快な曲線を描いている。

 

 里奈りなは太ももと胸元で視線が分散する一方、仁奈になさんはまず胸元に目が行く。

 露出の多いエッチな格好は助かるけど彼氏としては心配。という考えが覆りつつある。


 あえて露出を多くすることで男の意識を散らせるという高等テクニックを見た。


「テスト3週間前だし、今日は思いっきり遊んで明日から頑張ればいいんじゃないかな」


「それ、絶対に頑張らない人の発言だよ?」


「あたしは堕落した彼氏でも見捨てないから安心してね。むしろダメダメ男になったてるをペットみたいに……」


純浦すみうらと双海さんってそういう感じで付き合ってんだ……」


「違うから! これは里奈りななりのスキンシップというか……僕は勉強も部活もヤル気に溢れてるから!」


 教室でおっぱいに顔を埋めたこともあったけどクラスが別の爽井さわいくんはそれを目撃していない。

 僕と里奈りなの普段のやりとりをこうして見るのは初めてだ。

 

 気恥ずかしと里奈りなの悪ノリが相まって誰かに見られるのは非常にキツい。二人きりならまだ耐えれることも、いつか学校で広まってしまうと考えると胃痛もしてくる。


「っていうか、学校の外だと呼び捨てなんだ」


「あ……」


「そーなの! てるってば恥ずかしがり屋さんだから学校では他人行儀にさん付けなの」


 里奈りなが首に抱き着くと腕がたわわなお胸に吸い込まれていく。

 そして僕は見逃さなかった。


 爽井さわいくんが里奈りなのおっぱいに釘付けになり、すぐさま誤魔化すために視線を逸らした瞬間を。


 うん。大きいものが目の前にあったらつい見ちゃうよね。

 これは男の、いや、人間としての本能なんだよ仁奈になさん。


里奈りな、さすがに友達の前だと恥ずかしい」


「照れ屋なてるもかわいいぞ」


「かわいい言うな!」


「なんか、本当に付き合ってるんだな」


「まあ、うん。いろいろあって」


 部長みたいに嫉妬の炎を燃やすでもなく、シコ太郎みたいにゲスな撮影をするわけでもなく、爽井さわいくんは生暖かい目で見守ってくれている。

 その優しさが逆に僕の心をえぐっていた。


 里奈りなと付き合う前は人前でイチャイチャするカップルに苛立ちを覚えていたけど、いざ自分がイチャつくカップルになると見られるのは恥ずかしい。


 人前で、特に知っている人の前でイチャイチャできるっていうのも一種の才能なのかもしれない。


爽井さわいくんもどう? うちの妹なんて可愛くてオススメだよ?」


「っ!」


 涼しい顔をしていた爽井さわいくんの顔が完熟トマトのように真っ赤に染まった。


「ちょっ! それは」


 里奈りなにオススメされるまでもなく爽井さわいくんは仁奈になさんに告白した過去がある。

 それは里奈りなだって知っているはずなのに妹とくっつけようとするなんてなかなかに空気が読めていない。


「いや~、俺1回告白してフラれてるしなあ」


 爽やかイケメンは笑顔を作って空気を壊さないようにおちゃらける。

 メンタルも強いなんて男の僕でも惚れちゃいそうだ。


「あ、あの時はわたしも恋愛に奥手だったから」


 そんな爽井さわいくんをフォローする仁奈になさんも耳まで赤くなっていた。

 もう一押しあればこのまま付き合ってしまいそうな雰囲気すらある。


「ふむふむ。仁奈になもまんざらでもないと」


「もう! お姉ちゃん!」


「あたしとてるのラブラブっぷりを見てたら二人も付き合いたくなっちゃうかもね。仁奈にな、あたしより素敵な彼氏を見つけるんでしょ?」


里奈りな、それって遠回しに爽井さわいくんの方が素敵って言ってる?」


「なにをもって素敵かは人それぞれ。あたしの一番はてるだよ」


「……くるしい」


 いずれは妹に寝取ってもらいたい彼氏が一番というのはにわかに信じがたいけど、こうして息が苦しくなるくらい力強く抱きしめられるとその言葉にウソはないように感じる。


てる、二人にあたし達の仲が良いところいっぱい見せようね」


「…………」


 おっぱい山脈に迷い込んだ僕の顔は言葉を発することができず、首を縦に動かすことで意志表示をした。


 イチャイチャしている姿を見せるのは恥ずかしいけど、それがきっかけで仁奈になさんと爽井さわいくんが付き合ってくれれば全てが丸く収まる。


 寝取りとかない、みんなが幸せな青春を送る。


 里奈りなの気が変わる前に、仁奈になさんと爽井さわいくんにはカップルになってもらおう。

 そのためならどんな恥だってかいてやる! 

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