第22話 二人で
「
「ああ、うん。まあね。部活の参考になればと思って」
「へえ、剣道もいろいろな本があるんだね」
「歴史は……まあいいかな。技とか練習法の」
「わたしも一緒に見ていい? やるからには上を目指したい」
「もちろん」
とは言ったものの心はザワザワしている。
気になるのは
背表紙のタイトルを見ても内容が全然頭に入ってこない。
あんまり適当な本を手に取るのはおかしいし、何か選ばなきゃと思うと焦りがどんどん募っていく。
「
「え? どれ?」
「さすがにこれは初心者過ぎない? 曲がりなりにも一年はやってきたんだし」
「甘いよ
「そう言われると……でも、もう少し上のステップでもいいんじゃないかな。あ、これは? 基本を見つめ直す教本。僕らみたいのが基本に立ち返る内容みたい」
「たしかにこれいいかも! あ……」
「どうしたの?」
パラパラとページをめくって内容を確認していた
裏表紙、つまり価格が記載されている場所。そこで固まる理由は一つしかない。
「スゴクタカイ」
感情を持たないロボットのように淡々と事実を述べる。
元々は
かなり多めにお金を持ってきてはいたけど
でも、この本を参考に稽古をすれば素敵な彼氏に一歩近づけるかもしれない。
欲しい。けど買うのを躊躇ってしまう。
「ねえ
「うん?」
「もし良かったらなんだけど。この本、二人で一緒に買わない?」
「一緒に?」
「そう。二人でお金を出し合えば値段が半分になるから」
「なるほど。で、みんなで読むと」
半分でも本一冊にしては高い気がするけどだいぶ手を出しやすくなる。
それに部員みんなで読めるようにすれば僕へのヘイトも少し和らぐかもしれない。
「
「え?」
「この本を読むのはわたしと
「この本を貸し借りし合うってこと?」
「うん。部活の時だと他の人に見つかるかもしれないから、待ち合わせしてこっそり。この前LINEも交換できたしね。浮気の噂が心配だったらお姉ちゃん経由でも大丈夫だから」
「それじゃあお言葉に甘えて。でもお金は半分じゃなくて僕がちょっと多めに出すから。彼女の妹にカッコつけさせてよ」
「ふふ。わかった。お姉ちゃんが戻ってくる前にわたし行くね。お金は渡しておくから」
割り勘で買い物をするだけなのに彼女の妹からお金を受け取るというシチュエーションはちょっとクズっぽくって自己嫌悪になった。
「
「うん。また明日」
結局、
実は変装した
自分のほっぺをつねってもただ痛いだけで、どうやら夢ではなかったらしい。
「お待たせ―。
「おかえり。うん。基礎をしっかり固めたいなと思って」
「うんうん。勉強もスポーツも基礎が大切だからね。……なんで千円札を握りしめてるの? 子供のおつかいごっこ?」
「え!? ああ……まあ、そんなとこ」
「子供扱いしないでって言ったわりにノリノリだね。おねショタプレイをご所望ならいつでも応えちゃうよ!」
「ご所望じゃないから! あと、公共の場でおねショタとか言わないの!」
「ダメ? 下ネタじゃないのに」
「下じゃなくても相応しくない言葉だから」
そんなやりとりをしながら
ほんの数分ぶりに感じる彼女のぬくもりはとても安心感があって、どんなに暑かったとしてもいつまでもこうしていたいと思わせる。
「……なにかあった?」
「え?」
「うーん。あたしが居ない間に他の女の子を見てたかなって」
「まさか。ずっと本を選んでたよ」
たまたま
体が触れ合ったりはしていない。
クラスメイトで同じ部活で彼女の妹で……初めて告白した女の子。
ある意味で
そんな
答えは出ないまま、僕は選んだ本を二人で買った。
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