デート①
八月最後の日。それは夏休み最後の日でもあった。
例年だと溜まりに溜まった宿題の山に押し潰されている頃なのだが、今年は違う。全ての宿題を終わらせ、俺は人生初のデートへと出陣していた。
もちろんだが、デートの相手は藤宮先生。俺の許婚だ。
高級レストランで会った日以降、教職業が忙しいとかで会うことは出来ていなかった。メッセージや電話はしてたけど。
だから、今日という日が楽しみすぎて、俺は浮足が立っている。なんならもう浮いてるまである。
その証拠に、待ち合わせの一時間前から来てる始末だ。
俺が駅の人混みを眺めながら、近くの壁にもたれかかっていると、慌ただしい足音が近づいてきた。
見れば、サングラスにマスク。深めの帽子を被った不審な人がいた。
「‥‥‥あ、あれ、もしかして私、時間間違えてた⁉︎」
OH‥‥‥。不審者かと思ったが、俺の許婚だったみたいだ。
「間違えてませんよ。俺が早く来すぎただけです」
「そうなんだ、よかったぁ」
藤宮先生は胸に手を置き、安堵の息を漏らす。
俺も来るのが早かったが、藤宮先生も相当早い。結果的に、待ち合わせ時間の一時間前に集合してしまっている。
「聞いていいのかわかんないですけど、聞いていいですか?」
「ん、なに?」
「なんですかその格好‥‥‥なんでサングラスにマスクまで‥‥‥」
「あ、これは身バレ防止だよ。もし、知ってる人に見つかるとマズイと思って」
確かに、生徒と教師が休日に一緒にいるのが判明したら、問題になりかねない。
藤宮先生の配慮はごもっともだし、俺もデートする前に気がつくべきだった。
が、
「確かにその通りですけど、悪目立ちしますよ‥‥‥。せめてサングラスは取ってください」
「え、取って大丈夫かな」
「むしろ取らない方が問題です」
「えー、うん、でも」
日本でサングラスをつける人は稀だ。その上、マスクに帽子まで被っていたら、人間不信のこの国では後ろ指をさされかねない。
だが、藤宮先生はいつまで経っても取ろうとしない。見かねた俺は、隙を見てサングラスを外した。
「あ、そんないきなり‥‥‥」
「大丈夫です。マスクと帽子があったら、そんな簡単に気付きませんから」
俺がサングラスを返すと、藤宮先生はショルダーバッグにしまう。
「わかった。じゃあ、行こっか裕太くん」
「はい。‥‥‥でも映画って十時からですよね。まだ九時前ですけど」
待ち合わせ時間に余裕を持ちすぎてしまったため、時間が余っている。
今から映画館に行っても待ちぼうけを喰らうだけだ。
「‥‥‥あっ、言われてみれば」
「どこで時間潰しましょうか‥‥‥」
待ち合わせより、早く来すぎるのも考えものだ。
「じゃあちょっと我儘言ってもいいかな」
「あ、はい。どこか行きたいところありますか」
「じゃあ──」
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